湘南ベルマーレが今年初の無失点勝利。天皇杯・東京V戦で見えた光明と課題
2024年7月12日(金)9時0分 FOOTBALL TRIBE

天皇杯(JFA第104回全日本サッカー選手権大会)の3回戦が、7月10日に各地で行われた。湘南ベルマーレはレモンガススタジアム平塚で東京ヴェルディと対戦。最終スコア1-0で勝利し、4回戦に駒を進めている。
2024年の公式戦初となる無失点勝利を達成した湘南。互いに速攻を連発し、ボールが両チームの陣地を行き来する慌ただしい試合展開となったなかで、チャンスを物にしたのが同クラブだった。迎えた後半21分、同クラブFW福田翔生とMF茨田陽生がヘディングでパスを繋ぐと、これを受けたFW鈴木章斗がペナルティエリア外で右足を振る。このミドルシュートがゴールマウス右側に突き刺さり、これが決勝点となった。
今回の試合で見えた湘南の光明と課題は何か。ここではこの2点に言及する。現地取材で得た同クラブ山口智監督とFW石井久継の試合後コメントも、併せて紹介したい。

気がかりだった湘南の攻撃配置
この試合における両チームの基本布陣は、湘南が[3-1-4-2]で東京Vが[3-4-2-1]。時折吹き荒れる豪雨に視界を奪われる難しい状況のなか、湘南は松村晟怜、大野和成、大岩一貴のDF陣(3センターバック)を起点に攻撃を組み立てた。
湘南のビルドアップ(GKや最終ラインからのパス回し)をチェックするなかで気になったのが、3バックと2インサイドハーフ(池田昌生と茨田陽生の両MF)のパスルートが開通せず、ゆえにウイングバックが最終ライン付近へ降りてボールを受けに来ざるを得ない場面が散見されたことだ。
ウイングバックが自陣後方タッチライン際や味方最終ライン付近でボールを受けた場合、ビルドアップが手詰まりになりやすい。ウイングバックの傍にはタッチラインがあるため、左右どちらかのパスコースが必然的に消える。また、この状態で湘南ウイングバックが相手ウイングバックやサイドハーフに寄せられた場合、パスコースは更に無くなる。これが、ビルドアップ時にウイングバックが下がってボールを受けることのデメリットだ。
こうした事態を避けるために、池田と茨田の2インサイドハーフによるサポートが必要だったが、単純に彼らの位置取りが高すぎて味方3バックとの距離が開く場面がちらほら。必然的に中盤が空洞化した。
この状態でボールを失えば、中盤で相手の攻撃を食い止めるのが難しくなるため、ボールが互いの陣地を行き来する目まぐるしい試合展開になりがち。この日のオープンな試合展開の要因は、湘南の中盤の空洞化だった。
この試合で今年初の無失点勝利を達成したとはいえ、J1リーグでの無失点試合は僅かひとつ。このひとつは最終スコア0-0で引き分けた5月11日の町田ゼルビア戦(J1第13節)であるため、湘南は今季リーグ戦で未だ無失点勝利を達成できていない。総失点数がJ1全20チーム中2番目に多い“38”にまで膨れ上がっている事実を踏まえても、湘南はボールを失った後の守備がしやすい攻撃配置を突き詰めるべきだ。

山口監督の見解は
湘南の山口智監督は、この試合終了後の記者会見で筆者の質問に回答。攻撃時の自チームの最終ライン、中盤、最前線の距離感を問題視しなかったが、2インサイドハーフによるサポートに工夫の余地がある旨をほのめかしている。今年のリーグ戦でもJ2リーグ降格圏の19位に沈んでいる湘南が突き詰めるべき点のひとつは、まさにこれだろう。
ー湘南が攻撃する際の各選手の距離感について伺います。これは私の感想ですが、ビルドアップの際に最終ラインと前線が間延びしている印象を受けました。その状態でボールを失うので、オープンな試合になっているように見えたのですが、監督には最終ライン、中盤、前線の距離感はどう映っていましたか?
「悪くなかったと思います。相手が(1トップと2シャドーの)3人で自分たちの3バックに当たってくるので、そこはあえて(プレスに)来させる形をとりました。ウイングバックのところでの剥がし方、相手3バックのうち、左右のセンターバックの選手の脇のところはポイント(狙いどころ)としてありました」
「間延びと言うよりも、そういうスペースを作って(攻撃する)というところを今トライしています。自分たちのウイングバックが高い位置をとって、相手ウイングバックと駆け引きする。この点はそんなに気にならなかったです。サイドボランチ(インサイドハーフ)のところで、ちょっとボールの引き出し(サポート)が遅れることはあったと思いますけれども、そんなに問題は感じませんでした」

確立されつつある“逃げ切り策”
1点リードで迎えた試合終盤、山口監督は途中出場のDF髙橋直也とMF田中聡を2ボランチで並べ、基本布陣を[3-4-2-1](撤退守備時[5-4-1])に設定。チーム屈指のボール奪取力を誇る髙橋と田中を2ボランチに据えたことで、湘南は中央封鎖に成功している。髙橋と田中を軸とする[3-4-2-1]を、試合終盤の逃げ切り策として使える目処が立ったこと。これは湘南に差し込んだ光明のひとつと言えるだろう。
同じく途中出場の根本凌と石井の両FWも、攻守両面で存在感を発揮。前者は空中戦での安定感がストロングポイントで、この日も守勢に回った自軍のボールの預けどころとなった。
根本と同じくボールの預けどころとして頼もしかったのが石井で、こちらはドリブルの初速の鋭さがセールスポイント。ボールタッチが細かく、いつでもドリブルのコース取りを変えられる状況を作るため、守備者としては同選手の足下に飛び込みにくい。この日も敵陣で鋭いドリブルを披露し、同点ゴールが欲しい東京V陣営を疲弊させた。

「自分が足を引っ張ることがないように」
試合終盤に基本布陣[3-4-2-1]の2シャドーの一角としてプレーした石井は、試合後ミックスゾーンにて筆者の取材に対応。途中出場で心がけた点を明かしてくれた。
ーまず、守備面で心がけたことを教えてください。
「自陣へ下がりすぎないようにしつつ、(自陣で)セカンドボールも拾えるようにしていました。智さん(山口監督)にも言われましたけど、相手がロングボールを蹴ってきたなかで、蹴られた後のプレスバック(帰陣)だったり、ルーズボール(こぼれ球)をマイボールにしたり……。自分はまだまだ足りなかったですけど、そこは意識しました」
ーそれができていたからこその無失点勝利だと思いますし、石井選手の存在感も大きかったように感じました。
「先に出ていた人(先発メンバー)が試合の流れを作ってくれましたし、途中から出てきた自分がチームの足を引っ張ることがないようにしました。自分がボールを奪って、どんどん前に行くことでチームが助かると思っていたので、そこは意識しましたね」
髙橋、田中、根本、石井の4人を軸とする逃げ切り策が功を奏した湘南。この試合での収穫をリーグ戦に活かしたいところだ。