「アロンソにも買ってもらうよ(笑)」F1で提携予定のホンダにも期待【アストンマーティン開発担当に聞く】

2024年8月9日(金)15時20分 AUTOSPORT web

 アストンマーティンが2023年7月に世界初公開した、ブランド創立110周年を記念するモデルの『ASTON MARTIN VALOUR(アストンマーティン・ヴァラー)』。


 このクルマは、最大出力715ps、最大トルク753Nmを発揮する5.2リットルV型12気筒ツインターボエンジンに6速マニュアル・トランスミッション(6MT)を組み合わせた、内燃エンジン(ICE)時代の最後を飾る1台だ。


 さらにその約1年後、アストンマーティンは、同ブランドのF1チームで走るフェルナンド・アロンソの”個人的な依頼”により生まれた限定車『Valiant(ヴァリアント)』を発表し、大きな話題を呼んだ。


 そんなヴァリアントがこの度日本初上陸を果たし、アストンマーティン青山に特別展示されている。それに伴い、アストンマーティンのビスポーク・サービスとしてこのクルマを開発したQ by Aston Martinのトップであるサム・べネッツ氏が来日し、日本メディア向けの取材会を実施。囲み取材や個別のインタビューのなかで、ヴァリアント開発時のアロンソからのリクエストや、2026年からF1でタッグを組むホンダへの期待などを語った。


●アロンソからの挑戦状


──このクルマを開発した経緯を教えてください。


サム・べネッツ(以下、ベネッツ):このクルマは、F1チームのドライバーであるフェルナンド・アロンソからの個人的なリクエストを発端に、公道走行をターゲットにした『ヴァラー』を、より過激なクルマにするために開発した。


『ヴァラー』は、デザインターゲットの90%を公道走行に絞り、残りの10%をトラック走行に充てていたのだが、『ヴァリアント』は真逆の設定で、90%をトラック走行、残りの10%を公道走行向けという方針でデザインしたんだ。

ヴァリアントを開発したQ by Aston Martinのトップであるサム・べネッツ氏


──最初にアロンソからリクエストを受けたときはどのように感じましたか?


ベネッツ:アロンソから、直々の挑戦状をたたきつけられたように感じたよ(笑)。けれど、『これからは、なんだってやっていいんだ』という開放感もあった。


 実際には、僕たち開発チームのファクトリーのすぐとなりにはF1チームもいるので、一緒にCFD(数値流体力学)の解析やパーツ開発の素材などの知見を共有したりしながらともに開発を行った。正直なところ、かなり助けになったと感じているし、F1チームの手を借りられるというのも幸運なことだと思ったよ。


──アロンソは、どのような形で開発に関わっていたのでしょうか。


ベネッツ:最初にアロンソが僕たちにチャレンジ(リクエスト)をしてきて、Q(Q by Aston Martin)はアップデートのイメージを提案した。最初のデザインに彼は満足してくれて、その後は彼自身もデザインの過程を見ていたが、細かな部分をオーダーしたわけではなかったよ。


 そのあとは、彼に走行テストにも同行してもらい、意見交換を行いながら進めていったよ。とくに重視していたのはドライブフィールについてで、トラックでのタイムや速度についてよりも、『マニュアルフィールを最新テクノロジーで味わいたい。F1カーに乗るようにドライブしたい』というようなことをターゲットにして開発した。


 彼のフィードバックはとても明確で驚くほど的を得たものだったのだが、かなり高い目標だったよ。それでも、彼にグッドウッドで乗ってもらった時には、大きく口を開くほどの笑顔を見せてくれたから、満足してくれているんじゃないかな。


──全世界で限定38台生産になるとのことですが、アロンソにはこのクルマをプレゼントするのでしょうか?


ベネッツ:もちろん、アロンソにもこのクルマを手にしてもらう。ただ、それはプレゼントではなくてちゃんと買ってもらう予定だよ(笑)。


 このクルマは、ビスポークサービスで生産する車なので、オーナーの要望に応えたものを届けることになる。過去には、とあるオーナーの『自国の有名な木材をシフトレバーに使いたい』というオーダーにも答えたことがあるし、他にはオーナーが飼われていたペットの体の色に合わせたボディカラーリングを施したこともある。


 こうしたカスタマイゼーションサービスがあるので2台として同じ車は無いし、依頼にはすべて応える。アロンソのモデルも、彼のパーソナリティを組み込んだ特別なモデルになる予定だよ。

集まった日本のメディアへ開発経緯を説明するサム・べネッツ氏


●実は『タイプR』好きな一面も。F1で手を組むホンダへの期待


 さらに、囲み取材後の個別取材のなかではさらなる驚きの話も飛び出した。


ベネッツ:実は僕は、過去にホンダで働いていたことがあるんだ。


──そうだったのですね!アストンマーティンがホンダとF1パワーユニットのワークス契約をしたと聞いた時はいかがでしたか?


ベネッツ:僕個人の感想として聞いてほしいが、本当に嬉しく感じたよ。実を言うと、僕は今FK2型のシビック・タイプRやハイブリッドのNSXを所有しているんだ。


 あとは、EK9型のシビック・タイプRや、S2000なんかも大好きだ。とくにホンダのタイプR、そしてホットハッチのモデルを愛しているよ。なので、ホンダは自分のなかでもとても特別な存在なんだ。


 これも個人の回答として受け取ってほしいが、ホンダは世界最高のエンジンを作っていると思う。なので、F1で協力することができれば、アストンマーティンは目標に限りなく近づくことができると思う。


──妄想の話になりますが、ホンダのエンジンを積んだロードゴーイングカーを作る未来もあるのでしょうか。


ベネッツ:アハハ(苦笑い)、それについては答えられないな。将来のことについては、回答を控えさせていただくよ(笑)


 他にもファミリーカーをスポーティに改造したものを多数所有しているらしく、ホンダでの勤務経験も合わせて日本になじみあるパーソナルを持つサム・べネッツ氏。そんな彼がアロンソからの挑戦をかたちにしてみせた『ヴァリアント』は、アストンマーティン青山に8月30日まで展示中だ。

アストンマーティン・ヴァリアント(フロントビュー)
アストンマーティン・ヴァリアント(リヤビュー)
特別カバーを装着した状態のホイール
特別カバーを外した状態のホイール
F1マシンのデザイン哲学を陥れたというサイドミラー
サイドスカートの後端部分にはエアロダイナミクスを意識した意匠も
アストンマーティン・ヴァリアントに採用された特大リヤスポイラー。スタイリングには80年代のイメージも投影しているとのことだ
スリットの入った部分は開閉が可能で、ヘルメットを含むレーシングギヤを二人分収納できるという
チタンを使用したエキゾーストパイプには、軽量かつサウンドにもこだわったという
厚いドアの内張はフルカーボン仕様だ
トランスミッションを操作するシフトは、構造部分も見えるようにすることで、マシンと対話するかのような感覚を生み出す
ステアリングは、日常使いに役立つスイッチ等は廃された。形状は操作しやすいように真円に近づけたのがこだわりだという


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