天皇杯敗退の湘南ベルマーレ。J1残留に向けたポジティブ要素と課題は【現地取材】
2024年8月23日(金)20時0分 FOOTBALL TRIBE

天皇杯(JFA第104回全日本サッカー選手権大会)の4回戦が、8月21日に各地で行われた。湘南ベルマーレはパナソニックスタジアム吹田にてガンバ大阪と対戦。最終スコア2-3で敗れ、同大会敗退が決まっている。
2024明治安田J1リーグで、J2降格圏(18位以下)との勝ち点差1の17位に沈んでいる湘南。今年のYBCルヴァンカップと天皇杯から姿を消したため、今季終盤はリーグ戦に専念する形となった。
今回のG大阪戦から窺えた、湘南のJ1残留に向けたポジティブな要素と課題は何か。ここではこの点に言及していく。現地取材で得た湘南MF田中聡の試合後コメントも、併せて紹介したい。

奥野耕平が躍動
この試合における両チームの基本布陣は、湘南が[3-1-4-2]でG大阪が[4-2-3-1]。この日気を吐いたのが、インサイドハーフとして先発した湘南MF奥野耕平だった。
G大阪が自陣後方でパスを回した前半10分、奥野が中盤から飛び出し、相手DF福岡将太(センターバック)にプレスをかける。これにより福岡のバックパスを誘うと、湘南がG大阪のパス回しを左サイド(G大阪の右サイド)へ追い込んだ。
その後G大阪のDF中谷進之介(センターバック)の縦パスを、湘南MF山田直輝が奪取。ここから湘南の遅攻が始まると、同クラブMF小野瀬康介の横パスを受けた奥野がペナルティアーク内からミドルシュートを放ち、先制ゴールを挙げた(得点は前半11分)。
このゴールは奥野が中盤から飛び出し、自軍のハイプレスの起点となったことから生まれたもの。これ以降も奥野は自陣と敵陣を行き来し、湘南の守備に貢献した。
守備面で汗をかくだけでなく、自陣と敵陣を行き来してパス回しを司るのも、湘南インサイドハーフに求められる役割。リーグ戦では茨田陽生と池田昌生の両MFがこの役割をこなしており、攻守両面においてこの2人にかかる負担が大きかった。奥野がインサイドハーフとして出色の出来栄えを披露したことは、J1残留争いに巻き込まれている湘南にとってポジティブな要素だ。

良い攻撃配置から生まれた2点目
前半14分にG大阪FW山下諒也のミドルシュートを浴び、湘南は1-1の同点とされたものの、良い攻撃配置から2ゴール目を挙げた。
湘南が自陣後方からパスを回した前半35分、同クラブDF髙橋直也(センターバック)がボールを運び、右サイドに立っていた奥野へパスを送る。その後G大阪最終ラインの背後へ走ったDF岡本拓也(右ウイングバック)が奥野のパスを受けると、ゴール前へクロスボールを供給。これにFW鈴木章斗が右足で合わせ、ゴールネットを揺らした。
ここではセンターバック髙橋とウイングバック岡本の間へ奥野がタイミング良く降りたことで、右サイドへのパスルートが開通。センターバックとウイングバックの距離が開きすぎることで、パス回しが困難になる場面が直近のリーグ戦で散見されたものの、この試合ではインサイドハーフ奥野の好判断から素晴らしいゴールが生まれた。
また、髙橋がボールを運ぶ直前には中盤の底の田中聡が最終ライン付近へ降りることで、G大阪MF山田康太を幻惑。キックオフ直後からトップ下の山田康太が田中聡に張り付き、湘南最終ラインからのパス回しを妨害していたが、田中が突如ここへ降りたためG大阪はハイプレスのかけ始めのタイミングを逸した。奥野と田中がこのゴールの起点と言えるだろう。

「『落ちなくていい』と監督から言われた」
試合後ミックスゾーンにて筆者の取材に応じた田中は、前述の立ち位置の意図を明かしてくれている。湘南の山口智監督から求められているプレーとは違ったようだが、田中の咄嗟の判断が2点目に繋がったのは確かだ。
ー湘南の2点目について伺います。山田康太選手が田中選手に張り付いていましたが、あの場面で田中選手が最終ラインに降りたことで、G大阪のハイプレスに迷いが生まれたように見受けられました。何を感じてあの立ち位置をとったのでしょうか。
「ずっとマンマークされていたので、どうにかボールを受けないとと思い、(最終ラインに)落ちてみました。そうしたら右サイドで(攻撃を)うまく展開できましたね。ただ、あの後監督から『落ちなくていい。マンマークされたままでいいから、良いポジションをとり続けなさい』と言われました」
ー良いポジションとは、たとえば相手チームが2トップであれば、その後ろということでしょうか。先日の柏レイソル戦(8月17日J1第27節)では田中選手が相手2トップの背後、且つ2人の中間にあたる位置に立っていましたよね。これはご自身のなかで意識していますか。
「そうですね。自分が2トップの後ろに立つことで相手が迷うので。2トップが自分のところに来れば(マークに付けば)味方のセンターバックがフリーになりますし、2トップがセンターバックのところへ行けば、自分(田中自身)が空く。そういう立ち位置を意識しています」
ー相手チームの前線が田中選手に引きつけられると、(湘南の)インサイドハーフが降りてボールを受けやすいですよね。この点はいかがでしょうか。
「そうですね。自分のところに選手が密集すれば、周りが空いてきます。周り(の選手)をうまく活かしながら、今後も(良い)立ち位置を続けたいなと思います」

改善すべきはセットプレーの守備
この試合で浮き彫りになった湘南の課題は、脆弱なセットプレー(※1)の守備。前半41分、G大阪が湘南の陣地でフリーキックを得ると、MF鈴木徳真のキックにヘディングで合わせたDF福岡がゴールゲット。2-2の同点で迎えた後半31分には、鈴木徳真のコーナーキックに中谷がヘディングで合わせ、決勝ゴールを挙げている。湘南は一度勝ち越しながら、セットプレーでの2失点でみすみす勝利を逃した。
ミックスゾーンにおける筆者とのやり取りのなかで、田中は自軍のセットプレーの守備に言及している。今の守備のやり方は変えずに、その練度を高めていく方針のようだ。
ー湘南のセットプレーの守備について伺います。相手選手がゾーンディフェンス(※2)の外側から助走をつけてゴール前へ飛び込んできたときに、守備の脆さを感じます。田中選手はどう感じていますか。
「セットプレーでの失点が一番もったいないです。ただ、ゾーンで守るのが(湘南の今の)やり方なので仕方がないです。自分のエリア(担当エリア)に来たボールを跳ね返せないと、失点に繋がってしまうと思います」
ー今の守備のやり方は変えずに、それを磨き上げるという方針でしょうか。
「そうですね。もっとボールにタイトに行ければ失点は減ると思います」
湘南が相手セットプレー時に敷いているゾーンディフェンスのデメリットは、この守備網の外側からゴール前へ走り込んでくる相手選手の捕捉が難しいこと。ゴール前で立ち止まった状態から守備をする湘南の選手と、勢いをつけてゴール前へ侵入してくる相手選手とでは、競り合いにおいて後者に分がある。今回のG大阪戦3失点目のシーンでも、湘南はゾーンディフェンスの外側からゴール前へ侵入してくる中谷を捕まえられなかった。
今季J1リーグで湘南はセットプレーから多くの失点を喫しており、これが勝ち点取りこぼしの一因となっている。セットプレーの守備の練度向上が急務だ。
(※1)コーナーキックやフリーキックなど、試合再開に際しボールをセットして行うプレーのこと。(※2)各選手が自分の担当区域に入ってきた相手選手をマークする守備戦術。