物を言った川崎Fの緻密なプレス。福岡に足りなかった工夫は【天皇杯準決勝】

2023年10月9日(月)14時30分 FOOTBALL TRIBE

MF脇坂泰斗(左)DF宮大樹(右)写真:Getty Images

天皇杯JFA第103回全日本サッカー選手権大会の準決勝が、10月8日に行われた。準決勝第2試合で、川崎フロンターレがアビスパ福岡に4-2で勝利。12月9日の決勝に駒を進めている。


ここでは、等々力陸上競技場にて行われた準決勝第2試合を振り返り、川崎FのMF脇坂泰斗や福岡の長谷部茂利監督の試合後コメントを紹介しながら、両軍のパフォーマンスを論評する。




川崎フロンターレvsアビスパ福岡、先発メンバー

川崎Fvs福岡︰試合展開


前半2分に福岡が敵陣右サイドでプレスをかけたものの、川崎FのDF登里享平(左サイドバック)やMF橘田健人が冷静にボールを捌いたことで、局面を打開。このプレーを境に川崎Fが攻め込んだ。


福岡のハイプレスを回避した川崎Fは、試合序盤のセットプレーを物にする。前半5分、脇坂のコーナーキックにMF山村和也がヘディングで合わせ、先制ゴールを挙げた。


前半38分には、脇坂のスルーパスを受けたFWマルシーニョがペナルティエリア内で福岡のGK村上昌謙に倒され、PKを獲得。川崎Fにリードを広げるチャンスが到来したが、FWレアンドロ・ダミアンのPKは村上に防がれた。


GK村上のPKストップで勢いづいた福岡は、前半終了間際に絶好機を迎える。同42分、川崎Fのスローインを敵陣で奪うと、FW山岸祐也がペナルティエリア右隅へ侵入。同選手のラストパスをMF金森健志が押し込み、福岡が同点に追いついた。


PK失敗に加えて同点に追いつかれた川崎Fは、後半に攻勢を強める。迎えた同8分、福岡のGK村上がクロスボールを弾き出すと、こぼれ球に橘田が反応。ペナルティエリア外から放たれた同選手のシュートが福岡のゴールに突き刺さり、川崎Fが勝ち越しに成功した。


川崎Fはその後も福岡の攻撃に落ち着いて対処すると、同25分にGKチョン・ソンリョンのロングパスを受けたマルシーニョが、福岡の最終ラインの背後を突く。ペナルティエリア外へ飛び出した福岡のGK村上をマルシーニョがループシュートでいなすと、このボールがゴールマウスに吸い込まれた。


後半36分にも、脇坂のコーナーキックをL・ダミアンがヘディングで物にし、川崎Fが加点。このゴールで試合の趨勢が決した。


敗色濃厚の福岡は、アディショナルタイムにFW鶴野怜樹が後方からのパスを収め、ペナルティアーク内でのシュートでゴールゲット。一矢を報いたが、反撃もここまでだった。




川崎フロンターレ 鬼木達監督 写真:Getty Images

川崎Fの臨機応変な守備が奏功


川崎Fの鬼木達監督は、10月3日の蔚山現代戦(AFCチャンピオンズリーグ)と同じく[4-1-2-3]の布陣を選択。特に先制ゴールを奪った後は、基本布陣[3-4-2-1]の福岡の3バックに川崎Fの前線の選手がじわりじわりと寄せ、パスコースを限定しようとしていた。


特に際立っていたのが、福岡のDF宮大樹(3バックの左)に対する川崎FのMF家長昭博の守備だ。右ウイングFWで起用された同選手が、宮から福岡のDF小田逸稀(左ウイングバック)へのパスコースを塞ぐような寄せ方をしていたほか、逆に縦パスのコースを塞ぎ、宮のパスをサイドへ誘導しようとする場面も。味方の中盤や最終ラインの選手が、ボールの奪いどころを絞りやすい状況を作っていた。


「福岡の3バックは無理してパスを繋いでこない(傾向)ですけど、とは言えフリーで蹴らせてしまうと良い配球をされてしまいます。そこへの追い方やプレスのかけ方は良かったと思います」


試合後の囲み取材に応じた脇坂のコメントからも、自軍の守備への手応えが窺える。10月3日の蔚山現代戦でも、川崎Fは相手チームの自陣からのパス回しを片方のサイドへ追いやる守備、逆にサイドへのパスコースを塞ぐ守備を状況に応じて使い分けている。このバリエーション豊富なプレスが、今回の準決勝でも威力を発揮した。


アビスパ福岡 DF奈良竜樹 写真:Getty Images

福岡の課題は配球のバリエーション


最前線の山岸のポストプレーは相変わらず安定していたものの、3バックからの効果的な配球が少なく、ゆえに攻撃に変化を加えられなかった福岡。川崎Fの3トップに警戒されていたとはいえ、3バックからチャンスメイクできそうな場面はあった。


前半15分の福岡の攻撃シーンが、その典型例。この場面ではDF奈良竜樹(センターバック)が自陣でボールを保持すると同時に、ハーフウェイライン近辺に立っていた小田(左ウイングバック)がフリーだったが、奈良はここへ配球せず。奈良からMF井手口陽介にショートパスが送られたものの、これが川崎Fのハイプレスのスイッチとなった。


福岡の3バックが川崎Fのハイプレスを浴びたことで、小田はやむを得ず帰陣。自陣で宮からの横パスを受けた小田自身も、川崎FのDF山根視来(右サイドバック)のプレスに晒されている。小田のロングパスを山岸と金森が繋いだことで事なきを得たが、川崎Fにボールを回収され、速攻を浴びるリスクもはらんでいた。


前半15分以外にも、小田がハーフウェイライン近辺且つ対面の山根に捕捉されにくい立ち位置をとれている場面があったため、ここへ素早く配球できていれば川崎Fを困らせることができたかもしれない。3バックからの配球ルートの拡大は、福岡が今後突き詰めるべき課題だろう。




アビスパ福岡 長谷部茂利監督 写真:Getty Images

長谷部監督が明かした複雑な心境


福岡の長谷部監督は試合後の会見(質疑応答)で、自軍の攻撃を振り返り。理想の形を体現しきれなかった旨を、率直に語った。


ー同点ゴールの場面では、高い位置から連動してプレスをかける福岡の良さと、これまで積み上げてきたポケット(ペナルティエリア内の両脇のエリア)に侵入して崩すという形が見られました。川崎Fという強い相手に、良い守備からの良い攻撃ができたと思いますが、(長谷部監督は)どのように考えていらっしゃいますか。


「良い形だったと思いますが、(試合全体を通じて)回数が少ない。前半から自分たちでボールを動かして、あそこのスペースを取りにいくことが、もう少しできたんじゃないかなという残念な気持ちがあります。(同点ゴールは)川崎さんの守備が、そこまで上手くいっていないんじゃないかという算段のなかのプレーだったので、手放しでは喜べない。自分のなかでは複雑な心境ですね」


先述した通り、3バックからの配球ルートを拡大できれば、自分たちでボールを動かすサッカーをより高いレベルで体現できるだろう。着実にチームをレベルアップさせている52歳の指揮官が、今月11日と15日に行われるルヴァン杯準決勝(名古屋グランパス戦)に向けてこの点をブラッシュアップできるかに注目したい。

FOOTBALL TRIBE

「準決勝」をもっと詳しく

「準決勝」のニュース

「準決勝」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ