勇退発表のトヨタ中嶋一貴「チームが良い形で戦っていくためには、正しい決断なのかな」【日本メディア向け会見全文】

2021年11月4日(木)22時3分 AUTOSPORT web

 11月3日に、今季限りでWEC世界耐久選手権のレギュラードライバーから退くことが発表されたトヨタGAZOO Racingの中嶋一貴。発表から丸1日が経過した4日、第6戦バーレーン8時間レースのFP1走行開始に先立ち、現地バーレーン・インターナショナル・サーキットからリモート形式の会見で、一貴が日本メディアの質問に答えた。


 約20分にわたって行われた会見では、勇退発表の背景と今後の活動ついて質問が集中した。


 冒頭、前日の勇退発表を受け「非常に残念にしてくださっている皆さんの声もいただいているので、非常に心苦しい面もあるのですが、最後のレースを笑顔で終われるように、優勝目指して最後まで頑張っていきたいと思います」と語った一貴。柔和な表情と明瞭な受け答えは普段と変わらないが、“いつもとは違うこと”を口にするためか、緊張感も漂っているように感じられた。


 このタイミングでWECのレギュラードライバーから離れるという決断をした背景について、一貴は次のように説明した。


「僕自身、レースドライバーとして、WECがこれから面白い時代になっていくとは思っているので、そのタイミングで離れることには残念な気持ちはもちろんありますが、トヨタのモータースポーツのなかで若いドライバーを育てていかなければいけない、ちょうどそういうタイミングであるということは理解しています」


「そういう意味では、大きな変革をするタイミングとしては(適切で)、(LMDh規定の採用によりライバルメーカーが増える)2023年からチームがより良い形で戦っていくためには、正しい決断なのかなと思っている部分もあるので……そういうことですね」


 記者からの「中嶋選手から引退を申し出たわけではないのか?」との質問については、「その辺は、相談して決めさせてもらったことだと理解してもらえれば、ありがたいです」。


 さらに、以前に引退について「自分では(引退の)判断を下せるタイプではなく、先に周囲の状況がそうなってしまうのではないか」という趣旨の発言していたことを引き合いに、「今回はその“状況”になってしまったという理解でよいか?」と問われると、次のように回答した。


「トリッキーな聞き方ですね(笑)。ただ、ある意味そのとおりで。ドライバーとしてよっぽどパフォーマンスが落ちてきていれば、さすがに自分で区切りを決められる部分もあるのでしょうけど、自分はわりと優柔不断な性格でもあるので、ある意味では、いろいろな状況によって自分の身の振り方を決める方が、自分の性格にも合っているのかなという部分もあるので」


「もちろん、そういう意味では自分で決めたことでもありますけど、まわりの状況と、まわりの人たちと相談させていただきながら、こういうことになりました、ということですね」


 個人のエゴを押し通すのではなく、“トヨタのモータースポーツの将来”を考えた総合的な判断として『勇退』に至った、ということだろう。


 また、来季以降に関してはドライバーとして他カテゴリーに参戦する可能性も残しながら、トヨタのなかで若手ドライバーの育成に積極的に関わりたいという意向も語った一貴。一方で、NAKAJIMA RACINGを継ぐ可能性については「あまりない」と述べている。


 以下、会見のなかから、WEC勇退に関連した項目について質疑応答のほぼ全文を掲載する。


■現役続行は「総合的に考えていきたい」


「今回、2021年のWEC最終戦バーレーンを前にしたところですが、これが僕にとって最後のWECでのレースになります。非常に残念にしてくださっている皆さんの声もいただいているので、非常に心苦しい面もあるのですが、最後のレースを笑顔で終われるように、優勝目指して最後まで頑張っていきたいと思いますので、最後まで応援していただければと思います。よろしくお願いします」


──来年以降、WECが盛り上がりそうなタイミングですが、なぜこの時期に引退を決められたのでしょうか?


「そうですね、どう説明したらいいかな……僕自身、レースドライバーとして、WECがこれから面白い時代になっていくとは思っているので、そのタイミングで離れることには残念な気持ちはもちろんありますが、トヨタのモータースポーツのなかで若いドライバーを育てていかなければいけない、ちょうどそういうタイミングであるということは理解しています」


「そういう意味では、大きな変革をするタイミングとしては(適切で)、(LMDh規定の採用によりライバルメーカーが増える)2023年からチームがより良い形で戦っていくためには、正しい決断なのかなと思っている部分もあるので……そういうことですね」


──ということは、中嶋選手から引退を申し出たわけではない?


「その辺は、お互いに相談して決めさせてもらったことだと理解してもらえれば、ありがたいです」


──10年間WECで戦ってきて、ここまでで一番思い出に残っているレースはどれでしょうか?


「やっぱり、2016年のル・マンじゃないですかね、ひとつ選べと言われたら。たぶん誰に聞いてもそうなっちゃうんだと思うんですけどね。2016年があったからこそ、2018年からはこういう風に勝つことを続けられるチームになれたんだと思っていますし、ちょうどアンソニー(・デビッドソン)が今週でレースから離れると発表していたこともあって、そういうこと含めても2016年が印象に残っているし、『2016年に一緒に勝てたらよかったな』という気持ちがあるので、余計にそう思います」


──(他カテゴリーを含めた)ドライバーを引退するわけではないと思いますので、来年以降はどうされたいのか? 決まってないとは思いますが、ご自身の要望は?


「やっぱりどういう形であれ、いままでこれだけレースキャリアを通してトヨタのなかで育ててもらってきて、こういう風に一緒に結果を出せるようになってきているので、やっぱりトヨタのモータースポーツの中で、自分にできることをやっていきたいというのが自分の希望です。来年以降、何をするかはまだ相談させてもらっている状況ではありますけど、その中で自分のベストと思える選択を、これからしていきたいなと思っています」


──走ることは続けたいという意思は持っていますか?


「もちろん、それはあります。ただ、自分にできることを考えたうえで、それも含めて総合的に考えていくことになるのかなと思っています」


■“相談”が始まったのは、2021年のル・マン後


2021年ル・マン24時間レース

──以前「自分では(引退の)判断を下せるタイプではなく、先に周囲の状況がそうなってしまうのでは」とおっしゃていましたが、そういった“状況”になってこういう形になったという理解でよいでしょうか?


「なるほど……トリッキーな聞き方ですね(笑)。ただ、ある意味そのとおりで。ドライバーとしてよっぽどパフォーマンスが落ちてきていれば、さすがに自分で区切りを決められる部分もあるのでしょうけど、自分はわりと優柔不断な性格ではあるので、ある意味では、いろいろな状況によって自分の身の振り方を決めるという方が、自分の性格にも合っているのかなという部分はあるので……もちろん、そういう意味では自分で決めたことでもありますけど、まわりの状況と、まわりの人たちと相談させていただきながら、こういうことになりました、ということですね」


──その相談というのが、最初に始まったのはいつですか? 今年のル・マンより後ですか?


「まぁなんとなく、そうですね、ル・マンよりは後になりますね」


──ではル・マンの時は「これが最後のル・マンだ」という気持ちでは走ってない?


「そうですね、それはあまり意識はしてなかったです。ただ正直、毎年考えてきたこと……自分で辞める・辞めない(を決断すること)じゃないですけど……そこそこ歳も重ねてきてますし、そもそもパフォーマンスが伴わなければいつ下されるか分からないと思ってやってきているので、ここ10年間は。そういう意味では毎年毎年、どういう形であれ、自分のベストを出し切ろうと思ってやってきていることに変わりはないので、そこ(最後のル・マンになるかどうか)はもともと意識はしていないですけど」


──「トヨタのモータースポーツのなかでできることをやっていきたい」とのことですが、ということはたとえばお父様(中嶋悟氏)の会社やチームを継ぐみたいな考えはないのでしょうか?


「まぁ、それはあんまりないですね。もちろん、自分がレースを通してやってきたなかで、親がいたからこそここまでやってこれているという部分もあるので、そういった意味では親孝行ということを考えれば、そういうこと(チームを継ぐ)も考えるべきなのかなという気もしますけれど……ただ、やっぱり自分はレースキャリアを通してトヨタさんにずっと育ててもらってきているので、まずはやっぱりこの(トヨタの)なかで自分にできることをやっていきたいなというのがまず第一、ですね」


──勇退を発表されてから、いろいろなリアクションが届いてるかと思いますが、どんな声がありましたか?


「まず、『本当にお疲れ様でした』っていう声をたくさんいただきました。もちろん残念がってくれている方もたくさんいらっしゃいますけど、それよりもまず『10年間本当にお疲れ様でした』っていうところが、(反響としては)一番大きかったですね」


■WECチームへの来季以降の帯同を「個人的には希望」


2021年最終戦が開催されれるバーレーンにて。一貴にとってのWECラストレースとなる

──先日、スーパーフォーミュラではこれからの50年計画というものが発表されました。台数を増やすという話もあり、となると新規チームが必要になってくると思いますが、NAKAJIMA RACING第二弾みたいな、自身のチームを立ち上げることは考えてますか?


「それは正直なところ、申し訳ないですけど、全然考えてはなかったです。現状では……全然それは考えられてなかったです」


──ご自身でチームを持ちたいといった夢はないのでしょうか?


「そういうことができていけば一番幸せなんだろうなとは思いつつ、やっぱり世の中の状況……のせいにするのあれですけれど、非常に難しいことでもあるのも間違いないなとは思っています。なかなかそう簡単にできることではないな、というのが正直な印象ですかね、チームを持つということに対しては」


──「レーシングドライバーとしてだけではなくトヨタの中でできることを」というのは、たとえば若手の育成などにもっと入り込んでいく形になるのでしょうか?


「そうですね、そういう部分はひとつ、自分にできる大事なことだと思いますし、今回のWECのドライバーのことに関しても、やっぱり若い世代にもっともっとチャンスを与える……というよりは、若い世代をこれから育てていくことがトヨタのモータースポーツの軸としてすごく大事なことでもあるっていうことの、一環だとは自分も思っているので、やっぱりそこに関わっていくということがひとつ自分の大事な仕事になっていくんじゃないかとは思っています」


──ということは、WECの現場には来年以降も帯同するということでしょうか?


「まだ、はっきり全部決まっているわけではないので何とも言えない部分はありますけど、自分はそういうことになっていけば良いな、という個人的な希望は持っています」


──今回はレース後にルーキーテストがありますが、そこにも帯同し、アドバイスなどもされますか?


「正直なところ、まだルーキーテストの段階では自分の立場はレースドライバーだと思っているので。そんなに思い切って現場に介入していくということは正直ないと思います。ただもちろん自分の立場は変わってはいくので、そういうことも意識しながらルーキーテストも見ていくんじゃないかとは思っています」

2021年ル・マン24時間レース テストデー

AUTOSPORT web

「勇退」をもっと詳しく

タグ

「勇退」のニュース

「勇退」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ