移籍の噂や開幕カードはなぜ漏れる?スポーツ紙内部事情から読み解く

2024年12月14日(土)18時0分 FOOTBALL TRIBE

日本代表を取材する賀川浩氏(左)写真:Getty Images

今年もこの時期がやってきた。ある意味では試合よりも面白い「ストーブリーグ」の季節だ。12月12日、スポーツニッポン新聞のウェブサイト版では、来2025シーズンの開幕戦として東京ヴェルディ対清水エスパルスが国立競技場で行われることが伝えられた。Jリーグからの公式発表は13日だが、いち早くスッパ抜いた形だ。


その他、スポーツ紙上およびニュースサイトでは、様々な移籍の噂があたかも決まったかのように報じられている。なぜこのような報道がなされ、記者たちはどういうルートで情報を仕入れ裏を取っているのか。さらに、選手の移籍という非常にデリケートな報道を“我先に”とばかりにかき立てる裏事情を、長くスポーツ新聞に勤務した経験から考察したい。




中田英寿 写真:Getty Images

スポーツ紙におけるサッカー記事の優先度


まず前提として、スポーツ記者の花形と言えば今も昔もプロ野球だ。中でもエースと呼ばれる記者は決まって巨人(読売ジャイアンツ)担当となる。


当然ながら12球団にそれぞれ専属記者を配置し、巨人や阪神(阪神タイガース)、ソフトバンク(福岡ソフトバンクホークス)といった人気球団ともなれば、複数人の記者を置いている。現在、プロ野球は契約更改やFA移籍の季節だが、年が明け、2月のキャンプインまで、1か月の空白期間が生じる。この“空白の1か月”はスポーツ紙記者にとっては、異動(あるいは配置換え)の季節でもあるのだ。


残念なことだが、スポーツ紙におけるサッカー担当のプライオリティーは年々下がってきているのが現状だ。かつては、カズ(三浦知良)や中田英寿氏、中村俊輔氏、城彰二氏などが欧州移籍を果たすと、スポーツ紙各社は自社の記者を特派員として派遣し、その試合結果を報じるため、週末となれば刷り出し時間を遅らせるなどといった体制を取っていた。


しかし現在、欧州で活躍する選手も増え、試合もリアルタイムで見られることになったことで、外部の現地通信員を活用するケースが当たり前となり、サッカー記者が海外出張するのは、ワールドカップ予選と本戦くらいとなった。


ACL(AFCチャンピオンズリーグ)2023/24で決勝に進出した横浜F・マリノスを追ってアル・アイン(UAE)との第2戦(1-5/合計スコア3-6で敗戦)のために、敵地のハッザーア・ビンザイード・スタジアムに取材に訪れたスポーツ紙記者はゼロ。辛うじてNHKがニュースサイトで、当時のハリー・キューウェル監督やDF松原健、主将を務めるMF喜田拓也のコメントを掲載するにとどまった。


スポーツ紙におけるサッカー記事の優先度が下がる中、記者たちはジレンマを抱えつつ、異動のチャンスを伺うことは無理からぬことだ。そして晴れて異動の内示を受けるのが、この時期なのだ。


サッカー記者のメモ帳 写真:Getty Images

「ジャーナリスト」の裏側


昨日までサッカーを見続け戦術を語っていた記者が、次の日から芸能人のスキャンダルを追ったり、競馬の予想をするといったことが当然のように行われているのがスポーツ紙記者の宿命であり、この世界では「サッカー担当歴ウン十年」という記者を見付ける方が至難の業だ。


サッカー界から離れることが決まったスポーツ紙の記者たちが、それまで培ってきた人脈を生かし、“書き捨て”とばかりに試合日程や移籍の噂を出稿するのはそのためである。


日本では入社試験に合格し、記者職に配属されれば「ジャーナリスト」を名乗れるが、イタリアではイタリアジャーナリスト協会に加盟した上で、18ヶ月の見習い期間の後(あるいはジャーナリズム専門学校を卒業後)、試験で合格することで初めて「ジャーナリスト」として新聞社や出版社と雇用契約を交わせる制度になっている。


一見、優れた制度にも思えるが、イタリアは日本のマスコミ界以上に“コネ”がモノを言うお国柄だ。加えてこの制度によって、現場の記者が高齢化するというデメリットも生じている。


さすがにニュースソースを「クラブ関係者」や「リーグ関係者」とし明確にしない点には、後任の記者や取材元への配慮も感じさせるが、かと言って、噂をそのまま記事にするほど彼らのプロ意識は低くない。そうしたフライング記事が本当であったケースが多いのも事実だからだ。




Jリーグ 写真:Getty Images

フライング報道は続くのか


開幕戦の相手をワクワクしながら待っているファンや、応援しているクラブの選手の移籍報道によって、不愉快な気持ちにさせられる読者も多いだろう。その怒りは執筆した記者のみならず、情報を漏らしたクラブ関係者にも向けられるかも知れない。報道によって、移籍が破談に至るリスクがあり、それが選手にとってステップアップに繋がる移籍だとしたら、キャリアにも響くことになる。


しかし、年末恒例となった“移籍スクープ合戦”は、春秋制を採用する来2025シーズンまで続くだろう。秋春制に移行する2026/27シーズンからは、このようなフライング報道は続くのだろうか。社内の人事異動がプロ野球のカレンダーに合わせたものである以上、Jリーグのシーズン真っ最中に突然サッカー担当が異動になることは考えにくく、“フライング報道”は減っていくことも予想できる。しかし、報道の真贋について、ネット上で喧々囂々の論争を楽しむ層がいることも確かだ。


応援しているクラブのお気に入りの選手の移籍報道に触れることは悲しい気持ちにさせられ、同時に来季に向けて不安感を抱くことだろう。しかし、あるJクラブを応援するということは、出会いと別れをも受け入れる覚悟も必要だ。真贋が見えない新聞報道に触れても、それを楽しむくらいの度量を持ち“話半分”といったスタンスでいたいものだ。

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