大津高校は「ユース年代日本一」にふさわしいのか。不祥事続発を考察

2024年12月16日(月)18時0分 FOOTBALL TRIBE

大津高校 写真:Getty Images

12月15日、埼玉スタジアムで高円宮杯JFA・U-18サッカープレミアリーグファイナルが行われ、WEST王者の熊本県立大津高校がEAST王者の横浜FCユースを3-0で破り、初優勝を果たした。


大津高の勝利によって、ファイナルが東西王者による一発勝負となった2011年以降(2020年、2021年は新型コロナにより中止)、EAST王者とWEST王者の戦績は6勝6敗に。高体連チームの優勝は、流通経済大学付属柏高校(2013)、青森山田高校(2016、2019、2023)に続く3校目で、公立高校の優勝は史上初の“快挙”だ。さらに大津高は熊本県代表として、12月28日に開幕する全国高校サッカー選手権への出場を決めており、2021年の第100回大会の準優勝(優勝は青森山田)を超える、悲願の日本一を目指すことになる。


大津高は全校生徒約800人、うち男子生徒数381人に対して、その半数近い185人ものサッカー部員を抱える大所帯だ。高円宮杯ファイナルのスタンドも、大津側応援席はベンチ入り出来ず応援に回った部員が埋め、その数は横浜FCサポーターが集ったにも関わらず、横浜FC側を上回るほどだった。


そんな大津高サッカー部では、2024年いくつかの不祥事が明らかになった。それらの詳細や対応の裏側について考察したい。




山城朋大監督 写真:Getty Images

大津高サッカー部で起こった問題


大津高サッカー部といえば今年11月、2022年1月に当時2年生の部員2人が強要罪に問われた。全国高校サッカーの応援のための宿泊先で、当時1年生だった男子部員に、「お前、あだな言っとるやろ」「あだ名言ったんだけん、土下座するのが普通やろ」「全裸なれよ」「土下座せろよ」と要求。言う事を聞かなければ、危害を加えることをほのめかして怖がらせ、全裸で土下座をさせたという。


熊本地裁での罪状認否で、被告の元部員の1人は「発言は一切言っていないし、要求もしていない」、もう1人も「全裸と土下座は強要していない」と発言。2人の弁護人は「共謀した事実も、要求した事実もない」と、無罪を主張している。


検察側は冒頭陳述で、当時サッカー部には約160人の部員がおり、上級生には下級生に対し一発芸をさせたり、容姿に関連した悪意あるあだ名を付けたりするなど、理不尽な要求をする風潮があったと指摘。全裸で土下座した場面は2年生がスマホで撮影していたが、被害者とは別の1年生の抗議で削除したことも明らかにしている。


この問題では、熊本県教育委員会も「いじめ防止対策推進法」に基づいた重大事態と認定。熊本県警も2人を書類送検し、熊本地検が在宅起訴した。しかし事件が表面化した当初、学校側は第三者委員会を設置したものの「サッカー部の中で起こった事案で、学校としてはその生徒たちの活動に制約をかける考えはない」とコメントし、責任逃れに徹した。


周囲からの反発を受け、平岡和徳総監督は自粛、山城朋大監督は一時的に“辞任”という形で指導を離れ活動を休止。しかしサッカー部の活動も2週間足らずで活動再開し、“晴れて”全国高校サッカーへの出場を決めた。そして山城監督もたったの2か月で監督に復帰している。


記者会見の場で同校の高野寛美校長は「今回のいじめの問題がすべて解決しているとは思っていない。大変、重く受け止めていることを踏まえて大人が責任を取らせてもらい、指導の自粛を決定した」と説明したが、その言葉は説得力に欠く。なぜなら、大津高サッカー部が問題を起こしたのは、これが初めてではないからだ。


今年5月には、サッカー部員を含む複数の生徒が喫煙や飲酒などをしていたことが明らかになった。同校によると、学校に対し「生徒が飲酒や喫煙をし、パチンコ店に出入りしているのではないか」と情報が寄せられ学校側が調査したところ、サッカー部員ら約10人の生徒が、飲酒や喫煙、パチンコ店への出入りを認めた。


しかしここでも学校側は、「今回の件は、重く受け止めている。今後、生活習慣など指導を行い、信頼できる人材の育成に努める」とコメントしながらも、教育委員会への報告のみで問題を終わらせ、インターハイを控えたサッカー部の活動について、「不祥事を起こした部員は(飲酒・喫煙・パチンコの)メンバーに入っていない」として、何事もなかったかのようにインターハイに出場した。


植田直通 写真:Getty Images

大津高サッカー部総監督の立場


大津高サッカー部の総監督を務める平岡氏は、地元の熊本県出身ながら、帝京高校に越境入学。1983年の全国高校サッカーでは、現在でも“伝説の名勝負”と語り継がれている静岡県立清水東高校との決勝を制し、全国制覇を成し遂げている。


その後、筑波大学へ進学し、4年時には高校サッカー決勝で相まみえる。日本代表FWとして活躍する長谷川健太氏(現名古屋グランパス監督)を差し置いてキャプテンを務め、関東大学リーグを制覇に貢献した。


卒業前には当然ながら、Jリーグ発足前のJSL(日本サッカーリーグ)に所属する企業クラブから入社オファーを受けるが、教師だった父に筑波大卒業後は熊本に教員として戻ると約束していたため、これを固辞し、指導者の道に進んだという。


1993年に大津高に赴任し、同時にサッカー部監督に就任した平岡氏。これまで、GK土肥洋一(柏レイソルなど/現横浜FCのGKコーチ)、FW巻誠一郎(ジェフユナイテッド千葉など/現会社経営者)、DF車屋紳太郎(川崎フロンターレ)、DF植田直通(鹿島アントラーズ)、FW豊川雄太(京都サンガ)、DF谷口彰悟(シント=トロイデン)、さらには2024シーズンのベストイレブンに選出された鹿島アントラーズDF濃野公人といった元日本代表やJリーガー、海外所属選手を送り出している。


県立高校教員という地方公務員の身分でありながら、「高校サッカー界の名将」として数々のメディアにも登場し、著書もある。その中で、チームの強化法に始まり、そして自身の魅力も語っている人物だ。


しかし、不祥事が公になる度、「自分は外部コーチで、学校の中での案件とは無関係」と“逃げの一手”に終始する。言行不一致とはまさにこのことではないのか。サッカー部総監督という立場と公務員としての立場を行ったり来たりして、結局は自分を守っているように受け取れる。




大津高校 写真:Getty Images

県が大津高を強化することの意図は


大津高は、県立高校でありながら未だに専用の練習場を持たず、県内の陸上競技場やサッカー場を間借りしているJ2ロアッソ熊本もうらやむような練習施設を持ち、スポーツ推薦による越境入学によって強化を図ってきた。まるで、知名度を上げるためにスポーツに力を入れる強豪私学のような施策を県民の税金で行っている。ホームページ上では同校のグッズを販売し、活動費としてスポンサーの募集までしている。


熊本県および教育委員会が、そこまでして同校サッカー部を強化することの意図はどこにあるのだろうか。サッカー県としての知名度アピールであれば、ロアッソ熊本を活用した方が有効的なはずだ。


その上、中学生年代で九州最強を誇る「ソレッソ熊本」の卒業生は、ロアッソ熊本ユースではなく、大津高への進学を選ぶ選手が多い。結果として3桁にも及ぶ部員を抱えることになり、その多くは3年間で一度も公式戦に出場できないまま卒業することになる。多過ぎる部員を管理し切れなかった結果が、不祥事の続発なのだ。


しつこいようだが、同校は県立高校だ。しかも特進コースの生徒では、大阪大学や早稲田大学への進学実績もある。今さら知名度アップのため、私学のような強化をする必要性を感じないのである。生徒たちがサッカー部や同校の上層部から学べることがあるとすれば、世の中の汚さや、保身に走る大人たちの姿という皮肉な結果となってしまっている。それも、教育といえば教育なのだが…。


大津高からは、高円宮杯ファイナルでも先発出場したMF嶋本悠大の清水エスパルス入りが内定している。嶋本はインスタグラムのアカウントを2つ(本アカと裏アカ)持っているが、双方ともサッカー一色の生活が見て取れることから、ひとまずは安心して良さそうだ。


清水とすれば、日本大学藤沢高校で全国高校サッカー得点王の実績を引っ提げ鳴り物入りで入団したものの、未成年ユース選手を連れてパチンコ店に行ったことで規律違反として処分されそのまま退団したFW森重陽介(現ブラジル4部シアノルテ)のケースがあるだけに、規律に関しては一層厳しく対処するだろう。


おそらく、間もなく開幕する全国高校サッカーでも、大津は優勝候補の筆頭として注目される。しかし、勝ち進めば進むほど、その裏でパワハラという名の強要罪の犠牲となり、転校を余儀なくされた元生徒はどう感じるのだろうかと、思いを馳せてしまうのだ。

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