「何か感じる」心霊スポットで撮影! 永井豪原作『唐獅子仮面/LION-GIRL』 光武蔵人監督インタビュー

2024年2月3日(土)14時0分 tocana

『デビルマン』『マジンガーZ』『キューティーハニー』など、数多くの傑作を世に送り出してきた漫画界の巨匠、永井豪による描き下ろし原作を実写映画化! エロスとバイオレンスに満ちたスーパーヒロインの名は『唐獅子仮面/LION-GIRL』!


 本作の監督は、『サムライ・アベンジャー/復讐剣 盲狼』『女体銃 ガン・ウーマン』など、過激なジャンル・ムービーを世界に発信し続ける鬼才、光武蔵人。人類滅亡寸前の世界に誕生した唐獅子仮面と悪の戦いを描く。『ボルケーノ2023』のトリ・グリフィス、『13日の金曜日』のデレク・ミアーズら、キャストも豪華だ。


 今回TOCANAでは、映画の公開に先駆けて光武監督にインタビューを行った。制作に至った経緯やコンセプト、キャスティングなど、本作の魅力をたっぷり語ってもらった。


アクションへのアンチテーゼとしての超能力バトル

——監督はチャンバラがお好きでガンマニアだそうですね。それなのに、『唐獅子仮面』の戦闘シーンで超能力バトルをメインにした理由を教えてください。


光武蔵人(以下「光武」):超能力は昔からやりたかったんですよ。それと、今流行りのコリオグラフィー過多のアクションシーン、すなわち、ダンスになっていて、段取りになっているアクションがちょっと嫌いになってきているのもありました。そういうものが出てきた初期は「すごいな」「おもしろいな」と思いましたけど、今は誰でもやるようになっちゃったじゃないですか? たとえば、落とした拳銃を足で蹴飛ばして、こっちでつかまえてパーンとか、そんなのばかりですよ。僕は「そんなのしないから」と思って嫌いになってきたのもあり、それを今さら後追いでやるのも嫌だったので、アクションへのアンチテーゼとして超能力バトルにしました。それに、超能力バトルは演技力の問題になるので、そういうところで見せるのもおもしろいかなとも思います。


 ちなみに、今回は拳銃も撃ちますけど、「一発一発にどれだけの思いを込められるか?」というテーマがあって、そんなに発射の弾数はないんですよ。西部劇的というか、一発二発で終わる銃撃戦を多くして、一発一発が持つ意味を重くしました。


——そもそも監督はアクションだけで1時間みたいなのがお好きではないんですよね。


光武:そうなんですよ。僕が大好きな映画監督のサム・ペキンパーも「アクションは手数ではない。一つ一つに込められた意味やキャラクターが描かれていないとアクションは意味がない」とおっしゃっていて、全くその通りだと思うんですよね。感情移入できないヒーローがピンチになってもどうでもいいし、感情移入できない人たちが何人殺されてもどうでもいい。最近の物語はそういうところが若干おろそかにされている気がするので、ちゃんとしていた昔のものを次の世代にも継承していきたいですね。


——監督は、アクション過多にしないだけでなく、語り過ぎないことも意識されていますよね。


光武:そうですが、今回の映画はしゃべり過ぎたと反省しています。ヒーロー物の初登場、「第1話」という言い方を敢えてするとすれば、どうしても説明過多になるんですよね。「どうやってこのヒーローは生まれたのか?」「どういう能力を持っているのか?」「どういう時代背景なのか?」などの説明が多くなるので、説明過多、セリフ過多にはなるんですけど、映画ですから「画で語れることは画で語ろう」という思いはあって、それを常に目指していますね。


「ヒロインの牡丹ちゃんは、とにかく可愛い子で」

——今回は緋色牡丹役にトリ・グリフィスさんを採用されましたが、その理由を教えてください。


光武:500人以上の応募がありましたが、永井豪先生の作品のヒロインはなかなかハードルが高いんですよね。唯一先生から映画化に当たって明確に出されたお題が「ヒロインの牡丹ちゃんは、無名でいいから、とにかく可愛い子で」でした。もちろん、それもプレッシャーになっていたし、なかなか「これぞ!」と思う人がいませんでした。


 コロナ中で、健康不安を抱えている役者さんたちが仕事をしていなかった時期なんですよ。普通ならもっと応募があるのに、それもありませんでした。「もうちょっとオーディションの期間を延ばさなきゃいけないかな?」と悩んだ時期もありました。


 そんな中、トリがマユミ役でオーディションを出してくれたんですよ。僕は彼女を見て「サイドキャラクターの器じゃないかもしれない。主演も張れるんじゃないかな?」と思って、トリのマネージャーにキャスティングディレクターを通して「ヌードはOKか? 主演をやらないか?」とオファーを出してみました。そうしたら、「大丈夫」という返事があって、改めて緋色牡丹役でオーディションに来てもらいました。


 彼女のオーディションをやったら、やっぱりすごくよかったんですよね。撮影当時22歳でしたが、自分の初主演映画になるかもしれないということで、熱意をもってアプローチしてくれたし、すごくハングリーでした。僕は永井先生の漫画も見せて「これだけのバイオレンスがあって、これだけのヌーディティがあって、大丈夫?」と聞きましたが、トリは「大丈夫! やるわ!」と積極的でした。


——トリさんが最初にマユミ役でオーディションを出したのはびっくりです。


光武:そうそう。だから、逆にマユミ役を、もうちょっと陰のあるシェルビー・パークスにやってもらいました。シェルビーも非常に優秀な俳優で、オーディションに入ってきたときから「この人は本当に超能力を持っているかもしれない」というミステリアスな雰囲気があったんですよ。僕の大好きな『デビルマン』のあのシーンも含めて、素晴らしいマユミを演じてくれました。


『唐獅子仮面』は成功しないミッションの話、守らなきゃいけない人たちを守れなかった話なので、ちょっとトリッキーなんですよ。だから、守れなかった人たちがあまりにも憐れになっちゃうと、観客がヒーローを許せなくなるんですね。そこで、「本当は自分の身は自分で守らなければいけないくらいの人なのに、それができなかったんだよ」という解釈も成り立つ、存在感のある人をマユミ役に選ばなければいけませんでした。そういう意味で、シェルビーとトリは対照的です。守らなければいけない側の方が強そうで、ヒーローの方がまだ頼りないという関係性が、良い感じに出せたかなとは思っています。緋色牡丹の成長譚ですからね。


——緋色牡丹が成長していって、最後にメタルヒーローのような決めポーズを見せてくれたのが印象的でした。


光武:あそこはまさにギャバン(『宇宙刑事ギャバン』、1982〜1983年)ですからね。僕の中で「これはギャバンだ!」と思ってやりましたから。ガチでギャバン世代だったので、一番思い入れのある特撮ヒーローです。しつこいくらいの繰り返しとズームを一回やってみたかったのですが、今回やれました。


——超能力バトルなどのナレーションもギャバンから来ているんですよね?


光武:そうですね。「もう一度見てみよう」というナレーションは、欧米では悪口を言われるテクニックなんですよ。 “voice of god narration” (神の声のナレーション)といって、「あんた、誰?」という人物が全てを達観した語り口で「では、もう一度見てみよう」とか「一方、その頃」とか、日本の時代劇などでは当たり前ですが、欧米人はすごく違和感を持って観ているんですよ。それを敢えて使うのが僕の好きなテクニックです。


『13日の金曜日』のデレク・ミアーズが奇跡の出演

——宿敵の鬼死魁星役が、『13日の金曜日』(2009年)でジェイソン役だったデレク・ミアーズさんだったりして、かなり豪華なキャスティングだと思いました。


光武:デレクが今回出てくれたのが本当に奇跡でした。幸いなことに僕と彼は友達関係を築いていました。しかも、彼はジャパニーズアニメオタクで、永井先生の名前も知っていたんですね。そんな彼が「次回作は何をやるの?」と聞いてきて、僕が「永井豪先生原作で」と話したら、彼が「マジで? 脚本ができたら読ませて」と言うんですよ。


 僕は彼に出てもらいたいけれど、絶対に出てもらえません。彼のギャラの範囲が我々の作品規模を超えていますから。でも、ダメ元というか、出てもらうことは期待せず「感想だけもらえればいいかな」と思って脚本を読んでもらったら、彼の方から「鬼死魁星役をやりたい」という話になったんですよ。僕が「マジで? お金ないよ」と言ったら、彼が「わかった。俺がエージェントに『アメリカ俳優協会のミニマムのギャラでやる』と言うから、それでいい」と引き受けてくれました。彼の友情出演というか、男気出演というか、非常に感謝しています。


——鬼死魁星は非情なキャラクターですけれども、それを演じたデレクさんは本当に素晴らしい方なんですね。


光武:そうなんですよ。ハリウッドのインタビューでよく「彼は素晴らしい人間で」とか「彼は人格者で」とか言いますよね? あれは大体嘘です。そんなに人格者だらけの業界のわけないですからね。でも、デレクは本当に人格者で、「やる」と言ったことをやってくれました。


 鬼死魁星の手下役を演じてくれたデヴィッド・サクライは、僕の過去作『KARATE KILL』(2016年)にも出てくれた日系デンマーク人の俳優です。メジャー作品に出たり、ジョニー・デップと共演したりしています。彼はデンマークで『サムライ・アベンジャー』(2009年)を観て、Facebookを通して僕と友達になってくれて、それ以来ずっと仲良しなんですよ。数年前にロサンゼルスに引っ越してきた彼とは、実際に会って飲みに行くようになりました。


 今回の映画でチャンバラの見せ所はデヴィッド対デレクです。ハリウッドの場合、リハーサルにもギャラが発生するんですよ。だから、僕の映画ではそんなに練習させられなくて「どうしよう?」と悩んでいたら、デヴィッドとデレクが自主練ということにしてくれました。プロダクションに請求書を出さない形で、「好き勝手に集まって自主練しています」という体でずっと練習してくれたので、あれだけ激しいチャンバラシーンが撮れました。


——もともとお二人は殺陣ができたわけではないんですね。


光武:二人ともチャンバラが好きですけど、全然上手いわけではありません。スタンドコーディネーターが非常に良い殺陣を付けてくれて、それを二人が時間をかけて、すごく一生懸命練習してくれました。キャストには本当に感謝の念しかないですね。


撮影現場は「何か感じる」心霊スポットだった

——『唐獅子仮面』撮影中のオカルト体験がありましたら教えてください。


光武:クライマックスの戦いが起こるところとか、牢屋になっていたところとか、牡丹がシャワーを浴びたり刀の練習をしたりするところは、全て同じダウンタウンLA近くのビルなんですよ。そのビルは、1950年代に建てられた総合病院だったらしいんです。そこに朝早く行くスタッフは「何か感じる」「何か見える」と言っていました。しかも、我々が撮影に入る2週間前、我々が使おうと思っていた大きなスペースが不審火で焼けたんですよ。あそこは心霊スポットだと思います。何かあるっぽいですね。


——そんな場所で撮影されていたのには驚きました。映画に幽霊か何かが映っているかもしれませんね。では、最後に、映画を観に来る皆さんへのメッセージをお願いします。


光武:世知辛くて、嫌なことも多い世の中で、現実社会はなかなか辛いこともありますが、是非このやんちゃな映画を観に来ていただきたいです。素直に良い話の部分も多く、2時間1分は嫌なことを忘れていただけるような、現実逃避できるような作品になっていると思いますので、たくさんの方に楽しんでいただきたいです。


(文=本間秀明)


※「エロくて強い正義の味方が誕生! 永井豪原作『唐獅子仮面/LION-GIRL』 光武蔵人監督インタビュー(前編)」はこちら。



『唐獅子仮面/LION-GIRL』


2024 年 1 月 26 日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、


池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿 他 全国ロードショー!


原作:永井豪 監督:光武蔵人


キャスト:トリ・グリフィス/ダミアン・T・レイヴン/岩永ジョーイ/デレク・ミアーズ/シェルビー・パークス/マット・スタンリー/


製作:東映ビデオ/2023年/日本/カラー/121分/


配給:エクストリーム

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