美輪明宏 「15歳まで過ごした長崎には、国境を越えた美しい歌の世界があった。皆さんの心の故郷、魂の本籍地は?
2025年2月10日(月)11時30分 婦人公論.jp
歌手、俳優の美輪明宏さんがみなさんの心を照らす、とっておきのメッセージと書をお贈りする『婦人公論』に好評連載中「美輪明宏のごきげんレッスン」。
2月号の書は「ノスタルジア」です。
* * * * * * *
ノスタルジーとは《魂の本籍地》を想う心
私にとって「ノスタルジー」という言葉から思い起こされるのは、15歳まで過ごした長崎の情景です。
戦前の長崎は、東洋と西洋の文化が入り混じる独特な雰囲気の街でした。私の感性は、長崎という街によって育まれたといっても過言ではありません。幼稚園からの帰り、石畳をスキップし、西洋館の脇を抜け、我が家へと向かいます。父は丸山遊郭の近くでカフェーを経営しており、店には20名くらいの女給さんがいましたが、そのなかにはロシア人と日本人のダブルの方や、中国や朝鮮の女性もいました。おしゃれだった母は、ショールはロシア人の毛皮商の店で作るなど、常に本物志向。私は母のおかげでおしゃれの楽しさを体感しました。
カフェーの隣は芝居小屋で、歌舞伎や大衆演劇、レビューなどさまざまな芝居のほか、日本映画、フランス映画なども上映していました。カフェーの向かいはレコード店で、そこでラフマニノフ自身が演奏しているピアノコンチェルトや、コンチネンタルタンゴ、シャンソン、ジャズなど、さまざまな音楽にふれたことも忘れられません。長崎には、国境を越えた、美しい歌の世界があったのです。
歌の道に導いてくれた小学校の先生も忘れられません。たまたま私が一人で歌っているのを聞いた女性の先生が、ほかの先生たちの前で私に歌わせ、「この子、才能があると思います」と言ってくれた。その先生の紹介でバリトン歌手について、本格的に勉強するようになったのです。
誰にでも、心の故郷というべき土地があると思います。もちろんそこには、苦い思い出もあるでしょう。それでもきっと、その地での経験は人格形成に影響を与えているはずです。ノスタルジーとは、いわば《魂の本籍地》を想う心。たまには忘れかけていた子ども時代を思い出し、ノスタルジーに浸ってみてはいかがでしょう。
●今月の書「ノスタルジア」
関連記事(外部サイト)
- 美輪明宏 「〈お気楽〉に生きるため、明日の朝、目が覚めなかったとしても、後悔しないと思える毎日を送ろう」
- 池畑慎之介「72歳ひとり暮らし、海の見える秋谷の家を手放して、エレベーター付きの安全な終の住処を建設。新居では、ご近所さんと親しい仲に」【2024年下半期ベスト】
- 池畑慎之介「72歳ひとり暮らし。終活にとらわれず、新たに2ヵ所の家を手に入れて。《やりたいこと》リストが常にいっぱいだから、寂しさを感じる暇はない」
- 江原啓之×丸山敬太 初対面から45年「敬太」「プーヤン」と呼び合う仲。高校の同級生、青春時代を語る
- 江原啓之×丸山敬太 卒業後は別々の道へ。「26歳の頃は、神主と個人カウンセリングを」「ドリカムの衣装を26歳で手掛けた」