ジェーン・スー われながらよく働いた2024年。プロレスは82回ほど会場に足を運んだ。2025年もこんな調子で過活動になるのだろう
2025年2月26日(水)12時30分 婦人公論.jp
イラスト=川原瑞丸
ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「振り返ると」。2024年はスーさんにとって、どのような1年だったのでしょうか。手帳に記されていた内容とは——
* * * * * * *
スケジュール帳を開いて
2024年もアッと言う間に終わってしまった……はずだ。この原稿を書いているのは12月頭。11月が一陣の突風のように過ぎ去っていったことにようやく気づき、まだ目を丸くしている状態である。
11月は寒暖差が激しかった。外気の肌触りが変わったり、晴れた空が高くなったりといった移ろいから、来るべき年末のにおいを感じ取ることが難しかった。バタバタしていたら終わってしまった、という印象です。
ついでに24年全体も振り返ってみよう。手元の手帳を開く。24年は元日から能登半島地震があり、いまだ復旧作業が思うように進んでいないのが痛ましい。
開いた手帳に目を落とし、少し不機嫌になる。大手文具メーカーの、なんてことない、しかし熟考に熟考を重ねた結果「これだ!」と決めた25年のスケジュール帳が、どこを探しても売り切れになっていたのを思い出したから。なぜ、もっとたくさん生産しないのか。おそらく、在庫を残したくないから。時期を逃すと価値が激減する商品だから。カレンダー同様、スケジュール帳は足が速い。
こんなことなら、ちょっとばかり端のほうがめくれていたのを買っておけばよかった。近所の書店で、11月下旬には見つけていたのだ。なにしろ11月が猛スピードで駆け抜けていったので、気づいたらどこにもなくなっていた。ネットショップでは価格が倍に吊り上がっている。なぜ? ウィークリーでバーチカル(時間軸が縦)でA5サイズの手帳なんて、市場に何種類も存在するではないか。みんなそれを使えばいいのに。
ならば、私がほかのを選べばいいのである。断じて嫌である。去年さんざっぱら悩んで、結局選ばなかったほうを今年こそ使いたい。去年のは悪くはなかったが、最善とも言い難かった。
もしかして、24年に私と同じような経緯を辿り、新しいのをさっさと購入した人がたくさんいたのかもしれない。そう考えると悲しくなってくる。平素なら仲間になれたかもしれない人たちが、こんな風にパイを奪い合う見えない敵になるなんて。スケジュール帳による分断だ。
振り返ると
本題に戻ろう。24年はどうだったか、という話ですよ。
手帳をめくる。われながらよく働いた。通常業務のラジオやポッドキャスト、連載原稿、寄稿原稿に加え、講演を20本。イベントは渋谷公会堂こと「LINE CUBE SHIBUYA」での2デイズや運動会を含めて10本。本は共著を1冊出した。
よく遊びもした。プロレスは元日から見始め大晦日で見収める予定。数え間違いがなければ、遠征を含めて82回ほど会場に足を運んだ。講演に紐づける知恵を得てから、温泉地まで足を延ばすようになり、4回くらいは国内旅行をしたはず。映画は10本くらい観たと思う。『チャレンジャーズ』と『憐れみの3章』と『ヒルビリー・エレジー』がよかった。本はほとんど読んでいない。手を付けては放置したままの読みかけだらけだ。
私はおおむね元気だったが、86歳の父親がコロナに罹患したり、道路で転倒して骨折したりした。そのせいでストレスが祟り、私も1度だけ回転性のめまいに見舞われたのが10月だったような。
それぞれの出来事に焦点を当てれば、それなりに鮮やかな記憶が蘇ってくるが、こうやって数字で表すと味気ない。25年もこんな調子で過活動になるのだろう。
今年もよろしくお願いします。
関連記事(外部サイト)
- ジェーン・スー 米大統領選でトランプ氏の当選に感じた現実。誰もが自分らしく「私はここにいていいのだ」と思えることが社会成熟には重要だが、これから先は…
- 斉藤ナミ「評価されたい、愛されたい…いつも誰かに嫉妬している。でも嫉妬は私らしさで、原動力にもなっている」
- 斉藤ナミ「生まれて初めての嫉妬は、弟への感情。母の愛を取られたくない…。泣き喚く弟の顔に思わず布団を…」
- ジェーン・スー プロレスを1ヵ月で10大会観戦。応援している選手が勝てば心底嬉しいが、それだけではない。生き残るため、強くなろうとする選手を見て思うこと
- ジェーン・スー「仕事を始めてから、できることが増えれば増えるほど、できないことが鮮明になった。稲穂が頭を垂れるときに気づくこと」