大切な人を亡くして苦しんでいる人を診てきた和田秀樹「経験からいうと立ち直りは女性のほうが圧倒的に早く…」悲しみを長引かせず、克服するために大切な行動とは
2025年2月28日(金)6時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
厚生労働省が公表した「令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況」によると、2023年の死亡数は157万6016人で、前年より6966人増加しました。いつかはおとずれる<死>について、年間200人もの死に立ち会ってきた精神科医・和田秀樹先生は「みんな死ぬのだから、必要以上にこわがったり、不安になることもない」と話します。そこで今回は、和田先生が「ひとりになってからどう生きるか」を指南した新刊『死ぬのはこわくない —それまでひとりを楽しむ本』から、一部を抜粋してお届けします。
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大切な人を亡くした「寂しさ」とは
たった今、この瞬間も、寂しくて仕方がないと感じている人もいることでしょう。では、その「寂しさ」とはいったい何なのでしょうか。
もともとひとりで過ごすことに耐えられないというタイプの人は、一緒に過ごす人がいないというだけで、苦痛を感じてしまいます。
また、ひとりでいることは苦ではないけれども、つねに「自分のことを分かってもらっていない」とか「本音がいえない」と感じて生きているタイプの人も、寂しさを感じやすいといえるでしょう。
どんなときも「まわりに合わせないといけない」とか「他人に気に入られないといけない」と考えてしまう人は、心の底から他人とのつながりを感じられず、寂しさを抱え込んでしまうのです。こういうタイプの人は、喪失体験をする以前から、寂しさとともに生きていたといえます。
なぜ女性は夫の死から立ち直るのが早いのか
大切な人を亡くして、寂しいと感じるには、二つ条件があります。一つは、しゃべりたいのに、しゃべる相手がいない、疎外感や孤独感を感じてしまうときです。自分はひとりぼっちで、誰にも相手にされていない。そんなふうに思ったとき、人は寂しさを覚えます。
対象喪失で苦しんでいる人を診てきた経験からいうと、立ち直りは、女性のほうが圧倒的に早いです。この理由は、女性には話し相手になってくれる友達がいるからです。
「夫が死んでしまって寂しくて仕方ないのよ」、友達にそう電話をすると、「そんなこといってないで、じゃあ、一緒にご飯でも食べようよ」という流れになり、外出し、会話を楽しむことができます。これが、悲しみを克服するのに、非常に大事なことなのです。
自分の思いを共有したり、気持ちを分かり合ったりすることで、人は孤独を乗り越えていきます。ひとりで塞ぎ込んでいては、悲しみが長引くだけなのです。
ひとりだと寂しくて寂しくて仕方がないという場合、今の時代、ネットでチャットをしたり、SNSを使って話せそうな相手を探すというのも一つの手だと思います。
寂しさと密接にかかわる前頭葉
もう一つ寂しいと感じる条件は、家に帰るとぽつんとひとり。それを意識してしまうときです。夫や妻が一緒にいたときは、うっとうしいなと思っていたとしても、いざひとりになると、必要以上に寂しさを感じてしまうものです。
ましてや、家族で住んでいた広い家にひとりで住むことになると、けっこう孤独を感じてしまうわけです。可能なら、ひとり住まい用に家を住み替えることをおすすめします。
(写真提供:Photo AC)
他にも、脳内にある前頭葉の衰えも、寂しさと密接にかかわっています。前頭葉の主たる働きは、ある考えにとらわれたとき、他の考えにスイッチする機能です。
年をとって、前頭葉の機能が衰えていると、一度悲しい感情や不安感情に陥ってしまうと、そこから逃れられなくなります。これも、寂しさを払拭できない原因の一つです。要は、前頭葉の機能が落ちているから、心の切り替えが難しいのです。
ただ、前頭葉に関しては、年をとったから機能が落ちたとは一概にいえません。前頭葉は若い頃から使っていなくては活発に機能しません。たとえば、テレビや学校の先生の言うことを鵜呑みにして疑わない、誰かの言いなりになり、言われた通りに生きていく。そんなことをしていたら、前頭葉はまったく鍛えられません。
前頭葉は、何歳からでも使えば動き出す分野です。前頭葉は想定外のことが起こったときに動き出します。悲しみにとらわれているときこそ、ちょっと普段と違う道を歩いてみたり、行ったことがないレストランに行ってみたり、読んだことがない本を読んでみたりと、想定外のことを起こしていきましょう。
心のプロを気軽に頼って
夫の存在を重荷に感じていた妻でも、遊び人で妻の存在をウザいと思っていた夫でも、先に死なれてしまうと、罪悪感を抱いてしまうものです。
寂しさは、エスカレートする感情でもあるので、どうしようもないときは、カウンセラーや精神科医という心のプロに頼ることを考えてもいいのではないでしょうか。
精神科や心療内科に行くのは「心を病んだ人」というイメージが強いのか、そう気軽に通える場所ではないようです。でも、宗教や占いやキャバクラに行って、愚痴をこぼすくらいなら、もっと気軽に心のプロに頼ってほしいと思います。
※本稿は、『死ぬのはこわくない —それまでひとりを楽しむ本』(興陽館)の一部を再編集したものです。
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