「今回の方がハードルが高い」高橋大輔がフルプロデュースするアイスショー『滑走屋』待望の再演はどう進化するのか
2025年3月3日(月)6時0分 JBpress
(松原孝臣:ライター)
アイスショーの新たな歴史を築く
時は来た。
あれから1年あまり、アイスショー「滑走屋」の幕が再び開こうとしている。
「滑走屋」はフィギュアスケートの新たな歴史を築き、2023年春をもって競技生活から退いたフィギュアスケーター高橋大輔が立ち上げ、フルプロデュースするアイスショーだ。
氷上だからこそできる、陸上では不可能な疾走感をはじめとしたフィギュアスケートの魅力を伝えたいという思いとともに、高橋が自ら大会の場に足を運んで見出した若手スケーターを数多く交えて開催された。そこには才能あるスケーターたちが活動を続けるための場にしたいという思いもあった。
そんな願いを込めた公演は2024年2月に福岡で行われ、大きな反響をもって幕を閉じた。
開催する目的であったフィギュアスケートならではのスピードが醸し出す迫力。多人数が複雑な動きをして氷上に描く構図の妙と美しい群舞。統一された世界観のもとに貫かれるストーリー性。スケーターたちの、独特な動作などがもたらす斬新な表現。
振り付けにダンスと芝居が融合したエンターテインメント集団「東京パノラマシアター」主宰の鈴木ゆまを迎え、その力も借りつつ生み出されたショーは、これまでにないアイスショーとして、いやアイスショーというジャンルに収まらず新機軸のエンターテインメント作品として好評を博した。高橋は受け取った反響をこう振り返る。
「前回見てくださった方々の中には楽しんでくださったという意見が多かったです。アイスショーの新しい形が見られたと言ってくださっている方々もいて、うれしかったです」
公演の模様は観客の人々に撮影することが許可されていた。その映像は多数SNSなどにアップされ、今日に至るまで観られ続けていることも反響の大きさを示している。
その2度目となる公演が3月8・9日に広島(ひろしんビッグウェーブ)で開催される。
「今回の方がハードルは高いと思っています。2回目で、しかも再演なのでクオリティという部分でハードルが高いというのもあります。プロデュースと言った手前、すべて自分の責任になると思うので、『なんだ』って思われてしまったら、お客様はついてきてくれないですし、今まで応援してくださっている方、プラス新しい方にも足を運んでいただきたいという思いもあるので、クオリティという意味ですごい責任感を感じています」
好評を博したからこそ、期待は大きくなる。1回目の反響を知り、足を運ぼうとする人もいるだろう。
だから「前回詰め切れなかった部分」にこだわるという。
氷上以外にもある細部へのこだわり
2度目のメリットもある。
「前回は急に決まったというのもあったので、スケジューリングだったり、人数をあれだけ使ってのリハーサルだったり、まったく予想がつかない中、どこにどれくらい時間かかるのかとか手探り状態でした。それを踏まえて今回はこれくらいかかるだろうなっていうのもなんとなく見えてましたし、早い段階で準備ができるようになりました」
2月4日にはまず関東在住のスケーターが集まって練習を開始した。前回よりも早めに準備を始められた例の1つだ。
出演者は新たに参加するスケーター6名が加わり計26名となった。
「18歳ぐらいから20代前半までと伸び盛りのスケーターたちで、いろいろな可能性なども含めてお願いしました。早い段階からリハーサルに参加してくれています」
人数が増えれば、群舞の迫力も増すだろう。それは「滑走屋」の特色をさらに引き立たせることになる。
福岡公演に引き続き出演するスケーターたちのモチベーションも高い。のちに映像で自身の滑りを目にした彼らは、「もっとできるはず」「まだできていないところがある」と感じたという。その思いをぶつける場でもある。しかも出演したスケーターの中には、公演を経て、現役続行を決意した選手、活躍の場が広がる希望を抱いた選手もいた。選手としてのターニングポイントになったと言う選手もいる。出演者自体の魂を揺るがすものだったから、見る人をも揺さぶることができたし、だから彼らの2度目の公演へ懸ける気持ちは強い。
クオリティを高める、それは細部まで磨くことでもある。細部へのこだわりは、氷上以外にもある。
「今回、客入れから曲を選んでいます。本番へ向けて音楽でも楽しめると思います」
座席はいくつかのカテゴリーに分けられているが、それぞれのカテゴリーのネーミングは高橋が決めた。例えばリンクに最も近い位置の「Air(エアーシート)」は、スケーターの疾走が生み出す風を感じられる席、「Challenge(チャレンジシート)」はそこまでアイスショーを見たことがない人々へ向けて、「Welcome(ウェルカムシート)」は初めてアイスショーを見る人々へ……。最も安いWelcomeの場合、料金は5000円と、アイスショーでは低料金におさえた。
そのネーミングにも、価格設定にも、フィギュアスケートのファンにも、今まで触れたことのない人にも、いろいろな人に見てほしいという願いがある。同時に、さまざまな人に見て楽しんでもらえる作品であるという自負もある。
「いろいろなスケートのショーはあると思うんですけど、その中でも新しい形のショーになっているんじゃないかと思います。本当にスケートのことがよく分からなくてもすごく楽しめる氷上のエンターテインメントになっていますし、公演時間は75分、あっという間に終わるので、気軽な気持ちで遊びに来てくれたら楽しんで帰っていただけるんじゃないかなと思います」
直前合宿を経て、スケーターたちは、今、公演を迎えようとしている。
自らの未来を切り拓くために、スケートの未来を築いていくために、彼らは広島の地に立つ。
筆者:松原 孝臣