豊田章男会長からもエール、宇野昌磨が初プロデュースするアイスショーは「全員で作り上げていく」新しい挑戦も
2025年3月24日(月)6時0分 JBpress
(松原孝臣:ライター)
「みんなで最高のものにする」
3月19日、宇野昌磨が名古屋市内で記者会見に出席し、自身がプロデュースするアイスショーの開催を発表した。
オリンピックでは、フィギュアスケートで日本人最多の計3個のメダルを獲得、世界選手権で2度優勝するなど輝かしい成績を刻み、昨年5月に引退。その後、プロフィギュアスケーターとして数々のアイスショーに出演するなど精力的に活動してきた。そしてついにアイスショーを開くこととなった。
タイトルは「Ice Brave」。
「いちばん自分の現役時代の軌跡と近いかな、というか、やっぱり僕の強みっていうところは、気持ち的に前に強くいくところ、そこはスケートに対しても自分が誇れる強みでもあったかなと思うので、これなんじゃないか、と」
公演は6月14・15日に愛知県の愛・地球博記念公演アイススケート場(モリコロパーク)で開催するのを皮切りに、21・22日に福岡市のオーヴィジョンアイスアリーナ福岡、7月12・13日に新潟市のMGC三菱ガス化学アイスアリーナと、3会場で行われる。出演は本田真凜、本郷理華、中野耀司、唐川常人、櫛田一樹。ゲストスケーターとしてステファン・ランビエールも参加する。
会見の中で、ショーの一端を明かす。
「曲の構成は2曲を除いて、すべて僕が現役時代に使っていたプログラム演目で構成されています。初めての僕のプロデュースのショーということで、最初に感謝の気持ちも込めて、競技から次のステップの再始動というので、昔の自分からここまで成長できましたよっていう部分も見せられたらいいなと思いますし、あの曲を今滑ったらどんなものになるんだろうというのは、僕自身もそして見ている皆さんも気になるところがあるんじゃないかなと思いました」
「(新たな)2曲が本当に新しい挑戦なんです。けっこう難しい挑戦ではあるんですけど、でもハードルが高いほどやりがいもありますし、それが成し遂げたときには達成感だったり、皆さんもあっと驚くようなものが見せられるかなと思うので、ぜひ楽しみにしていただけたらなと思っております」
大切にしようとしていることは、次の言葉にあった。
「このショーはもちろんプロデュースしている形ではあるんですけれども、今決まっているメンバー全員で作り上げていく、みんなで最高のものにする。そしてこのショーが全部終わった後に『すごくいい時間だったね』って振り返れるような時間にしたいです」
「ショーごとに色があると僕は思うんですけど、僕一人では自分が思い描く素晴らしいショーは僕には作れないんじゃないか、ですけど皆さんのたくさんの協力を得てこのショーを完成させる、素晴らしいものにするっていうところを自分のこのショーの色にしたいと思っています」
「誰かの価値を上げてあげる」
完成させるために必要だと考えるのは出演者やスタッフのみでなかった。
「やっぱり試合もお客さんがいて、たくさんの拍手に囲まれて、拍手が大きいとうれしかったりします。このショーも、僕たちが素晴らしい演目を披露するというのも大事な一つの要素なんですけど、会場に足を運んでくださった皆さんが心から楽しんでくれる、楽しんで、自然とボルテージが上がって一緒にこの会場で盛り上がってくれる。これでようやくアイスショーが素晴らしいもの、大成功という形になると僕は思っています」
一連の話は、さまざまな挑戦を意味していた。
新しい2つのプログラムも挑戦なら、過去に使用していたプログラムに取り組むこともそうだ。再び演じるにとどまらないからだ。会見終盤の質疑応答で宇野は言う。
「自分が過去に納得できなかった演目とか、もうちょっといい演目にしたかったなって思っていたものがたくさんあったんですけど、過去のプログラムをみつめなおして新しいものをつくって、自分が満足いくものにすればすべてが自分にとって自信を持って満足できる演目にできるんじゃないかなって思いました」
現役の頃だって力を尽くして取り組んだプログラムであっても満足がいかなかったものを、満足いくものにする。それはたやすいことではない。
皆でショーをつくりあげるにあたっても、求心力はやはり重要になる。当然、宇野がその任を担うことになる。それも挑戦だと言える。
ただし、それを担えるだけの能力はこれまでもうかがわせてきた。同じリンクで練習するスケーターたちがしばしば語る中で示した信頼、敬意はその一つだ。好演技に惜しみなく拍手をおくる姿もその一つ。また、仲間を思い、率直に意見を発する姿勢も数えられるだろう。そしてともにつくりあげ、やり抜いたとき、仲間はきっと新たな地平に立てるはずだ。
また、過去のプログラムを満足のいく形で新たにすれば、ショーのプロデューサーとしてという意味に加え、スケーターとしても宇野自身、階段をまた一つ上ることになる。プログラムを継承していくという点でも大きな意味を持つ。
すでに練習は始まっていて、会見でも映像が流れた。進行役とのやりとりの中で実に8時間、練習していた日もあったことが明かされている。現役時代と変わらず、精神面、身体面双方で強靭であること、責任感の強さもショーを遂行するにあたっての武器となる。
さらにこの日の会見では、現役時代の所属先であったトヨタ自動車の豊田章男会長からのアドバイスも。「今度からは自分じゃなく誰かのための仕事です。誰かの好感度を上げてあげる。誰かの価値を上げてあげる。それがアイスショーの座長の仕事だと思います。いろんな変化がありますが、今まで自分を高めることをやってきた昌磨だからこそ、誰かの価値を上げること、きっとできると思います」
アイスショーは浅田真央や羽生結弦、高橋大輔が新機軸の公演をスタートさせ、ショーの世界に広がりをもたらしている。
そこにどのような色を加えるか。
今までと変わることなく率直に思いを語るその姿には、ただただ前を見据える強さがあった。
筆者:松原 孝臣