1本40万円から100万円と言われる<インプラント>。でも歯周病が進行すれば外れる上、メンテナンスには保険適用されず…「インプラントに詳しい」と標榜する歯科医でも安心できないワケ

2025年3月7日(金)6時30分 婦人公論.jp


(写真:stock.adobe.com)

歯が失われた場合の治療法の一つ、「インプラント」。失った歯の代わりに人工の歯根を埋め込む、という治療法を指しますが、外科治療が必要なうえ、かかる費用が高額なことでもよく知られています。しかもそれだけの負担を経ても、適切なメンテナンスを怠れば、脱落してしまうことがあるそうで…。今回、日本で10人目となるヨーロッパインプラント学会の認定医で、日本補綴歯科学会の指導医を務める永田浩司先生に解説を頂きました。

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インプラントを入れた後は手入れ不要?


歯を失ってしまった時、選択肢の1つとなるのがインプラントです。

「第二の永久歯」ともよばれるインプラントですが、自由診療で一般的に1本40〜50万円、クリニックによっては1本100万円もの費用がかかるため、経済的な負担の大きさから選択すべきか悩まれる方も多いと思います。また、外科治療が必要になることから、身体的な負担の大きさを考えて治療を躊躇する方もいるでしょう。

では、インプラントのメリットは何かいうと、噛む力が元の歯の80%程度まで回復することです。加えてお手入れがラクなことが、歯を失った時の他の選択肢である入れ歯、ブリッジとの大きな違いとなります。

インプラント治療が必要になる、歯を失う2大理由は虫歯、歯周病ですが、50代、60代の場合は歯周病が多くなります。

「インプラントを入れたら、もうお手入れは不要ですよね」とおっしゃる患者さんがいますが、実はインプラントを入れる前よりもしっかりお手入れしなければいけないのです。

患者の10%近くを襲う「インプラント周囲炎」とは


確かにインプラントは人工物なので虫歯にはなりません。しかし、歯周病にはなります。このことはあまり知られていないように思います。

そもそも歯周病とは、細菌の感染によって歯の周りの歯肉(歯茎)に炎症が起こり、それが進行すると歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしてグラグラにしてしまう病気です。

インプラントは人工物ですが、歯周病同様、まわりの歯肉に炎症が起こる可能性はあります。

これは「インプラント周囲炎」といって、インプラント装着から5年経過すると発症率が高くなるといわれる疾患です。インプラント装着後、3年以上経過した患者さんの約10%が罹患しているといわれています。

インプラントのまわりの歯肉が腫れたり、血が出たりする。歯ブラシに血がついているといった症状は、インプラント周囲炎の兆候である可能性があります。

インプラント周囲炎がさらに進行すると、骨が溶けてインプラントがぐらつき、外れてしまいます。インプラントが脱落するケースの多くはインプラント周囲炎が原因です。

治療も費用も負担は大きい


実はインプラント周囲炎の治療は、インプラントを入れる治療よりも難しくなるケースもあります。

軽度のインプラント周囲炎の場合は感染の原因となっている細菌を取り除くために、状態に応じて抗生物質の投与やレーザー機器による除染などを行います。

中等度から重度の場合は外科的な処置が必要となり、特にインプラント周囲炎の進行によって骨が溶けてしまった場合は、元の骨の状態まで戻す再生治療を行うことになります。最悪の場合は、せっかく入れたインプラントを除去しなければいけないケースもあるのです。

こうした治療の難しさもさることながら、治療にかかる費用負担もかなり大きなものです。その理由として健康保険が適用されない治療が多いことがあります。一部の細菌除染やインプラントの抜去は保険適用となる場合がありますが、ほとんどの治療は自由診療となります。

また、使用する機器や材料、薬などが非常に高価なことも理由です。治療にかかる費用はケースにもよりますが、軽度の治療でも5万円以上、骨の再生治療の場合は40万円以上かかることもあります。

ただ、以前はインプラント周囲炎になると歯肉を切開する外科治療を行うことが多かったのですが、先述したレーザー治療をはじめ、失われた骨や歯肉の移植が可能になるなど、治療も進歩しています。

インプラントを入れることはゴールどころか…


インプラント周囲炎に罹患しないためには、定期的なセルフケアとプロケアを続ける以外にありません。

特にインプラント周囲炎の原因となる細菌感染を予防するためには、毎日のセルフケアが大切です。

誤解されがちですが、インプラントであっても歯垢や歯石はつきます。また、インプラント治療では失ったご自身の歯と全く同じ形の歯を入れられるわけではないので、食べ物が詰まりやすくなることもあります。特に配慮すべき箇所を確認して、ご自身の状況に合った歯ブラシや歯磨剤(歯磨き粉)、洗口剤を使ってオーダーメードの歯磨きを行う必要があります。

時々、インプラントの治療を終えた患者さんから「これで通院しなくて良くなるわね」と言われてびっくりすることがあります。当院ではインプラント治療を開始する際、治療後のメンテナンスの期間や費用まで説明して同意書をいただいているからです。

インプラントは入れることがゴールどころか、「入ってからがスタート」ともいわれています。噛み心地に慣れ、硬いものが噛めるようになるまでに時間もかかりますし、長く使い続けるためには先述したセルフケアに加え、歯科医院での定期的なプロケアも重要となります。

メンテナンスも保険適用ではない


歯科医院で行うのはさまざまなメンテナンスです。まず、インプラント周囲炎の対策として、インプラント周囲に炎症が起きていないかをチェックを行います。

プロケアはインプラント周囲炎のためだけではありません。インプラントのネジがゆるんだり、壊れたりすることや、欠け、ヒビなど、インプラントを入れた後の上物のトラブルが起きていないかを確認します。特に歯ぎしりの癖がある人は要注意です。

また、ご自身の歯は生涯にわたって動き続けるため、インプラントと隣接する歯との間に隙間が空いてしまうこともあります。インプラントの摩耗によって噛み合わせが変化することもあるため、調整も必要になります。

特に高齢の患者さんの場合、入院などをきっかけに急激に骨が弱ってしまうことがあります。この場合、インプラントを支える骨がどれくらい残っているかによって、インプラントを存続できるかが変わってくるため、レントゲンで骨の状態を確認していくことも大切です。

このようにチェックしなければいけない項目が多い上にご自身では判断が難しいために、プロの力が必要となるというわけです。また、こうしたメンテナンスも保険適用ではありません。歯科医院によって異なりますが、1回1万〜3万円かかることも知っておいてほしいと思います。

「インプラントに詳しい歯科医」でも安心できないワケ


インプラントは定期的なメンテナンスによって初めて長持ちする治療といえます。つまり歯医者さん通いが一生続くことになるので、ずっとつき合っていける歯科医院を選ぶことが大切になります。

ところが「インプラントに詳しい」と標榜している専門の病院であっても、インプラントを入れた後のメンテナンスを行っていない所もあるので注意が必要です。

先述した「ご自身のオーダーメードの歯磨き」をする上では、歯科衛生士による指導やクリーニングを受けることも効果的です。しかし、衛生士がいない、いてもクリーニング業務を行わないというケースもあります。


(イラスト:stock.adobe.com)

このことからインプラント治療をする上では、予防歯科や歯周病治療にも力を入れている歯科医院を選びたいものです。もし、分からない場合は「入れた後のメンテナンスはどうなっていますか?」と確認するとよいでしょう。

また、転勤や引越しなどでインプラント治療を受けた歯科医院でメンテナンスを受けるのが難しい場合もあるでしょう。一口にインプラントといっても世界には数百社のインプラントメーカーがあります。その場合は同じメーカーのインプラントを採用しているクリニックを選ぶことをおすすめします。

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