歯が全部残り、裸眼で広辞苑が読める…糖尿病発症から23年「75歳で薬なし」の現役医師が食べているもの
2025年5月3日(土)8時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zepp1969
※本稿は江部康二『75歳・超人的健康のヒミツ』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
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■52歳で糖尿病を発症、食生活の敗因はなんだったのか
私は1950年1月8日生まれです。2002年6月、52歳で糖尿病を発症しました。
敗因の1つと考えられるのが、お米です。
2000年に『完全米飯給食が日本を救う』(東洋経済新報社)という本を、井上ひさしさんや幕内秀夫さんなどと共著で刊行していたこともあり、普段は玄米を、旅先では玄米は無理なので、とにかく、おにぎりやご飯をしっかり食べるように心がけていました。
パン(小麦)を食べることはまずなかったのですが、努力して、米(玄米、白米)をタップリ食べていたのです。
さらに、40歳すぎから、「酒をやるなら純米大吟醸、ビール飲むならヱビスビール、愛読書並びに推薦書は『夏子の酒』」……てなキャッチコピーで、それまで飲んでいたウイスキーやブランデーから、純米酒とビールに切り替えて、浴びるように飲んでいたのが2つ目の敗因でした。結局、私の場合、大量の「ご飯(玄米、白米)+ビール+純米大吟醸」が三位一体となって、糖尿病発症コースにまっしぐらに突っ走ったのだと思います。
今であれば、血糖値を直接上昇させるのは糖質だけ、醸造酒(日本酒、ビール)は血糖値を上昇させ、蒸留酒(ウイスキーやブランデー)は上げない、という知識があるのですが……。
通常、食後高血糖が数年間続いたあとに、空腹時血糖値が上昇するといわれているので、じつは1990年代の初め頃からとっくに、食後高血糖が存在していた可能性が高かったのです。
皆さんも、糖尿病の早期チェックには、健康診断で測る空腹時血糖値ではなく、主食摂取1時間後の血糖値を調べてみてほしいと思います。それが180mg/dlを超えていると、近い将来、糖尿病になりやすいのです。
■10年間、食事のたびに食後高血糖を繰り返してきた結果か
おそらく私は、42〜43歳頃から、毎日、食事のたびに食後高血糖を繰り返し、だめ押しに毎晩毎晩、雨の日も風の日も晴れの日も雪の日も、律儀に純米酒とビールを飲むことで、飲酒後高血糖を生じていたのでしょう。
この頃は、テニスの帰りに週1回はスポーツジムにも寄って、自転車こぎや腹筋・背筋運動もしていましたが、なぜか体重は徐々に増加し、お腹周りも順調に育っていきました。
しっかり摘めるお肉なので、筋肉増強ではなく、脂肪増強に間違いありません。
「なぜだ‼」……と、戸惑いと憤りが湧いてくるものの、誰のせいでもありませんし、現実は厳しいものでした。
「今までの健康を目指したライフスタイルは全部ムダだったのか⁉」とガックリときました。正しいと信じていた常識が、完全に間違いだったと思い知らされたのですから、無理もありませんでした。
■糖尿病が悪化しなかっただけでなく、老化も防げたと実感
でも、予兆はありました。肉や脂を控えて運動も続けていたのに、40歳を超えた頃から体重が徐々に増えていたのです。
50歳を迎えた頃には、お腹周りのサイズは完全にメタボの領域に達していました。明らかにおかしかったのです。
また、40歳頃までは、体重は不変でしたが、運動量は知れていたので、現実には筋肉量が徐々に減り、その分、脂肪量が徐々に増えて、結果として基礎代謝が減っていたものと思われます。いわゆる中年太りですね。
それでも、「まさか」と心のどこかで思いながら血糖値を調べてみた結果、疑いもなく糖尿病だと診断するしかない数値が出てしまったわけです。
写真=iStock.com/PonyWang
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即「スーパー糖質制限食」を開始し、後期高齢者となる75歳現在まで、23年間、継続して実践しています。その結果、
①歯は全部残っており、虫歯なし。歯周病なし。
②目は裸眼で『広辞苑』の小さい文字が読め、車の運転もできる。
③聴力低下なし。
④夜間尿なし。
⑤身長の縮みなし。
⑥52歳で糖尿病発症も、内服薬なし。
⑦HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、5.5〜5.9%を維持し、糖尿病合併症なし。
⑧血圧は、120〜135/70〜85mmHgと、正常で、降圧剤内服なし。
⑨テニス歴は40年以上であるが、どこも痛くない。
以上のように、明らかに、糖質制限食実践により老化が防げています。
75歳で、「①②③④⑤⑥⑦⑧⑨がすべて揃う確率」は、ざっと1000万人に1人で、ほぼ超人といえます。皮肉なことに、糖尿病を発症し、糖質制限食を開始したからこそ、実現できた「超人的健康」といえるでしょう。
■「糖質の摂取を控える」だけで、なぜここまで若返るのか?
糖質制限食とは、京都・高雄病院で1999年から、糖尿病やメタボ治療を目的として、開始した食事療法です。文字どおり、糖質を制限する食事です。
糖質とは、五大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル)のうち、炭水化物から食物繊維を引いたものを指します。
糖質制限食の中でも、最も厳格に糖質を制限するのが「スーパー糖質制限食」です。
高雄病院のスーパー糖質制限給食メニューは、平均すると、タンパク質:32%、脂質:56%、糖質:12%の割合となります。
入院中は、給食費の都合上、1800キロカロリー/日と、やや少なめですが、退院後は、厚生労働省のいう「推定エネルギー必要量」を摂取してよいとしています。
米国糖尿病学会(ADA)によれば、三大栄養素のうち、血糖値を直接上昇させるのは糖質だけで、タンパク質・脂質は直接上げません。
糖質制限食は、糖質を制限して、血糖値の上昇を予防する食事療法です。
■ご飯やパンも少量ならOK、糖質制限の10ヵ条
以下、糖尿病や肥満や生活習慣病が気になる人のための、『糖質制限食十箇条』(2025年版)をまとめました。
『糖質制限食十箇条』——糖尿病や肥満や生活習慣病が気になる人に
一、糖質の摂取を減らす。可能なら1回の食事の糖質量は20g以下とする。
二、糖質制限した分、タンパク質や脂質が主成分の食品は充分量食べる。
三、やむをえず主食(ご飯、パン、めん類など)を摂る時は、少量とする。
四、水、番茶、麦茶、ほうじ茶などのゼロカロリー飲料はOK。果汁・清涼飲料水はNG。
五、糖質含有量の少ない野菜・海藻・きのこ類はOK。果物は食べないか、ごく少量にとどめる。
六、オリーブオイルや魚油(EPA、DHA)は積極的に摂り、リノール酸を減らす。
七、マヨネーズ(砂糖なしのもの)やバターもOK。
八、お酒は蒸留酒(焼酎、ウイスキーなど)、糖質ゼロビールはOK。辛口ワインも適量OK。醸造酒(ビール、日本酒など)は控える。
九、間食やおつまみは、チーズ類やナッツ類を中心に、適量摂る。菓子類、ドライフルーツはNG。
十、可能であれば、化学合成添加物の入っていない安全な食品を選ぶ。
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro
糖尿病の人がやむをえず糖質を摂取する時は、食べる直前に、「αGI薬」か「グリニド系薬」を内服すると、食後高血糖をある程度防げます。しかし、普通に糖質を含む1人前の食事を安心して食べられるほどの効果はありませんので、少量の糖質にとどめるのが無難です(牛乳は100mlくらいまでならOK。成分無調整豆乳は200mlくらいまでならOK。肉類と魚介類の摂取量は「1:1」が目安)。
編集部作成、出典=文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
■自分に合った「3段階方式」で主食カットに近づける
糖質制限をするうえで、最終的に目指してほしいのは、1日3食とも主食をカットする「スーパー糖質制限食」です。私自身も23年の間、実践してきて、効果を体感してきました。
ですが、初めからいきなり挑戦するには、抵抗があったり、続かなかったりする可能性があります。そういう場合には、初めは無理をせずに、難易度の低い方法から段階的に進めていくのもよいでしょう。
次の3パターンの方法があります。
■デンプン好きなら、夕食だけ主食をカットという方法も
①スーパー糖質制限食……3食とも主食なし。効果は抜群に早く、一番のおすすめ。1回の食事の糖質量は20g以下。
②スタンダード糖質制限食……1日1回(朝か昼)、少量(糖質40〜50g)の主食あり。夕食は主食抜き。
③プチ糖質制限食……夕食だけ主食抜き。朝と昼は少量(糖質40〜50g)の主食あり。嗜好的にどうしてもデンプンが大好きな人に。
③のプチ糖質制限食から始めて、②のスタンダード、①のスーパーへと、徐々にステップアップしていくのがおすすめです。
主食とは、米飯・めん類・パンなどの米・麦製品や、芋類などの炭水化物のこと。
魚介類・肉・卵・豆腐・納豆・チーズなど、タンパク質や脂質が主成分の食品は、しっかり食べます。
左写真=iStock.com/deeepblue、右写真=iStock.com/gaffera
※写真はイメージです - 左写真=iStock.com/deeepblue、右写真=iStock.com/gaffera
炭水化物への依存が強い方の場合は、まずは、プチ、あるいはスタンダードくらいから始めることによって、次第に慣れてきて、以前ほど糖質を欲しなくなっているのを感じると思います。軽く慣れるのに1〜2カ月、本格的に慣れるのには3カ月から半年でしょうか。
■血糖値とインスリン分泌のデータに基づく理論的裏づけ
1.血糖値を直接上昇させるのは糖質だけで、タンパク質・脂質は上昇させない(米国糖尿病学会)。
2.糖質を摂取しなければ、血糖値は上昇しない。
3.糖質制限食を実践すれば、食後血糖値の上昇は最小限ですみ、糖尿病は改善する。
4.食前・食後の血糖値変動幅が少ないので、生活習慣病の予防ができる。
5.食後血糖値の上昇が極めて少ないので、追加分泌インスリンも少量ですむ。
6.過剰なインスリンは、肥満・がん・アルツハイマー病・老化などのリスクとなるので、血糖コントロールができる範囲内でインスリン分泌は少量であるほど身体にはいい。
これらの6点は、生理学的な事実やエビデンスがあることですので、信頼度は高いです。
■「糖質制限」実践前に知っておくべき注意点とは…
糖質制限食を実践する際、次のような方は注意が必要です。
江部康二『75歳・超人的健康のヒミツ』(光文社新書)
①診断基準を満たす膵炎がある場合、肝硬変の場合、また長鎖脂肪酸代謝異常症・尿素サイクル異常症の場合は、糖質制限食は適応となりませんので、ご注意ください。
②慢性腎臓病(IgA腎症など)も、原則として適応となりません。
③糖尿病腎症は、医師と相談の必要があります。
糖質制限食を実践すると、リアルタイムに血糖値が改善します。
このため、すでに経口血糖降下薬(オイグルコン、アマリールなど)の内服や、インスリン注射をしておられる糖尿人は、低血糖の心配がありますので、必ず主治医と相談していただきたいと思います。
しかしながら、主治医が糖質制限食反対派のこともあると思います。その場合は、日本糖質制限医療推進協会のホームページの「提携医療機関」のページに、北海道から沖縄まで、糖質制限食賛成派の医師(の指導を受けることができる医療機関)がラインナップされていますので、参考にしていただけたらと思います。
一方、薬を使用していない糖尿病の人は、低血糖の心配はありません。
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江部 康二(えべ・こうじ)
医師
1950年京都府生まれ。高雄病院(京都市)理事長。日本糖質制限医療推進協会代表理事。74年京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所を経て、78年から高雄病院に勤務。2001年から「糖質制限食」による糖尿病治療に取り組む。02年、自らの糖尿病発症を機にさらに研究に力を注ぎ、「糖質制限食」の体系を確立。05年『主食を抜けば糖尿病は良くなる!』(東洋経済新報社)で話題となり、以降、糖質制限のパイオニアとして活躍中。
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(医師 江部 康二)