初開催のエキスポ駅伝はトヨタ自動車が独走V、青学大・原監督の“挑発”を吹き飛ばして大学勢に圧勝できた理由

2025年3月21日(金)6時0分 JBpress

(スポーツライター:酒井 政人)


大学勢との“ガチンコ対決”に応えたトヨタ自動車

 実業団vs.大学、駅伝では混じることがほとんどなかった両者が“日本一”をかけて激突した。3月16日に行われた「大阪・関西万博開催記念 ACN EXPO EKIDEN 2025」(以下、エキスポ駅伝)だ。

 大会前、青学大・原晋監督が「こんなに目立つ大会になぜ出ないのか?」とか、「実業団は外国人選手を使わないくらいの気構えでやってほしい」と実業団チームを煽るような発言をしていたが、勝負は大学勢との“ガチンコ対決”に応えたトヨタ自動車が完勝した。

 1区(8.9km)は「どんな秒差でもトップでタスキを渡そうと考えていた」という吉居大和が残り300m付近から強烈スパートを放ち、駒大・伊藤蒼唯を突き放す。「得意なラストでしっかり決めることができたので良かったと思います」と伊藤に4秒差、青学大・鶴川正也に12秒差をつけて、真っ先に中継所に駆け込んだ。

 2区(5.1km)の野村優作は2.2km付近で駒大・吉本真啓にトップを奪われるも、冷静だった。「あまり状態が上がっていないと感じていたので、序盤は落ち着いて入って、後半の下りから上げていこうと考えていました」と狙い通りの“後半勝負”を展開。3.5kmで駒大を抜き返して、2位に浮上した青学大と12秒差で絶対エースにタスキを託した。

 最長区間の3区(12.5km)はハーフマラソン日本記録保持者の太田智樹。最初の1kmを2分35秒で入ると、グングンとリードを広げていく。

「どんな順位でもらっても、自分の走りをすればしっかり結果が出ると思っていたので、楽しんで走ることができました。新御堂筋をまっすぐ走るコースは人が入れないエリアがあったので、孤独を感じることもあったんですけど、ビルの上や駅のホームなどからたくさんの方が応援してくれてうれしかったですね。(急勾配の)坂が見えたときは絶望したというか、どうしようかなと思ったんですけど、自分のペースで走った結果、区間賞を獲得できて良かっです」

 パリ五輪10000m代表の太田は区間2位の國學院大・上原琉翔に47秒差をつけるダントツの区間賞。リードを1分11秒まで拡大した。

 4区(5.4km)のサムエル・キバティは思うようにペースが上がらなかったが、「コンディションは悪かった。でもベストを尽くしました」とトップを駆け抜けた。

 後半のロング区間となる5区(10.1km)は2月9日の延岡西日本マラソンを2時間09分43秒で制した湯浅仁が担当。「最初の5kmくらいは良かったんですけど、折り返してからは向かい風がきつく感じました。順位をキープすることしかできず、チームに貢献できなかったのが悔しいです」と本人は話したが、マラソンの疲労が残るなか、区間4位でカバーして独走状態を崩すことはなかった。

 最短区間の6区(4.7km)は今大会最年長となる34歳の田中秀幸が存在感を発揮する。「自分のなかで最大、最善の準備をしてきて、いまの状態ではしっかりと出し切れたのかなと思います」と帝京大・楠岡由浩を2秒差で退け、区間賞を獲得した。

 6区を終了して後続とは1分以上の大差。最終7区(7.8km)の内田隼人は、「焦らずに、1着でゴールすることだけを考えて走りました」と後ろを気にすることなく、雨の大阪を突き進む。そして大阪・関西万博会場前のゴールに飛び込んだ。「最初で最後になるかもしれない大会ということで、ゴールテープを切った瞬間は凄くうれしく思いました」と笑顔が弾けた。


勝って当然の重圧を跳ね返した

 トヨタ自動車は7区間中4区間で区間賞を獲得。2区の途中で首位を譲ったものの、すべての中継所をトップで通過して、後続に1分14秒以上の大差をつけて完勝した。10000m日本記録保持者の塩尻和也が5区で区間賞を獲得して、マラソン日本記録保持者の鈴木健吾がアンカーを務めた富士通が2位。実業団と大学、カテゴリーを超えた対決は、実業団勢がワン・ツーを飾ったかたちになった。

“日本一”に輝いたトヨタ自動車の熊本剛監督は、「大阪のど真ん中を走らせていただいたこと、非常に多くの方が沿道で応援してくださったことに感謝したいと思います。実業団として、(大学には)負けられないというプレッシャーがあったなかで、選手たちは優勝を目指してしっかりとタスキをつなぎ、勝ち切ったことは評価できると思います」と7人の走者を称えた。

 選手たちも重圧を感じていたようで、大会MVPに輝いた太田は、「負けたら『何をしているんだ』と言われてしまうので、そういう意味でやりづらさは感じましたね。勝ててホッとしている部分があります」と明かした。

 終わってみれば、学生に圧勝したトヨタ自動車。しかし、決して楽な試合ではなかったようだ。

 大阪マラソンと東京マラソンに出場した7名はレースのダメージを考慮して起用を見送り、田澤廉と鈴木芽吹は米国・アルバカーキの合宿中。加えて、故障でレースに出られない選手もいたため、「このメンバーしかいなかった」と人数的にもギリギリだったのだ。

「我々は実業団として、時間とお金を会社からいただきながら活動している。プロ意識を持ってほしい、と選手に言っていますし、学生とは立場が違いますので、その意地を出せたかなと思います」(熊本監督)

 大学勢は3年生以下が主体のチームが多かったなかで、ニューイヤー駅伝3位のメンバーを7人中5人起用するなど、現状での“ベストオーダー”を組んできたトヨタ自動車。実業団選手の矜持をエネルギーにして大阪の街を力強く駆け抜けた。

筆者:酒井 政人

JBpress

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