起床後1時間以内のタンパク質摂取で、筋肉が衰えるのを防ぐ。朝に食べることで吸収率がアップする食材とは?【2025編集部セレクション】
2025年4月1日(火)12時30分 婦人公論.jp
笹井さん「時間栄養学において最も重要なことは『朝食を摂る』こと」(写真提供:Photo AC)
2024年上半期(1月〜6月)に『婦人公論.jp』で大きな反響を得た記事から、今あらためて読み直したい1本をお届けします。(初公開日:2024年1月18日)
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2021年に内閣府が高齢者向けに行った調査によると、普段、食生活について気になっていることは「栄養のバランスがとれていない」ことだと答えた人は約2割いたそう。「見た目の若さには、日々の食事が関係している」と話すのは、『老けない最強食』(文春新書)を著したジャーナリストの笹井恵里子さん。その笹井さんいわく、「時間栄養学において最も重要なことは『朝食を摂る』こと」だそうで——。
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「時間栄養学」
同じ食事の内容や量であっても、食べる時間帯によって体に悪影響を及ぼすこともあれば、栄養素の吸収率や効果を高め、老化や病気を予防する場合もある。
ここには2017年にノーベル生理学・医学賞の授賞理由にもなった「体内時計」が深く関係する。
「体内時計とは主に一日(24時間)周期、すなわち昼夜に合わせて体温やホルモン分泌など体内環境を変化させる機能の総称です」と、明治大学農学部の中村孝博教授が説明する。
「人体のあらゆる細胞──胃や腸、肝臓、膵臓などの内臓器官をはじめ、皮膚や筋肉、血液に至るまで──には時計遺伝子が存在していて、複数の時計遺伝子がフィードバックループを形成することにより、細胞内で約24 時間を生み出しています。日中に活動状態となり、夜は自然と眠くなるような一日周期のリズムは、時計遺伝子が司(つかさど)っているということです」
例えば、臓器の働きも一定でなく、それぞれに一日のうちで活性化する時間帯が異なる。肝臓は午前中、胃や膵臓は正午、腎臓は夕方以降に活動のピークがあるといわれ、体温や血糖値、ホルモン分泌も一日の中で変動がある。
そういった体の仕組みを理解し、体内リズムに合わせて「何を」ではなく「いつ」食べるか。この視点から考えた食事法を「時間栄養学」という。
時間栄養学において最も重要なことは「朝食を摂る」ことだ。
体内時計は朝に光(主に太陽光)を浴び、朝食を摂ることで一日のリズムを刻み始める。人では平均して24時間より少し長い周期でリズムを刻んでいるため、リセットしなければ体内時計は日々少しずつずれてしまう──。
そう言われてもピンとこないかもしれない。だが体内時計が乱れてうまく働かなければ、体の生理機能が最も働くべき時刻に活性化せず、さまざまな影響があるのだ。
起床後1時間以内にタンパク質を
時間栄養学にまつわる数々の論文を発表してきた農業・食品産業技術総合研究機構上級研究員の大池秀明氏によると「朝食を摂取している人としていない人とでは、最終的に人生が変わるくらいパフォーマンスが違ってくる」という。
「小・中学生の学力テストの結果は毎日朝ごはんを食べている児童・生徒が明らかに成績が良く、また体力テストの結果も良いのです。
『老けない最強食』(著:笹井恵里子/文藝春秋)
これらは相関関係であり、因果関係(=成績が良い原因は朝食摂取)ではありませんが、イギリスの学生を対象にした研究でも、アメリカの児童を対象とした研究でも、朝食摂取グループはミスが少なく記憶力が良い、正解までたどり着く時間が短いなどで、良い成績に結びついています。
このことから朝食を食べると頭が働く、もしくは食べないと頭が働かないということがわかります」
さらに東北大学の加齢医学研究所が大学生400人を対象にして行った調査では「朝食摂取習慣がある学生のほうが志望する大学に入っている割合が高い」ことがわかった。
それも朝食摂取習慣のある学生のほうが“偏差値の高い大学”に入っているというから驚きだ。
「就職した会社、年収とも、朝食摂取と関係がみられます。35〜44歳の会社員500人に、小学生から現在までの朝食習慣と、新卒時に就職した会社が第何志望であったかをアンケート調査すると、朝食をほぼ毎日摂取するグループは約60%が第一志望の企業に就職しているのです。また現在の年収別にグループ分けすると、年収が高いグループになるほど、小学生時代から現在まで朝食をほぼ毎日食べていた人の割合が高くなりました」(大池氏)
反対に、ほとんど朝食を摂らない生活を続けてきた人たちは、年収500万円未満のグループに多いという。子どもや孫がいる人は、ぜひ気をつけてほしい。
そして“おひとりさま高齢者”も無関係の話ではない。
朝食を食べないと筋肉量が減少し、肥満や糖尿病、脳卒中のリスクが高まることがわかっている。
「人それぞれ何時が朝でもいいですが、起床後1時間以内にタンパク質を補給することが重要」と大池氏が続ける。
「起き抜けは栄養素が枯渇していて、その状態で動き続けると体は筋肉に含まれる貴重なタンパク質を分解し、生きるエネルギー(ブドウ糖)を生み出そうとする。筋肉が衰えますし、筋肉の時計だけが前に進み、体内時計の乱れにつながってしまうのです」
朝に何を食べるのか
それでは朝に何を食べればいいのだろうか。
朝は脂肪の分解に関わる肝臓が活発に活動する。そのため高カロリー食を食べても脂肪として溜め込まれにくい。
健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子氏は「朝カレー」を勧める。
「一日の始まりでもある朝は、その後に活動量が上がっていくため、カレーのように油分があってカロリーが高いものを食べても太りにくいのです。スパイスも入っているので昼にかけて体温が上昇する手助けにもなりますし、野菜も加わってバランスが整います」
栄養バランスがとれた朝食を摂る人ほど脳全体が活性化し、記憶力や論理思考力が上昇するという報告もある。
ただし塩分を処理する腎臓は、朝よりも夜に活発に働くため、高血圧症の人は朝カレーを控えたほうがいいという。
塩分が気になる人や朝食はパン派なら、「ツナサンド」を。
ツナ缶は主にマグロやカツオなどの魚から製造され、その魚油には脳や血管に対する老化防止があり、心疾患のリスクを低下させるオメガ3系脂肪酸が豊富に含まれる。この吸収率が「朝」がいいというのだ。
花粉症の予防効果も
早稲田大学名誉教授で広島大学大学院医系科学研究科の柴田重信特任教授がこう話す。
「朝食と夕食に魚油を摂取した場合でどちらが血中濃度が上がるかを比較したところ、朝でした。魚油に含まれるさまざまな効能を、朝に摂取したほうがより強く得られるということです」
驚くべきことに、魚油には肥満防止や花粉症を改善する効果もあるという。愛国学園短期大学准教授、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構招聘研究員で管理栄養士の古谷彰子氏は、マウスの実験でその効能を証明した。
「花粉症の予防はもちろん、すでに花粉症になってしまった場合にも魚油、つまり魚を食べることでそのつらい症状を軽減できることがわかっています。さらに体脂肪の蓄積も抑制して肥満を防ぎます。魚といってもいろいろありますが、私は朝食でツナ(マグロ)の摂取をお勧めします。サンマ、イワシ、ニシン、マグロなどの魚の中で、マグロが最も、体内時計のリセット効果があることが私たちの研究によってわかったからです」
体内時計をリセットする働きが強いことからも、ツナサンドは朝にいいというわけだ。
それでは「焼き魚」はどうか?
「もちろんOKです。私たちの実験結果では、炭水化物+タンパク質が体内時計をガツンと動かすのに一番効果的でした。ですからツナサンドならパン(炭水化物)とツナ(タンパク質、DHA・EPA)で理想形ですし、焼き魚ならごはんとセットがいいですね」(古谷氏)
朝からそんなに食べられないよ……という人は、「魚肉ソーセージでもいい」と大池氏。
「魚肉ソーセージもツナと同様、魚由来のタンパク質が手軽に取れる。マグロやイワシを原料にしている商品もあります」
朝に吸収率がアップする栄養分
朝に摂取すると吸収率がアップする栄養成分もある。まずは美白に効果的な抗酸化物質のリコピン。
「リコピンはトマトやスイカに多く含まれますが、朝食に摂ると吸収率が高まるというデータがあります」(望月氏)
トマトジュースを継続的に(8週間以上)飲むと目の近くのしわが減ったという報告もあるから、しわが気になる人は朝にトマトを食べたり無塩のトマトジュースを料理に取り入れてもいいだろう。
摂取後の血中リコピン濃度の変化<『老けない最強食』より>
食物繊維も、朝が最強。柴田特任教授らが発表した研究報告では、朝に食物繊維が豊富な野菜を摂取した人は、昼と夜の血糖値が上がりにくい上に便通が改善している。
「何となく夜に食物繊維を摂ったほうが翌朝の便通に良さそうでしょう。でも違うんです。朝がいい。24時間後の次の日の朝に効くということです。ごま油でゴボウを炒めるきんぴら料理がいいと思います」(柴田特任教授)
日中にパソコン作業が多い人なら朝食でブルーベリーを摂ろう。ブルーベリーに含まれるアントシアニンは目の瞳孔や水晶体の働きを調整するなど、目の機能改善が期待される。
「アントシアニンは種類や個人によっても変わりますが、摂取1〜3時間後に血中濃度がピークに達します」(望月氏)というから、やはり朝食のタイミングが好都合だ。
柑橘類に豊富なビタミンCは、老化防止に役立つが、これは朝食後に。
「ビタミンCは排出スピードが比較的速いのですが、食後は胃や腸に別の食べ物が入っているので排出が遅くなり、体に使われやすくなります」(同)
果物は果糖を含むため、夜に摂ると中性脂肪に変わりやすくなる。柑橘を含めた果物は朝がベストだ。
※本稿は、『老けない最強食』(文藝春秋)の一部を再編集したものです。
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