4月10日は嫉妬の日!斉藤ナミ「嫉妬に取りつかれた私は、SNSで〈私と真逆なリョウコ〉になりすまし自分の恋人にDMした。その結果は…」
2025年4月10日(木)8時0分 婦人公論.jp
(写真提供:筆者 以下すべて)
4月10日は「嫉妬の日」です。noteが主催する「創作大賞2023」で幻冬舎賞を受賞した斉藤ナミさん。SNSを中心にコミカルな文体で人気を集めています。「愛されたい」が私のすべて。自己愛まみれの奮闘記、『褒めてくれてもいいんですよ?』を上梓した斉藤さんによる連載「嫉妬についてのエトセトラ」。第3回は「恋愛嫉妬地獄」です
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前回「生まれて初めての嫉妬」はこちら
偽のアカウントを生み出した
「はじめまして。リョウコといいます。いつもEさんの投稿を見てます。カッコよくてめっちゃタイプです。今度飲みにいきませんか?」
ある時私はSNSで巨乳の若い女の子のフリをして自分の恋人にDMをした。
22歳の女子大生「リョウコ」という架空の女性を作り上げ、適当な写真を拾ってきて(絶対やっちゃダメ)、偽のアカウントを生み出したのだ。
小柄なのに服の上からでもわかる巨乳で色白、もちろん顔も可愛く、休日はたくさんの友達とアウトドアを楽しむタイプという人物像だ。つまり私と正反対。
さあ、早くひっかかれ! 本当は私なんかよりこんな子が好きなんでしょ? どうせ私は要らないんでしょ! でも……もしかしてもしかしたら、無視してくれるかも? ちゃんと私だけを愛してくれているのかも? お願い、やっぱり返信しないで!
泣きながら彼の返信を待った。
『嫉妬論』著者・山本圭教授×斉藤ナミさんの「”嫉妬論”対談」の模様を近日配信予定です。(動画もあります)
イケメンで少しヤンチャな彼
背が高くイケメンで少しヤンチャな彼。付き合い始めは一生懸命に尽くしてくれていたけれど、半年ほど経って雑になってきた頃に見えてきた彼の正体は、女性にも仕事にも生活にもだらしがない男だった。それでも好きなところはあったし、別れるには惜しく、そのまま過ごしていた。
そんな中、私は彼の部屋で謎のプリクラを見つけた。彼がいない隙に棚の引き出しを見たのだ。「マキ♡E(彼の名前) ずっと一緒」と書かれたそのプリクラには、ニヤニヤした彼と「マキ」という巨乳で小柄でショートカットの頭の悪そうな女が写っていた。日付は先週だ。
……は? なにこの女! マキって確か元カノだよね? なんで会ってるの!?
頭がカッとなり、腹の底からぐわああああっっと怒りが沸き起こってきた。どういうこと? 別れてないの? 二股!? 「ずっと一緒」だと? ばーか。彼は私とずっと一緒にいるんだよ!
そこまで好きではなかった彼だったけれど、突然現れた他の女性の影に対して私は一瞬で凄まじい嫉妬心を起こし、急に「取られたくない!」と思ってしまった。
巨乳で小柄……私と反対じゃん。もしかしてこっちが遊びで本当に好きなのは、マキなの?
マキのことを想っている彼の気持ちを想像すると、怒りがしぼんで今度は悲しさが押し寄せて溺れそうになった。喉の下あたりが、キューっと縮んで痛かった。
◆「あなたの嫉妬」noteで開催した「#嫉妬祭り」はこちら
とにかく彼を独占したい
盗み見ているから問いただすこともできない。心の中にモヤモヤを抱えたまま過ごしていると、なんだか他にも女性の影が見え隠れしているような気もした。
……まさか、マキ以外にもいる?
「生まれ変わっても一緒にいたい。ナミさえいれば他に何もいらない」
って言ってたくせに! ギリギリギリ……!
他の女性に取られるかもしれないと思うと、俄然、彼が魅力的に見えてきてすっかり夢中になってしまった。
嫉妬をするということは、彼をそれだけ好きだということなのか。それとも、他の女性も欲しがる男性だから魅力的に見えるのか。はたまた、自分のものを奪われたくないという執着心なのか。自分の気持ちなのに、どれだけ考えてもよくわからなかった。
とにかく彼を独占したいと感じた。私だけを見ていてほしい、裏切らないでほしい、他の女性と喋ってほしくない、通行人のかわいい子を目で追ってほしくない、頭の中で考えられるのも嫌、もうどこかに閉じ込めておきたい! グツグツグツ……!
常に彼のことで頭がいっぱいで、どこに誰といるのかいつも気になるようになり、ついに嫉妬心が爆発した。彼はちゃんと私だけを想ってくれているのかどうか、どうしても確かめたくなったのだ。
貧乳で、身長が高く、色黒で、友達が少なく、いつも家に居る私とは完全に正反対の「リョウコ」は、こうして生まれた。妻の不貞を妄想するあまり自分の弟に妻を誘惑させるという小説、夏目漱石の『行人』自作自演バージョンだ。
ぐちゃぐちゃな気持ちで画面を見つめた
リョウコを無視してほしい、彼の愛を信じたいという願いと、まんまと引っかかったところを見て「ほらね!」と本性を暴きたい、もう楽になりたいという両方の想いを抱え、ぐちゃぐちゃな気持ちでじっと画面を見つめた。すると……
「メッセージ嬉しい! いつ行く? 今夜とかどう? 急すぎるか!(テヘ、みたいな顔文字)」
私には何時間も返事をしないくせにリョウコにはすぐ返事がきた。テヘ、みたいな顔文字が死ぬほどムカついた。その絵文字と、鼻の下を伸ばして浮かれている彼の顔が重なってカッとなり、握りしめていたスマホをベッドに力いっぱい叩きつけた。ボフンッ!
ほらね……やっぱり!!
壮絶な怒りの後、頭から血がサーっと引いていく感覚がして、悲しさと虚しさが胸いっぱいに広がった。ああ、もう最悪じゃん。
返事が来たらその後どうするかなんて考えてもいなかった。
「〇〇駅ってわかる?」
「いつにする?」
「車あるから近くまで迎えにいくんでもいいよ」
必死にメッセージを送り続けてくる彼を、リョウコもナミもすぐにブロックした。
わかってた。あーあ、バカみたい。
とてもじゃないけれど無理
それからも私は恋愛における嫉妬にはずっと苦しめられている。好きな人ができればライバルに嫉妬しまくり、恋人になればどこぞの女性に奪われるのではないかと不安になり、周りにいるありとあらゆる女性に呪いをかけてしまう。
私は私で大丈夫。自分に自信を持てばいい。私の魅力がわからない男性に自分はもったいない。恋人に依存せずに楽しい毎日を一人で送れる女性が一番魅力的。そして本当に相手を愛していれば心から信じられるはず。たとえ彼が私以外の人を好きになったとしても、彼の幸せを喜んであげられるのが本当の愛。
……なんてことは正論かもしれないが、私にはとてもじゃないけれど無理だ。
いつまで経っても自分に自信なんて持てないし、心から信じてしまって裏切られたとしたら死ぬほど傷つくだろうから信じることだってできない。私を裏切った男(と女)に幸せになってほしいなんて露ほども思えない。全員もれなくどこかで行き倒れになればいい。
傷つかないで済むようにあまり好きにならないでいようと心がけたり、男女の恋愛なんてそんなものだと諦めて割り切って楽しめばいいと言い聞かせたりもしてみた。
しかし、いつだって気づけば一人だけ相手に夢中になっていて、いつのまにか嫉妬の鬼と化していた。
美容師だった頃、同じサロンで恋人と働いている時期は特に嫉妬で忙しかった。女性客が多いので一日中嫉妬まみれだ。彼となじみの指名客の席にそっと近づいて会話を聞いたり、カラーやパーマでヘルプに入って邪魔をしたりした。女性を美しくする仕事なのに、そいつらには「なるべくブスに仕上がれ」と呪った。
恋人のSNSを6年分遡って読んだこともある。元カノや、怪しい女友達の返信も血眼で見た。傷つきたくないのなら見なければいいのに。今は私を愛してくれているんだから、過去なんて関係ないのに。
そこには必ず予想通りの最悪な事実があり、見れば確実に傷ついて絶望する。わかっている。それでも吸い寄せられていくのだ。
もはや、傷つきたくてわざと見に行っているような気すらする。私はマゾなんだろうか? 本当は幸せになりたくないんだろうか?
スマホさえ持っていれば、無限に嫉妬し放題
いつでもどこでも誰とでも繋がれるようになってしまった現代。電話、SNS、マッチングアプリ。
夜中にLINEの既読がつかないとすぐ「他の女性と居るのか?」と心配になるし、既読がついても今度は「見たのになぜ返事をくれないのか、他の女性と居るからか?」と思ってしまう。ヤキモキさせられた仕返しに私もLINEを何時間か無視してやろうと意気込むけれど、実際にLINEがくると嬉しすぎて我慢できずに3秒で返してしまう。
どれだけ愛を誓ってくれても「冷めてしまえばそれすら嘘になる」と椎名林檎も歌っている。パッと心変わりしたら、指先一つでマッチングアプリをいつでもダウンロードできる。スマホさえ持っていれば、無限に嫉妬し放題だ。
歴史の教科書を読んで、一夫多妻制の時代に生まれなくて本当によかったと少女時代は思っていたけれど、今の世は別の意味でまた嫉妬地獄だ。
結局、自分が恋人を嫉妬や執着を除いた純粋な愛情で想っているのかどうかは、いつもよくわからない。
「欲望は第三者の眼差しなしには完結しない」
政治学者である山本圭さんの著書『嫉妬論』(光文社新書)によると、フランスの哲学者ルネ・ジラールが欲望の成立を「羨望の三角形」と名付け、こう説明しているそうだ。
嫉妬マニアの斉藤さんが参考にしている山本圭氏の著書『嫉妬論』(著:山本圭/光文社)
「欲望は第三者の眼差しなしには完結しない」
つまり、他人が欲しがっているアレを、私も欲しい。また、ソレを持っていることよりも、ソレを持っていることを他人に妬まれることが嬉しいのだ。
もしかしたらあの日、元カノとのプリクラを見つけなければ私は彼を取られたくないと思わなかったかもしれない。先に嫉妬が生まれたからこそ、彼を好きだと感じたのかもしれない。
しかし、この「恋しい、欲しい、離したくない」という想いが嫉妬か執着か独占欲か愛か? なんてことは、いつだってごちゃまぜで、きっといつまでもわからないのだろう。
そして、これが私の愛し方なんだろう。ドロドロドロ……。
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