「嫉妬 女性 作家」で検索したら、出てきたのは偉大な先輩、紫式部だった!知り合いの「新刊が出ます」のお知らせが世界で一番嫌いだ

2025年4月25日(金)8時0分 婦人公論.jp


自分の嫉妬に疲れてしまうこともある…(写真提供:筆者 以下すべて)

noteが主催する「創作大賞2023」で幻冬舎賞を受賞した斉藤ナミさん。SNSを中心にコミカルな文体で人気を集めています。「愛されたい」が私のすべて。自己愛まみれの奮闘記、『褒めてくれてもいいんですよ?』を上梓した斉藤さんによる連載「嫉妬についてのエトセトラ」。第4回は「仕事嫉妬地獄」です

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前回「4月10日は嫉妬の日!斉藤ナミ『嫉妬に取りつかれた私は、SNSで〈私と真逆なリョウコ〉になりすまし自分の恋人にDMした。その結果は…』」はこちら

「嫉妬 女性 作家」で検索したら…


「長すぎて読めん」「こんな人が彼女じゃ疲れる」「人間らしくていい」
『嫉妬マニア』がYahoo !ニュースで公開されるたび、読者からのコメントを貪るように読んでいる。自分の文章がどう評価されているのか気になってしょうがない。

「うわ。長く感じたかー。しょぼん」「は? 疲れるとか失礼だな」「そうだよね? 人間らしくていいよね? あー、嬉しい!」
一喜一憂だ。

自分が周りと比べてどんな位置にいるのかも気になって仕方がない。
「嫉妬 女性 作家」
こんなワードで検索したら「斉藤ナミ」が何番目に出てくるのか。

どれどれ、一番上は……紫式部! いや、そりゃ敵わんって!

2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』の主人公まひろのモデル、紫式部は日本史で一番といっていいほど有名な女性作家だろう。かくいう私も『光る君へ』にはドハマりして、自分の名刺を紫式部ゆかりの「手漉きの越前和紙」で作ったほど。

紫式部の描いた『源氏物語』はドロドロの嫉妬、恋、陰謀、権力争いなど人間の業がつぶさに描かれた作品。

紫式部先輩


一方、紫式部本人も、自身の日記には、ライバル清少納言に対する嫉妬のような悪口を書いている。

「得意げに漢字で書き散らしているけれどよく見ると間違いも多いし大した事はない。他人より特別優れていると思い込んでいて情けない。こんな人の行く末はきっとよくない」

美しくて才能ある歌人、和泉式部にも「歌はめっちゃうまい。でも和泉はけしからん」……てな具合。

紫式部先輩、めちゃくちゃ嫉妬してるじゃん!
1000年以上前の作家たちも同じなのかと思うと感慨深い。

令和の片隅に生きるエッセイストの私は、偉大な先輩方に嫉妬しないが、同じ時代のエッセイストには嫉妬の炎をメラメラと燃やしまくっている。

私はエッセイストと名乗り始めて3年になる。20代からずっとブログを書いていたものの、お金になり始めたのはここ数年のことだ。

棚ぼた的なラッキーチャンスにしがみついてなんとかここまでやってきたが、学校で文学を専攻したり出版社で働いたりしていない私は、文章をどこかでしっかりと学んだ経験がない。自信なんてあるはずもなく、足元はもうゆるゆるのグラグラ。ヒョイっと押されたらたちまちグシャっと崩れ落ちてしまう。

天才エッセイストに嫉妬


数年前、初めて書いた文章がすぐにSNSで大バズりし、一夜にして有名なエッセイストが誕生した。

彼女のエッセイは腹を抱えて笑い転げるほど面白く、しかも更新するスピードが早い。「これまで文章を書いたことがない、本も読まない」と言うのだから完全に天才だ。

彼女は自分を売り込むわけではなくいつもひょうひょうとしていた。「少しでも面白くなりたい」と本を読みまくり「少しでも名を売りたい」と界隈に必死にアピールしまくっている私からすると、それがまた悔しかった。

私が数週間かけて書いた1本よりも、彼女がいとも簡単に書いた(ように見える)1本の方が何倍も読まれ、拡散され、絶賛のコメントがつけられた。全然敵わないじゃん。
「それに比べて斉藤ナミはつまんない」と言われているように思えた。

数ヵ月後のある日、彼女が「お知らせがあります」とSNSで珍しくしっかりした告知をした。あの時の心臓のバクバクは決して忘れない。
嫌な予感はしていたが、やはりエッセイ集刊行のお知らせだった。

嫉妬という怪物がのたうち回っている


本の出版はほとんどのエッセイストにとっての夢だ。当時まだ本を出せておらず焦っていた私は、彗星のごとく現れてあっという間にその夢をつかんだ彼女が羨ましくて仕方なかった。

私はこれだけ頑張ってようやく最近連載をもてたばかりなのに! パッと書いたものがすぐ当たってもう書籍化? 私は40代、あなたはまだ30代なのに。


とにかく読むのも好きなのだが、つい「勉強目線」が入ってしまう…

SNSに「絶対読みます。めちゃくちゃ楽しみです!」と震える手でコメントを入れながら、体中で嫉妬という怪物がのたうち回っているのを感じた。本音が透けていないか不安になった。普通に祝福に見えていてくれ。

面白いだけではなく明るく朗らかな彼女のエッセイ集は、読むと元気が出るので、落ち込んでいる時に読みたくなる宝物のようだと評されている。

それに引き替え私の文章は暗くてジメジメしている。自己愛をさらけ出していて面白いと言ってもらえるが、読むとどんよりする人もいるだろうし落ち込んでいる時にはあまり読みたくない。

彼女の本が刊行された後、しばらくして私もエッセイ集を刊行できたが、それでもやはり彼女に対する嫉妬の炎は消えない。彼女の本と私の本、それぞれに寄せられる感想の数や内容を比較してはいちいち嫉妬してしまう。

私のほうがうまいはずなのに


文章というのは勉強のように点数もつかないしスポーツのように勝ち負けもわからない。明るくポジティブで元気がでる彼女の文章と、拗らせていて人間臭い私の文章、どちらもそれぞれ面白いと考えれば良いはずなのに。

私は今、知り合いのエッセイストの「新刊が出ます」のお知らせが世界で一番嫌いだ。

20代で美容師だった頃も嫉妬をしていた。毎日遅くまでたくさん練習して、誰より多く先輩スタイリスト達のアシストに入り、同期5人の中では一番優秀だった。アシスタントとして引っ張りだこすぎて、お昼休憩はいつも私が最後。夕方まで食事がとれないことも多かった。

しかし5人がスタイリストデビューすると、ドジで仕事も遅いユミちゃんという2つ年下の子が、一番売上が多かった。明るくて、お喋りが上手で、お客さんとすぐに仲良くなれるキャラだったからだ。

私のほうがカットもカラーもパーマもうまいはずなのに、ユミちゃんのほうがどんどん売上をあげていく。技術はないし、いっつも一番に帰るし、お店が忙しくてもヘルプに入らないで休憩ばかりしているくせに……ずるい!

指名が重なって忙しいユミちゃんのお客さんのカラーやパーマ、シャンプーを、暇な私が代わりに担当する時間が一番苦痛だった。なんで私がユミちゃんのお客さんを……! このカラーもパーマも彼女の売上になるかと思うと、悔しくて悔しくてたまらなかった。わざと失敗してやろうかとチラッと思ったけれど、そこは職人気質の私のプライドが許さなかった。

嫉妬していることがバレたらダサいので、自分ではユミちゃんの悪口は言わずにいた。でも同じように彼女を良く思っていないスタッフが
「あの子、トークで稼ぐなら美容師じゃなくてキャバクラにでも行ったらいいのにね。カット下手なんだし」
と漫画に出てくるお手本みたいな陰口を叩いているのを聞いて「いいぞ、もっとやれ。燃やせ燃やせ!」と心の中で小躍りしていた。一番最低だ。

私は私、と割り切れない


技術はあるんだから、ユミちゃんみたいに接客がうまくなれば最強なんじゃ……? と考え積極的にお客さんに話しかけてみたり明るく振る舞ってみたりもしたが、内向的な性格で他人とのコミュニケーションが苦手な私にはそれが苦痛で仕方なかった。そのうち出勤前にお腹が痛くなるようになり、最強どころかリング下でうずくまるポンコツになってしまった。ユミちゃんのような接客は、私にはできないのだ。

あの子はあの子、私は私、と割り切れない。自分自身に集中して技術をもっと高めれば良いものを「あの子は下手なくせにずるい」と思ってしまう気持ちと、売上という評価のもとで確実に彼女より自分が劣っている現実を、どうしても受け入れられなかった。

ユミちゃんが接客だけでなく技術もある天才だったらきっと嫉妬なんかすることもなかったのに……と当時は思っていたが、こうしてエッセイストになった今、天才だと思っている人にも相変わらず嫉妬している自分を見て、心底うんざりしている。
私は根が明るい人と比べたってダメなんだってば。いい加減分かれ!

私には私の良さがあることは重々わかっている。今の世の中、そこらじゅうで「ありのままでいい。他人と比べるな」と唱えられている。だが、それができたら苦労はしない。

自分の文章に自信を持ち、いつかは他人と比べずに済む日が来るのを願ってやまないが、今日のところは「まあでも紫式部先輩も嫉妬しまくってたしな」と考えておこう。

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