旅立つ勇気、自己への信頼、年齢バイアス、承認欲求の目的化。人生に変化を起こしていく「心のアクセル10」と、歩みを止めてしまう「心のブレーキ10」
2025年4月17日(木)12時30分 婦人公論.jp
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健康寿命が延びる中、お金の不安を解決する唯一の方法は「働き続けること」。『とらばーゆ』元編集長であり、人生100年時代のライフシフトを研究する河野純子さんは、65歳までを年金の「待ち時間」とせず、「雇われる働き方」から「雇われない働き方」へとシフトする準備を始めるべきだと語ります。その目標は好きな分野で小さな仕事を立ち上げ、90歳まで続けていくこと。会社や家族のためではない、自分のための人生へ。ライフシフトするためのポイントを、河野さんの著書『60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし』より紹介します。
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変化の時代に必要な「変わるチカラ」
60歳からの時間、働き方、暮らし方を考え、ライフシフトを前に進めるための法則の一つが「変身資産を活かす」ということ。
「変身資産」とは、リンダ・グラットンの著書『LIFESHIFT』の中で提示された、変化の時代を生きる私たちに必要な目に見えない資産。人生に変化を起こしていく「変わるチカラ」です。
『LIFE SHIFT』の中では、「変化し成長し続けるための意思と能力」と定義されていますが、私が参加しているライフシフト・ジャパンでは、ライフシフターの分析と専門家とのディスカッションを通じて、人生に変化を起こしていく「心のアクセル」10項目、変化の歩みを止めてしまう「心のブレーキ」10項目として独自に体系化しました。
「変身資産」として「心のブレーキ」を発見できたことは、大きな成果だと思っています。多くのライフシフターは、自身の「心のアクセル」を活かすだけでなく、「心のブレーキ」を手放したり、緩めたりしながらライフシフトを前に進めていたからです。
特に日本人の場合、長い会社員生活の中で、いつのまにか「心のブレーキ」が大きく育っていて、変化を妨げてしまっていることが多いように思うのです。
では具体的に「心のアクセル」10項目、「心のブレーキ」10項目を紹介しましょう。皆さんの心の中にも必ずあるものですから、自分は何を強く持っていそうか、考えながら読み進めてみてください。
人生に変化を起こしていく「心のアクセル」10
1)違和感センサー
「このままではいけない」「なんだかモヤモヤする」といった、自分の中に湧き上がってくる違和感を察知して大切にできるチカラ。
2)社会へのまなざし
日々の生活に追われて視野が狭くなったりせず、拓ひらかれた眼と心をもって、社会や他者への関心や共感を抱くチカラ。
3)旅立つ勇気
これまで身につけてきた考え方や習慣、積み上げてきた実績や地位を捨てて、これまでと違う道を選ぶことができるチカラ。
4)スモールステップ
大きなシフトも、最初は小さな行動から。先が見えなくてもちょっとした何かを始めてみる、悩まずにとにかくやってみるという行動特性。
5)学びのひきだし
自分にフィットした学び方のレパートリーを身につけて、学び続けるチカラ。自分をアップデートできるチカラ。
『60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし』(著:河野純子/KADOKAWA)
6)自己との対話
日記をつける、ひとり旅をするなど、自分と対話をする内省の習慣を持ち、自分の中の気づきや変化を見つめることができるチカラ。
7)自分らしさの自覚
どんなことが得意か、苦手か。どんなときにモチベーションが高まるのか。そんな「自分らしさ」を自覚していること。
8)マルチリレーション
様々なコミュニティに所属し、バリエーション豊かなつながりを持っていること。たくさんの「旅の仲間」がいること。
9)未来への期待
いま何歳であっても、何歳になろうとも、何かをするには十分な時間があると思えること。人生100年時代にワクワクしていること。
10)自己への信頼
これまでにも様々な変化に対応してきたのだから、これからどんなことが起きてもなんとかできると、自分を信じ、未来の自分を楽観的にとらえていること。
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変化の歩みを止めてしまう「心のブレーキ」10
1)年齢バイアス
「もうこの年齢だから遅すぎる」「年寄りは出しゃばらないほうがいい」などと、年齢や固定観念に縛られて、未来に蓋をしてしまうこと。
2)ノットリリース
いまの安定や地位を失いたくない、過去の成功体験が忘れられないなど、いま持っているものを手放したくないというマインドセット。
3)失敗する恐怖
失敗するのを過度に恐れて気になることに手を出せない、ミスを恐れて無難な選択ばかりをしてしまうといった行動特性。
4)対立からの逃避
反対意見を言われるのが苦痛、とにかく仲良くやりたい……。対人関係のぶつかりを恐れて自身の想いに蓋をし続けてしまう行動特性。
5)過度な自己犠牲
周囲の期待に応えたい、家族や子どものために自分が我慢すればうまくいく……。そんな思いから自分の気持ちや時間を犠牲にしすぎてしまう行動特性。
6)集団への同調
会社や周囲の暗黙のルールや「空気」を読みすぎて、わきまえすぎてしまい、言いたいことややりたいことを抑制してしまう行動特性。
7)完璧への執着
何をやるにしても完かん璧ぺきにやりたいという意識が強すぎて、いつまでたっても前に進めない、新たな道に進む怖さの言い訳にしてしまう傾向。
8)承認欲求の目的化
誰かに認められたい、高い評価を得たい、褒められたい……。そうした承認欲求が「目的」となってしまい、本当にやりたいことを見失ってしまう傾向。
9)マニュアル依存
正解を検索したり、周りの人がどうしているのかが気になったり、頼るものを探して自分らしさを見失ったりして身動きが取れなくなってしまう状態。
10)人生の委任
自分で何かを決めるよりも、誰かに決めてもらうほうが楽。けれどもその結果は誰かのせいにしてしまう。そのように人生の選択を誰かに委ゆだねてしまう傾向。
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いますぐ手放したい「年齢バイアス」
「心のアクセル10」「心のブレーキ10」、ご覧になっていただいていかがでしょうか?
自分が強く持っていそうだなと思う「心のアクセル」と「心のブレーキ」がいくつかあったと思います。子どもの頃から持っているものもあれば、長い会社員生活や、仕事と家庭を両立する中でいつの間にか身についていたものもあるはずです。
また「変身資産」は「資産」なので、増えたり減ったりします。
ライフシフトは「心のアクセル」を活かし、「心のブレーキ」を手放しながら前に進んでいくので、結果的に多くのライフシフターはたくさんの「心のアクセル」を持ち、「心のブレーキ」はずいぶん少ないケースが多いのです。
ただし「心のブレーキ」は決して悪者ではありません。人生に変化を起こそうとする際には、少し緩めたり、思い切って手放したりする必要があるだけで、例えば「失敗する恐怖」があるから、事前にしっかり準備をする。
「対立からの逃避」があるから、コミュニケーションを丁寧にとってぶつかり合いを避けるなど、良い面もたくさんあります。自分の「個性」として上手にマネジメントしていけばいいのです。
また多くのライフシフターの「心のアクセル」「心のブレーキ」の使い方を見ていると、「効果的な使い方」というものがあることにも気づきます。
例えば「年齢バイアス」という心のブレーキ。「年齢なんて関係ない。まだまだなんでもできる」と気づくことで、他の心のアクセルも育ち、ライフシフトはぐんと前に進みます。
私の52歳からのライフシフトは、会社の方針に心のアクセル「違和感センサー」が反応し、「自己との対話」が始まったことが出発点でした。
けれども、そのあと半年ほどぐずぐずしていて、ライフシフトの旅は停滞します。振り返れば心のブレーキ「ノットリリース」(会社員という安定した立場を手放したくない)を踏んでいて動けずにいたのです。
旅を一歩前へと動かすきっかけは、書籍『LIFESHIFT』を読んで、「年齢バイアス」を手放すことができたこと。その結果、心のアクセル「未来への期待」「旅立つ勇気」がむくむくと育っていき、旅を止めていた「ノットリリース」も手放すことができました。「年齢バイアス」を手放す効果はとても大きいのです。
心のアクセルの中では、「スモールステップ」「学びのひきだし」「マルチリレーション」が、かなり活用されています。
「スモールステップ」の大切さは、ここまで何度か触れてきました。まずは小さな一歩を踏み出すことで、さまざまな学びがあり、やがて「失敗する恐怖」や「完璧への執着」を手放し、「未来への期待」「旅立つ勇気」も高まっていきます。
「学びのひきだし」も同様の効果があるアクセル。学んだことで「自己への信頼」が高まったという話もよく聞きます。
「マルチリレーション」も他の変身資産に及ぼす影響が大きいアクセルです。多様な人と交流することによって、「自分らしさの自覚」が育ちます。
自分らしい人生を生きている人との出会いは、「人生の委任」「過度な自己犠牲」「集団への同調」を手放すことにもつながります。
※本稿は『60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
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