健康のため散歩はしたいが、歩く目的がほしい……。そんなとき思いついたブックオフ『あさりちゃん』全巻集めラリー
2025年4月22日(火)7時0分 文春オンライン
大人げないまま新型高齢者となったみうらじゅんさんによる、息苦しい社会に風穴を開けるエッセイ集 『アウト老のすすめ』 。「週刊文春」人気連載の原稿を加筆・修正して95本収録したこちらの新刊から一部を抜粋し、紹介する。
◆ ◆ ◆
これといった用事もないのに家を出て、ぶらり散歩をする。そんなぶらりに昔から憧れはあるが、どうも性に合わないらしい。
散歩は好きなほうだが、その道中でついついぶらりに反する、目的ってやつを捜してしまう。
貧乏性ってやつであろうか、目的を見つけ、それなりの達成感が欲しくなる。

JRはそんな僕のような者に時折、スタンプラリーというものを用意してくれるが、電車を利用しているようでは散歩とは言い難い。
しかし、ふだんはほとんど自宅と仕事場の往復だけ。これでは足腰が弱ってしまう。
現在、66歳。その対策として週に1度くらい散歩を心掛けているのだが、ぶらりのセンスは一向に身に付かない。
2年前のことである。
それでも努めてぶらり気分で家を出たが、ある町で見つけたブックオフに入ってしまった。
長居はしないつもりでいたが、本棚にズラリ並んだ古本を隅々まで捜索。結局、長居した。最終的に立ち止まったコーナーは“小学館てんとう虫コミックス”と、表示のあるところだった。
それは、巻数が飛び飛びで並んだ『あさりちゃん』が気になったからである。
昔、子供が通ってた児童施設に置いてあったその漫画は、よほど人気があるとみえ、かなりの冊数があった。
僕がその時、ブックオフで見たものの中で最も数字が大きい巻数は73。
いやいや本当はもっとあるに違いない……。
そう思った瞬間、閃ひらめいた。『あさりちゃん』を全巻集めることを散歩の目的にしようと。
その手始めとしてそこにあるもの全てをレジに運んだ──。
奇跡の出会いを期待して……
それからというもの、都内各所のブックオフを巡り歩くこととなる。もちろん他の古本屋も見つけ次第入ったが、やはりブックオフは『あさりちゃん』の宝庫である。1年も要さず、80冊近くはゲットした。
ちなみに『あさりちゃん』の作者、室山まゆみ先生は二人の女性コンビのペンネーム。女性二人組による1コミックシリーズとして最多の発行巻数を誇り、ギネス認定も受けてらっしゃる(別冊の新刊を含め、2025年1月現在103巻)。
その巻数を書いたメモ(既にゲットしたものにはバッテンが付けてある)を見ながら、それ以外のものを捜す日々。
しかし、残り少なくなるにつれ奇跡の出会いを期待するしかない。
くじけそうになって、ネットで古本のサイトを調べたこともあったが、その時、全巻+別冊で販売している現実を見て、“それじゃ意味がないんだよ!”と、逆に奮起。またも家を出た。
それがとうとう、残すところ後3冊となった。
今までどれだけ散歩し、どれだけ足腰が鍛えられたことか。
これはひとえに『あさりちゃん』のお陰である。
先日も“12、16、28……”と、残す巻数を頭の中で念仏のように唱えながら散歩に出たが、そうは問屋が卸さない。
いや、池袋のブックオフにはなかった。
この先も当然、パーフェクトを目指し、散歩を続ける所存である。
(みうら じゅん/ライフスタイル出版)
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