死んだはずなのに生きている。死を超える「量子不死性」とパラレルワールドの世界

2025年4月26日(土)20時0分 カラパイア


 ロシアンルーレットの引き金を引いて銃弾が発射されてしまった。それでもあなたの意識は別の世界で生き続けているかもしれない。


「量子不死性」は、「死んだはずなのに生きている」という矛盾した状況を説明しようとする、奇妙な量子力学の思考実験だ。


 この仮説は、すべての出来事が分岐したパラレルワールドで同時に起こっているという「多世界解釈」にもとづいており、私たちの意識はその中の「死ななかった自分」にだけつながっていくと考える。


 つまり、世界が分かれ続けるかぎり、主観的な自分は“永遠に死なない”ということになる。ここでは、その不気味で魅力的な思考実験「量子不死性」について、もう少し詳しく見ていこう。


量子不死性のはじまり:ロシアンルーレットと生き残る自分


 想像してみてほしい。あなたはロシアンルーレットという危険なゲームをしている。6つの弾を入れる穴があるリボルバー式の拳銃に、1発だけ弾を入れ、シリンダーを回し、引き金を引く。


 もし6分の1の確率で弾が発射されれば即死するという、まさに「運まかせの生死のゲーム」だ。


 ところが、量子力学の考え方に従えば、この状況で「死んだ自分」と「生きた自分」が同時に存在する」ことになる。


つまり、一回引き金を引いた時点で、世界は2つに分かれる。


Aの世界では、あなたは死ぬ。
Bの世界では、あなたは生きている。

 では「あなたの意識」は、どちらの世界にあるのだろうか?


 「量子不死性(Quantum Immortality)」という考え方では、それは必ず“生きている方の自分”にしか続かないという。


 例えAの世界であなたが命を落としていたとしても、その世界には「あなたの意識」はもう存在しない。意識とは“生きている自分”が感じるものだからだ。


 一方、Bの世界ではあなたは生き延びており、意識もそのまま続いている。


 つまり、主観的なあなたから見れば、どれだけ危険なことを繰り返しても、毎回“生き残った自分”としてしか現実を感じることができない。


 この現象こそが、量子不死性と呼ばれる思考実験の核心なのである。



すべての可能性が起こる「パラレルワールド」の仕組み


 ここで登場するのが、「多世界解釈(たせかいかいしゃく)」と呼ばれる量子力学の仮説だ。


 これは、何かが起きるたびに、宇宙はそのすべての結果ごとに分かれていくという考え方で、わかりやすく言うと「パラレルワールドが無限に生まれている」と言える。


 例えば今日、朝ごはんにパンを食べたとする。でも別の世界では、ごはんを選んだ“もうひとりのあなた”がいる。さらに別の世界では、寝坊して食べなかったあなたもいる。


 このように、あなたがするあらゆる選択や偶然が、新しい世界を次々に生み出しているというのが、多世界解釈だ。


そして、この考え方が「量子不死性」の土台になっている。



image credit:Pixabay


「生きている意識」だけが続いていくという不思議


 では、あなたが実際にロシアンルーレットで亡くなったとしよう。家族や友達から見れば、あなたはもうこの世界にいない。


 でも、あなたの意識は、死ななかった“別の自分”の世界に残っているとしたら?
あなた自身には、「死」という出来事をまったく体験しないことになる。


つまり、死んでも、自分では死んだと気づけない。なぜなら“死ななかった自分”として、世界が続いているからだ。


これが「量子不死性」の本質だ。



シュレーディンガーの猫との違い


 量子力学で有名な例に、「シュレーディンガーの猫」という思考実験がある。


 箱の中に猫と毒薬、放射性物質を入れた状態で、原子が崩壊すれば毒が出て猫が死ぬ。崩壊しなければ猫は生きている。


 このとき、箱を開けるまで猫は「死んでいる状態」と「生きている状態」が重なり合っている。これを「量子の重ね合わせ」という。


でも、「量子不死性」の場合はそれとは違う。


 猫が死ぬ世界と生きる世界が、どちらも実際に分かれて存在すると考える。


 そして観測する前からすでに「2つの世界」ができていて、あなたの意識は「猫が生きている世界(死んでいない世界)」にだけつながっているということになる。



私たちの意識は永遠に死なないのか?


 と、ここまで読むと「じゃあ人間は永遠に死なないの?」と思ってしまうかもしれないが、これはあくまで「思考実験」だ。


 この理論を証明する方法は今のところなく、実際にロシアンルーレットをしたら、現実世界ではちゃんと死ぬ。


 この話は、「もしも世界が無限に分かれていて、自分の意識が生き残った方にしか残らないとしたら……」という量子力学と哲学が合体した、空想的な問いかけなのだ。



それでも、私たちは「生きている自分の世界」を生きている


 量子不死性は、まだ証明も否定もされていない理論だけれど、「今ここに生きている自分」が、たくさんの選択や偶然をくぐり抜けてきた結果だと考えると、どこか不思議な感覚になる。


 コロンビア大学の天文学者、デイヴィッド・キッピング博士は、「もし世界が分かれるとしたら、自分の意識はどちらか一つにしかいられない」と言う。


 つまり、どちらも起きるけれど、自分が感じるのはいつも「生きている方の世界」だという考え方になる。


 「量子不死性」は、量子力学の仮説に基づきながら、私たちが“自分”という存在をどう考えるかという深いテーマにもつながっているのだ。


 科学と哲学のあいだにまたがるこの思考実験は、単に「不死が可能か」という話ではなく、「生きている自分とは何か」「意識とは何か」といった、見えないけれど大切なものを考えさせてくれる。


 あなたが今こうしてこの記事を読んでいる世界は、数えきれない分岐の中から選ばれた、特別な“今”なのかもしれない。



References: Some Version of You Always Beats Death, According to This Scientific Theory[https://www.popularmechanics.com/science/a64553181/quantum-immortality-beat-death/]

カラパイア

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