ミュージカル『アニー』きっかけで、初めて映画の『アニー』を観た。子どもの映画だと思っていたら「人間の欲望」を描いた傑作だった

2025年4月28日(月)13時30分 婦人公論.jp


写真・イラスト提供:さかもとさん 以下すべて

1989年に漫画家デビュー、その後、膠原病と闘いながら、作家・歌手・画家としても活動しているさかもと未明さんは、子どもの頃から大の映画好き。古今東西のさまざまな作品について、愛をこめて語りつくします!(写真・イラスト:筆者)

* * * * * * *

ミュージカルの金字塔的作品


「4月19日からGWの5月7日まで、新国立劇場中劇場でミュージカルの『アニー』がみられる! そのあとは夏に梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで!」という情報を得て、1982年の初代と、2014年の2代目『アニー』がまとまったDVDを購入した私。

『アニー』は、ハロルド・グレイの新聞連載漫画『小さな孤児アニー』を原作とした大ヒットブロードウェイ・ミュージカルが元祖。1976年に試験版が上映されて以来、アメリカだけで毎年700回から900回上演されているという。映画化は1982年、2014年の2回、その間に一度テレビ映画版も制作されている。ミュージカルの金字塔的作品だ。

最初の映画版『アニー』は、1930年代にアメリカを襲った大恐慌の時代を背景にし、2014年版は現代アメリカを舞台にしている。

私はマニアにありがちな「メジャー」を避けたがる傾向があり、余りにも有名なこの作品を見ていなかった。「あの『TOMORROW』で有名なミュージカルがそもそも最初だよね?」と、共にモニター前に座った主人が嬉しそうに言う。主人はこういう家族向けハッピーエンド映画が大好きなのだ。内心「ちぇっ」と思いながら私は、2枚入りDVDのパッケージを開ける。コロンと出てきたのが、2014年版。なのでこちらから見ることに。

「子ども向け」だと思っていた


見る前は正直、「どうせ子ども向けでしょ?」くらいに思っていたんですよ。主人公はお約束の「孤児」。両親に置き去りにされたとき、「きっと迎えに来る」という手紙とハートの形のネックレスが残され、そのネックレスを時々見つめては「きっとパパとママが迎えに来る」と前向きに生きるアニー。優しくて正義感もあり、いじめられっ子やいじめられる犬のために闘うファイトもある。「子どもの時に腐るほど見た、色んなアニメの設定とそっくりじゃん??」と、あんまり期待していなかった。

しかし、2014年版はクワベンジャネ・ウォレスという有色人種の女の子が主役アニーを演じる辺りがとても現代的!  映画の主役の子役は決まって「金髪碧眼」だったのはもう昔の話。WASPが支配していたと言われるアメリカで、今でもあるだろう差別や貧しさと闘う有色人種の彼女が孤児という設定は自然だし、やがて出会う彼女の「足長おじさん」こと、ウィル・スタックス(ジェイミー・フォックス)が有色人種なのも、「底辺からのし上がってきた」感が満載で納得。この2人の芝居がとてもいいし、冒頭から音楽使いも素晴らしく、私も主人もいつの間にか前のめりになって画面に食いついていた。

『アニー』がスーパー・ロングランのミュージカルであるのも道理。実は子ども向けなんかでは全然なく、大人が見てニヤニヤしちゃうシーンや台詞がてんこ盛りなのだ。なかでも最高なのがキャメロン・ディアス演じるハニガン。

孤児院を切り盛りして子どもたちの面倒を見てはいるものの、それは生活の為。かつては歌手だったけれども落ちぶれて飲んだくれ、子どもたちには当たり散らしている。男の訪問者がくれば「苗字はハニガン。でもそろそろ変えてもいいと思っているの、意味わかる?」と色目を使う。いわゆるアバズレが孤児の面倒を見ているという設定がもう、サイコー。振り切ったキャメロン・ディアスの芝居もいい。


裏テーマは「お金」


さて、アニーは犬を虐めていた男の子たちを追いかけている時に車に跳ねられそうになるが、それを助けてくれたのが、億万長者のウィル・スタックス。「そんなうまい話あるわけないじゃん!」とツっこみたくなるが、其れを納得させてくれるのがこの男のひねくれキャラっぷり。億万長者で市長に立候補するが、全然人気がないのも道理。お金の次には名誉を手にし、成功することしか頭にない、がりがり亡者なのだから。

要するに『アニー』に出てくる大人たちは、優等生でもいい人でもないのである。そこが子どもには痛快だろうし、大人も素直に感情移入できる。キャラクター造形が何とも魅力的なのだ。ただ、余りにも露骨な「金持ち礼賛」描写が、この映画の評価を「傑作」と「そうでもない」の間で揺れさせているんだと思う。

「結局お金の力でしょう?お金があるから権力に介入してFBIも動かせるし、ヘリコプターで追跡もできるんだし!!」と言いたくなるくらい、有り余るお金を前提にした物語であるのは事実だが、見ていて快感なのは言うまでもない。其れは、「富とは快楽である」ということを、この映画が直視しているからだ。


私達は、「人生で大切なのは愛です。正しく清く貧しく生きることが大切です」と教わる。お金を崇拝することは悪かのように教わる。でも、ないよりはあった方がいいのがお金だ。「貧すれば鈍する」とか「衣食足りて礼節を知る」という言葉にもあるように、お金がなさ過ぎても、人は愛を見失う。清貧が正義だというのは、大抵嘘だと、大人になるにつれ思う。1982年版では懸賞金を目当てに、山のような「偽の両親」が現れるし、この2014年版でもお金欲しさにアニーの偽の両親を演ずる夫婦が登場する。

お金という魔物の前で揺れ動く人間の性を、正直に見つめているからこそ、この映画はすばらしいと私は思った。有り余る富を味わったウィル・スタックスだからこそ、「やはり愛がほしい」と求める姿に、私たちは涙する。

そう、『アニー』の裏テーマは、ずばり「お金」なのである。飾らない人間の本音を描いているから、登場人物の行動や言葉がいちいち心に突き刺さる。

けれど、アニーだけがお金に惑わされずに愛を求めている。特に何か才能があるとかではないのに運や出会いを掴むのは、彼女の無垢な魂が人を感動させるからだろう。真心こそがやはり、幸せになるために必要なことだと、庶民である私たちが前向きに生きるためのメッセージをこの作品は与えてくれる。

人の欲望を正直かつ、コミカルに描いた映画



私は人間の欲望をこれほど正直に、しかもコミカルに描き出した映画を初めて見た!
『アニー』は間違いなく傑作であり、『TOMORROW』は名曲である。

とにかく見ていて、元気になった。年間数百回上演されるミュージカルや大ヒット映画となって当然だ。

この4月を皮切りに夏過ぎまで各地で上演される生のミュージカル『アニー』は、親子で必見だろう。そして舞台鑑賞のための予習に、映画版を是非とも見てほしい。1982年版、2014年版、どちらから見ても楽しめる。

できれば1人でなく、親子や夫婦や恋人、大切な誰かとみてほしい。私達夫婦は余りの痛快さに楽しく興奮し、2本を一晩で見てしまったことも告白しておこう。

婦人公論.jp

「映画」をもっと詳しく

「映画」のニュース

「映画」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ