コッポラ監督の「鶴の一声」で名作翻訳、感情に訴える映画字幕で栄誉…戸田奈津子さんらに春の叙勲

2025年4月29日(火)7時49分 読売新聞

 政府は29日付で、2025年春の叙勲受章者3990人(うち女性436人)を発表した。発令は同日付。

 桐花大綬章は元衆院議長の大島理森さん(78)、元首相の菅直人さん(78)が受章した。旭日大綬章には元経済再生相の甘利明さん(75)、元住友商事社長の中村邦晴さん(74)ら12人が選ばれた。

 芸術文化の分野では、小説家の皆川博子さん(95)らに旭日中綬章、映画字幕翻訳者の戸田奈津子さん(88)、漆芸作家の山岸一男さん(71)らに旭日小綬章が贈られた。

 外国人叙勲の受章者は、45か国・地域の107人(うち女性17人)。第1次トランプ政権で駐日米大使を務めたウィリアム・ハガティ上院議員(65)らが旭日大綬章に選ばれた。大綬章親授式と重光章伝達式は5月9日に行われる。

創作の源は好奇心…旭日中綬章 小説家 皆川博子さん 95

 「勲章をいただくなんて、自分のことではないみたい」。雄渾ゆうこんで幻想的な物語を手がけてきた作家は、少しはにかんだ。「50年も書いてきて、励みになります」

 東京の開業医の家で育ち、幼い頃から家にあった文学全集を「片端からおいしく読みました」。子育てが一段落ついてから本格的に小説を書き始め、1972年に初の単行本を刊行。ミステリーや時代小説など幅広い作品を手がけた。ナチス・ドイツを扱った97年の「死の泉」以降は、海外を舞台にした作品が中心に。「書きたいものが書けるようになった70歳代が、私にとって青春でした。いまは豊かな実りの季節です」

 13世紀のバルト海の物語と、それを書く19世紀の男性の話が響き合う長編の連載を文芸誌で続けている。尽きせぬ好奇心が創作の原動力になってきた。「書くことだけが生きることだという心境になっています」

名作の「感情」言葉に…旭日小綬章 映画字幕翻訳者 戸田奈津子さん 88

 外国映画の字幕翻訳の第一人者だが、「好きなことをずっとやってきただけ」と笑う。米寿を迎えても、おおらかでスピーディーな話しぶりは変わらない。

 大学の英文学科を卒業。書籍などの翻訳のアルバイトを経て、1970年に字幕翻訳家としてデビューした。注目されたのは79年のフランシス・フォード・コッポラ監督「地獄の黙示録」の翻訳。「日本滞在中の監督の案内兼通訳のような役を務めた私を、鶴の一声で指名してくれた」と振り返る。

 来日した映画スターの通訳も務め、「素晴らしい人たちと親密な時間をもてた」。トム・クルーズさんらとの親交はよく知られている。

 「字幕翻訳は直訳ではない」と強調する。字数が限られているうえに、「エモーション(感情)に訴えるのが映画」だからだ。「コンピューターではなく、感情を理解できる人間の頭を通過させたのが、字幕翻訳の言葉だと思う」

輪島塗 五感駆使し表現…旭日小綬章 漆芸作家 山岸一男さん 71

 漆器に刃物で文様を彫り、金箔きんぱくや金粉で埋める沈金の大家で、2018年に人間国宝になった。能登半島地震では石川県輪島市の自宅兼工房が全壊し、左肩を骨折。避難先の金沢市のマンションで制作を続ける。受章の報に「後継者育成や漆の魅力発信を担う責任の重さを感じる」と話す。

 輪島市に生まれ、高校を卒業後、漆芸の道に進んだ。創作意欲の源泉は「五感を通して体にしみ込んだ能登の景色」だ。四季で変わる草木や海の色、風の香りなどを文様に表してきた。

 輪島を離れての活動に迷いはあったが、「今の能登を知ってもらうには、作品しかない」と制作に打ち込んだ。昨年の日本伝統工芸展に出した蓋付き容器「間垣晩秋」(直径23センチ、高さ7・5センチ)は故郷の記憶をたどり、笑い声とともに竹垣から漏れてくる家の明かりを表現した。

 「この仕事に出会えて幸せ。何とか伝統を残したい」。次代につなぐ覚悟だ。

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