ミニチュア写真家・田中達也「ブロッコリーは木に、メガネは自転車に、巻き寿司は…見立てた写真を2011年から毎日SNSへ。所有するミニチュア人形は10万体以上」
2025年4月28日(月)12時30分 婦人公論.jp
「子どもの頃からの遊びが今に繋がった……というよりは、思い出したというほうが近いですね。社会人になりデザイナーとして働いていた頃は、そんな遊び方をしていたことを忘れていましたから」(写真提供:田中さん)
ブロッコリーは木に、メガネを自転車に……。見慣れた日用品や食材を何かに見立てて、ユーモアのある写真に仕上げる田中達也さん。その作風はどのように生まれたのでしょうか。作品の原点と田中さんの制作への思いに迫ります(構成:藤栩典子)
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ちょっとした発見が面白い
——本誌の連載「ミニチュアの世界」が最終回を迎えました。初回は雪化粧した樹木に見立てたカリフラワー。以降、トランプの赤と黒のマークをひな人形に、かき氷を積乱雲にと、四季を感じる見立て作品が登場しました。この連載を通して意識されたことは何でしょうか。
毎号、これまでに撮った写真のなかから季節に合ったものを選び、その作品についての文章を書いてきました。書くことでアイデアの整理になりましたし、作った意味みたいなものをあらためて考える機会になったと思います。
作品を作ったあとにタイトルを考えるのはいつも通りですが、文章をつけたのは初めて。題材との親和性を考えながら書いていきました。連載を通じて、一つの作品に対し説明をしっかり加えられるなという手ごたえが、展覧会でも解説をつけるきっかけになったと思います。
——掲載された全39作のなかで、思い出深い回はありますか。
思い出深いもの……。そうですね、「恵方巻き」の解説が一番好きです。短いなかでも、最初に引きがあって、うまく落ちを作れたので面白く書けたなと思います。気に入って、展覧会でも採用しました。
——身の回りのものを何かに見立て、ミニチュアの人形を配して作る作品には、子どものような遊び心を感じます。ミニチュア写真家・見立て作家の原点は、幼少期にあるのでしょうか。
結構レゴで遊んでいた覚えはありますね。そのほかにも、ウルトラマンの特撮ごっこをするときにティッシュでビルを作ったり、こたつのヒーターを火山の溶岩という設定にしたり。
小学生の頃からプラモデル作りを趣味にしていて、スケール感を出すために、一緒にミニチュアを飾っていたんですよね。ガンダムのプラモデルが一番好きだったのですが、ほかにも日本の城や、ちっちゃいジオラマの蕎麦屋さんなど、いろいろ作りました。ミニチュアは、プラモデルのおまけで買っていた、という感じでした。
ですから、子どもの頃からの遊びが今に繋がった……というよりは、思い出したというほうが近いですね。社会人になりデザイナーとして働いていた頃は、そんな遊び方をしていたことを忘れていましたから。今思い返せば、幼少期は自然と見立てに近い感覚で遊んでいたんだな、と思います。
所有するミニチュア人形は、10万体以上。撮影に使う食品サンプルや日用品も、きれいに分類して収納されている
——2011年からインスタグラムに、「ミニチュアカレンダー」と題した投稿を毎日続けています。きっかけは何だったのでしょう。
それまでも、インスタに風景やミニチュアの写真をアップしていました。それを毎日続けようと思ったのは、ミニチュアを自分の結婚式の席次表に使おうとしたからなんです。
となると、妻の許しを得て人形をたくさん買える。そうしてミニチュアが集まったので、せっかくだしインスタで写真をアップしようかなと思いました。結婚式まで3ヵ月というタイミングだったので、カウントダウンのように毎日投稿しようと決めたんです。
最初は結婚式までと考えていたんですけれど、やめるのはもったいないなと、そのまま続けることにしました。
——1日1作の投稿を続けるなかで、転機になった作品とされるのが、2012年3月に投稿された「Broccoli」。夕食で余っていたブロッコリーを木に見立てたとのことですが、そのときに思いついたのですか。
子どもの頃からブロッコリーは木に見えるなとは思っていたんですよ。でもこれって皆が考えるだろうし、こんなアイデアを今さら出しても面白くないかなと思っていました。
でもいざインスタに投稿してみると、「いいね」の数も多く、新鮮な反応が返ってきたんです。自分が当たり前だと思うものでも、受け入れられるんだな、と気づきました。ミニチュア写真に「見立て」という方向性ができてきたんです。
たとえば小さい頃は畳のへりを道路にして遊んだなと思い出したら、そういう作品を作ってみたり。自分が子どものときから考えていたような見立ての発想でも、面白いと言ってもらえるんだとわかりました。
フォロワー数や「いいね」の数がどうであれ、僕がミニチュアを集めたい、写真を撮りたいという気持ちはなくなりません。けれど、インスタにアップして皆の意見を取り入れたからこそ、今みたいな見立ての作風になったのだと思います。
<後編につづく>