ウイスキーのトリビア 第5回 『ザ・マッカラン』の魅力と驚きのトリビア5選! シングルモルトの頂点を味わう
2025年4月29日(火)11時0分 マイナビニュース
名前を聞くだけで特別感が漂うウイスキー『ザ・マッカラン』。世界中の愛好家やコレクターを魅了し、「シングルモルトのロールスロイス」と称されるほどの存在感を放っています。
その人気と伝統は、意外にも波乱に満ちた歴史と知られざる逸話によって育まれてきました。今回は憧れのマッカランにまつわるトリビアをご紹介します。
■尋常ではないこだわりで作られる『ザ・マッカラン』
マッカランの起源は、1824年にスコットランドのスペイサイド地方で正式に蒸溜免許を取得したことに始まります。この地域はそれ以前から密造が盛んな土地でしたが、創業者のアレクサンダー・リードは先進的な姿勢を持ちながらも当時の厳しい法律をクリアし、合法的に創業したのです。
蒸溜所の名前は、ゲール語で「肥沃な土地」を意味する「Magh(マッグ)」と、8世紀の修道士・聖フィラン(St. Fillan)にちなんだ「Ellan(エラン)」を組み合わせたものとされています。「聖フィランの豊かな地」を意味する「マッカラン」という名前の土地では、何世紀も前から人々が暮らしていた痕跡が見つかり、古くから特別な場所だったことがわかります。
創業初期はブレンデッド用の原酒を中心に生産していましたが、1970年代から80年代にかけてシングルモルト市場が世界的に注目されると、積極的に「マッカラン」の名を前面に出す戦略へと転換しました。特にシェリー樽での独自熟成にこだわり、豊かな風味と深い色合いを生み出す技術を磨き上げ、プレミアムシングルモルトの代表格となりました。
マッカランがここまで高く評価される要因のひとつが、同ブランドが掲げる「6つの柱」を中心とした作り手のポリシーです。特に有名なのは、スぺイサイド地方で最少とされる小さな銅製蒸溜器を採用している点です。蒸溜されるスピリッツはオイリーかつコクのあるヘビーな酒質になります。
また、味わいの要であるシェリー樽へのこだわりも尋常ではありません。スペインのオーク林から材木の選定を行い、樽職人による加工からシェリーの染み込ませまでを独自に管理。十分に熟成させたのち、スコットランドに運び込むという徹底ぶりを貫いてきました。
その結果、マッカラン特有のレーズンやドライフルーツを想起させる深みある風味が生まれ、高級ウイスキーといえばマッカランという印象を決定づけたのです。こうした革新的手法と伝統の融合は、世界中のシングルモルトブームを牽引したと言われるほど、大きな影響を与えました。
■ザ・マッカランを象徴するような驚きのトリビア!
【トリビア1】1946年だけはピート香がある
マッカランといえば、ピート香のないスムースな味わいで知られています。ところが第2次世界大戦直後の1946年蒸溜分は石炭不足で仕方なくピートを燃料に使った結果、スモーキーなフレーバーが生まれました。この「ピートが効いたマッカラン1946」は極端に生産量が少なく、現在はオークションでも大変な高額品となっています。
【トリビア2】ジェームズ・ボンドも惚れ込んだ50年物
映画『007 スカイフォール』でボンドが敵役のシルヴァから渡される50年物のマッカランは、007シリーズ50周年を象徴するアイテムとして登場しました。この1962年蒸溜の激レアなマッカランは、同じく1962年に1作目が公開された007シリーズの50周年にちなんだ演出でした。
他の映画でも、マッカランはアイコン的に登場しています。例えば、Netflixで公開されたドラマ『地面師たち』では、「ザ・マッカラン1959」や「ザ・マッカラン1962」が映っていました。
今のマッカランも美味しいのですが、古いマッカランはレベルが違うほど美味しいです。筆者もBARを経営していたときに、1950年蒸溜(当時で55年熟成)のマッカランを約140万円で購入して飲んだことがありますが、感動モノでした。
【トリビア3】最高の原液だけを使う「ファイネストカット」
一般的にウイスキーの蒸溜では、発酵後の原液(ニューメイクスピリッツ)を初流・本流・後流に分け、品質の安定しない初流と後流は除外し、本流のみを原酒として使用します。通常は、初流と後流それぞれ10〜30%で、熟成させる本流は50〜70%ほど。
マッカランはこの本流の中からもさらに厳しく選別を行い、最も品質の高い中心部分、全体のわずか16%ほどしか利用しません。マッカラン蒸溜所のウイスキー造りにおける非常に特徴的な工程であり、「ファイネストカット」とも呼ばれています。
小型のポットスチルで蒸溜された原液の中から、雑味や不要な成分を極限まで排除し、芳醇な香りと滑らかな口当たりを持つ部分だけを厳選することで、高品質なシングルモルトができるのです。この徹底したこだわりは、原酒の歩留まりを犠牲にしても品質を最優先するマッカランの哲学を象徴しており、世界中のウイスキー愛好家から高い評価を得る理由のひとつとなっています。
【トリビア4】幻の1926年ヴィンテージがオークションで4億円超え
古いマッカランは時折りオークションに出品されます。2023年にサザビーズで出品されたときには、なんと! 218万7,500ポンド(日本円で約4億円超え)になったのです。1926年蒸溜、60年熟成の超希少原酒がボトリングされた「マッカラン1926」は、わずか40本しか存在しない伝説的なヴィンテージです。
【トリビア5】新蒸溜所は草屋根の未来建築
2018年に完成した新蒸溜所は、周囲の丘陵に溶け込むように設計された大規模な先進施設です。建築費として1億4,000万ポンド(日本円で約200億円規模)が投じられ、地下空間に数十基の小型蒸溜器が並ぶ光景は、まるで近未来のミュージアムを訪れたかのような迫力を放っています。
■マッカランを味わい尽くす代表的ボトルの魅力
マッカランの中でも、「ザ・マッカラン ダブルカスク 12年」は9,000円前後と比較的手に入りやすい価格になっており、ブランドの真髄を気軽に楽しむ入り口として人気が高い銘柄です。
伝統的なザ・マッカランのスタイルとアメリカンオークの甘さを融合させたダブルカスクシリーズは、ファッジや柑橘類、柔らかなスパイスの風味があります。シェリー樽由来の豊潤さとアメリカンオークのバニラ感のバランスが取れています。どんな飲み方も美味しいですが、最初はストレートで味わうことをおすすめします。
ザ・マッカランは歴史の重みと先進性を同時に備え、時代を超えて人々を魅了し続けてきました。超高額のオークション騒動や映画の印象的な登場シーン、さらには環境や文化への配慮など、どこを切り取っても話題にコト欠きません。もしマッカランを手にする機会があれば、ここで紹介したトリビアを語り合いながら、一杯に込められた長い歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
柳谷智宣 やなぎや とものり 1972年12月生まれ。1998年からITライターとして活動しており、ガジェットからエンタープライズ向けのプロダクトまで幅広い領域で執筆する。近年は、メタバース、AI領域を追いかけていたが、2022年末からは生成AIに夢中になっている。 他に、2018年からNPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立し、ネット詐欺の被害をなくすために活動中。また、お酒が趣味で2012年に原価BARを共同創業。 この著者の記事一覧はこちら