群ようこ68歳にしてお茶を習う。お稽古の見学で、膝下と足の甲が赤く痕に。バレーボール用、新体操用と膝当てを色々試し、最後にたどり着いたのは

2024年5月1日(水)12時30分 婦人公論.jp


イメージ(写真提供:photo AC)

文化庁の生活文化調査研究事業(茶道)の報告書によると、茶道を行っている人が減少する中、平成8年から28年の20年間で70歳以上の茶道を楽しむ人は増加し続けているという。人生100年時代の到来で、趣味や習い事として茶道に触れる機会が増えていると考えられる。そんな中、68歳にしてお茶を習うことになった、『かもめ食堂』『れんげ荘』などで人気のエッセイスト・群ようこさん。群さんが体験した、古稀の手習いの冷や汗とおもしろさを綴ります。お稽古を見学し、やる気になった群さん。さっそくお稽古の道具の準備を始めることにしましたが——。

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足の痛みに効く道具を探す


その日の夜、お風呂に入るときにふと見たら、膝下と足の甲の畳に当たっていた部分が赤くなっていた。私の体重を正座した両足で支えているのだから、こういうことにもなるのだろう。とりあえず入浴中もその部分をさすり、上がってからはオイルでマッサージをしておいた。

これが重なったら足に跡が残るのではと気になり、インターネットで調べてみると、茶道を習っている妻の膝を見たら、変色してあまりにかわいそうだったので、よい膝当てを探してあげようとする優しい夫のブログなどもあった。

赤くなるのが度重なったら、正座のときに体を支えている足の部分が、変色するのは間違いないと納得できた。

膝が出るような丈のスカートなどは穿かないので、変色していようがいまいが関係ないのだが、やはり体に対するダメージは少ないほうがいい。次のお稽古まで2週間あるので、まず探したのは、足の痛みを改善してくれるものだった。

インターネットで探すと、膝当てというものがあった。膝をつく作業などに使えるものらしい。コメントを見てみると、茶道のお稽古に使っている人もいた。そうか、こういった物が使えるのかと、早速注文してみたら、ものすごくごっつい厚みのあるものが届いた。

そのカーブがついたものは、膝の上にうまいこと、かぽっと収まり、上下は十センチほどの幅広のゴムでずれないようになっている。試しにそれをつけて床に膝をつくと、まったく痛くはないのだが、あまりにごつくて、これを着物や洋服の下に装着するのはどうなのかと首を傾げた。

他に、もっと薄くて効果があるものはないかと探して注文したら、勘違いをしてバレーボール用の膝当てが届いてしまった。前に買ったのが左右2枚入りだったので、今度もそうだろうと思っていたら、1枚入りだった。

これもまた前にも増して厚みがあるしとても固く、前に買ったものよりひとまわり大きい。指先で叩いてみると、コンコンと固い音がする。あれだけの速さのボールを、転がったり膝をついたりしてレシーブするのだから、これくらいのガードがないと、膝がもたないだろう。

しかし茶道のお稽古に使うにはあまりに固いし、ごつすぎる。顔の前に持ってきたら、防具になりそうなほどで、これを両膝につける勇気はなかった。

とにかく足の痛みを軽減しなければはじまらないと、探しまくったら新体操用の膝当てがみつかった。薄手で装着しても表には響かないようだし、これはいいと注文してみた。すぐに届いたが、これがあまりに小さくて私の太い足になかなか入らない。

無理やり膝までずりあげてみたが、とにかく膝をガードしているというよりも、膝および、上下の肉を締めつけているといったほうがいいサイズだった。考えてみれば新体操のお嬢さんたちはあの細さなのである。一時は、選手たちの痩せすぎが危惧されていたような競技である。そんな極細の人たちが足につけるものが、古稀が目の前の私の太い足に入るわけがない。

肘当てにはちょうどよさそうだったが、その用途は特にないので、色と素材は満足しているのにと、残念でならなかった。

もしかしたら茶道関係で何か扱っているかもと、裏千家の茶道の本をたくさん出している淡交社のサイトを見たところ、新製品で「楽々正座くつした」というものを売っていた。正座のときに体重がかかる、すねと伸ばした足の甲も痛いので、梅子さんの分も含めて、思わず3足セットを2つ買ってしまった。足の甲が痛くなくなるだけでもましだろう。ついでに膝当てもあったので、それも注文した。

この会社のサイトには「楽々正座くつした」をはじめ、空気を入れて使う正座椅子もあったほどだから、茶道を学ぶ多くの人が足の痛みに悩んでいる証拠だろう。

私は特に膝自体にはトラブルがないので、すねや足の甲が痛くなければ、正座をするには問題がない。畳生活の昔の人は、足がしびれたりしたのだろうかと想像した。


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持参する道具を揃える


これで足の痛みが改善するといいのだがと願いつつ、次に先生から指定された本を探すと、ほぼ新本に近いものが見つかったので、それを注文したら、翌日に届いた。見学のときに、懐中する際の、帛紗のたたみ方を教えていただいたものの、何がなにやらわからなかった。

しかしこの本の帛紗を「懐中するときのたたみ方」の項を読んでいたら、「模様のあるときは、左向こうかどに自分から見えるように持つ」と書いてあって、「おおお」と感激しながら、蛍光鉛筆でラインを引いておいた。これで懐中するときだけは迷わなくて済む。

あと必要なのは、お稽古に必ず持参しなくてはならないものを入れるための数寄屋袋、そして古帛紗と菓子切り、洋服でお稽古をするときのための長めのベストである。

座ったときに膝の中程まで丈がカバーされるので、少し安心できる。見学にうかがったときは闘球氏と白雪さんは洋服で、2人ともその上にV衿のベストを着ていた。V衿の左側の裏にポケットがついていて、着物の懐のようにそこに懐紙などを入れられるようになっている。

インターネットで購入したとおっしゃっていたので、検索してみたが、残念ながら同じものは見当たらなかった。他にもお稽古用のベストでも丈が短いものがあったのだが、長いほうが安心できるので、価格が中程度のものを購入した。

次は古帛紗と菓子切りである。古帛紗は価格の幅が広く、私が見たなかでは380円から9万円以上のものまであった。もちろん何万円もするものを、超初心者の私が持つ必要はないけれど、あまりに安っぽいのも避けたい。

柄もたくさんあるので、どれを選んでいいのかわからなかったのだが、「お道具の柄とかぶると亭主に失礼なので、古帛紗は柄違いのものを3枚ほど持参したほうがよい」と書いてある本を見た。

よく花見に桜の柄の着物や帯を身につけるのはよろしくないといわれていたが、今はよほどうるさい人でない限り、そんなことはいわなくなった。私も花見に桜の着物や帯をしている人を見ても、何とも思わない。

しかし茶道については、亭主が選んだ道具に対して、客が持ってきた物の柄や身につけているものがかぶるのは、やはり今でも避けるべき問題なのだろう。そのために複数枚の古帛紗を持つ配慮も必要なのだと勉強になった。

といっても私は超初心者だし、御茶席に呼ばれる機会もほぼないと思われるので、お稽古のみに使う、ほどほどの値段であまりお道具の邪魔をしないようなものを1枚と、3000円から4000円程度のものでいいかなと思い、どんな着物にも合いそうな、白地の古典柄の古帛紗を選んだ。四角形の三方を縫うだけなので、いずれ自分で作れそうな気もしてきた。

菓子切りは、師匠のところで黒文字を出され、いろいろと検索してみると黒文字が主流のような気がしたので、買おうとしたのだが、3寸、3.5寸、4寸など、菓子切り用として何種類かの長さがある。これはどうすればいいのだろうかと悩んだ結果、3寸と3.5寸のものを買った。もし使わなくても家で使うこともあるだろう。

数寄屋袋はたまたま30パーセント引きのクーポンを持っていた店で、雨龍間道(あまりゅうかんとう)のものがあったのでそれと、同じ雨龍間道柄のステンレス製の菓子楊枝つきの楊枝入れがあったので購入した。黒文字がいいのかステンレスでもいいのか、師匠に聞いてみよう。これらが揃えば、お稽古に通えるので、早く届かないかなと心待ちにしていた。

こちらも注文して3、4日ですべての品物が届いた。3寸の楊枝はちょっと短かった。楊枝入れについていたステンレス製の菓子切りは、10.5センチの長さだった。3.5寸のものが合うのだけれど、御菓子をいただいた後、黒文字を懐紙にくるんで持ち帰ったとしても、それは次回には使えない。

おまけに黒文字は使う前に十分ほど水に浸けておいたほうが、菓子がくっつかないとあったので、事前の手間もかかりそうだった。

すべて次回、「師匠、兄弟子、姉弟子に聞いてみよう」である。数寄屋袋に必要なものを入れると、形だけは整った。

※本稿は、『老いてお茶を習う』(著:群ようこ/KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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