茶道を学ぶ人だけが知っている、凛とした人になるための教養とは?千利休が500年前に残した、茶の湯における7つの習慣「利休七則」に習う【2025編集部セレクション】

2025年5月1日(木)12時30分 婦人公論.jp


竹田さん「礼儀というものが人間関係をスムーズにするために欠かせない作法の一つ」(写真提供:Photo AC)

2024年上半期(1月〜6月)に『婦人公論.jp』で大きな反響を得た記事から、今あらためて読み直したい1本をお届けします。(初公開日:2024年1月2日)
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2020年に文化庁が1,500人に対して行った国民意識調査によると、茶道を経験したことがない人は全体の約6.5割だそうです。そんな茶道を、日本だけでなく世界にも広めようと活動しているのが、茶道家(裏千家教授)の竹田理絵さん。今回は、茶道にまつわる教養を紹介していただきました。その竹田さんは、「礼儀というものは人間関係をスムーズにするために欠かせない作法の一つ」と言っていて——。

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礼に始まり、礼に終わる


茶道というと、作法やお茶の飲み方に目が行きがちですが、最も大切なのは、お茶を点ててもてなす亭主とお客様とのコミュニケーションです。

それは、茶道から生まれた「一期一会」、つまり「どのお茶会も生涯に一度しかない出会いであると心得、主客共に誠意を尽くすべきである」という言葉からもお分かり頂けると思います。

自分をさらに高める教養
「一座建立(いちざこんりゅう)」とは「亭主がもてなすだけではなく、お客様もこれに応えて、主客一体となって場を創り上げるものである」という茶道の真髄を表した言葉です。

茶道の根底にはこれらの心構えや考えがあり、その思いを表現するために作法があります。

それでは、お茶の世界では実際にどのようにして良好な人間関係を作り、保っているのでしょうか。日常生活にも応用できるかと思います。

まずお茶会を開く際、亭主は何日も前からお客様のことを想い、趣向を考え、丁寧に茶室周辺を掃除して、心地よい「場」を作ります。

お客側も、亭主や一緒に過ごす他のお客のことを考え、相応(ふさわ)しい服装などで、周りを気遣います。

「茶道は礼に始まり、礼に終わる」と言われるように、亭主とお客同士がお互いを思いやり、気遣うことで礼儀作法を大切にしています。

これは、礼儀というものが人間関係をスムーズにするために欠かせない作法の一つだからです。

例えば、お茶会では茶席に入る前、お菓子やお抹茶をお出しする時など、お互いにお辞儀をする場面が多くあります。

それは、お辞儀によって相手を敬う気持ちや感謝の心を伝えているからです。

お客様同士も、先にお菓子やお茶を頂く人が後の人に「お先に」と心遣いの挨拶をします。

茶室では誰もが平等


以前、スペイン人のご夫妻が「お先に、という思いやりの言葉はとても素敵ですね。日本の心を学ぶことができました。自分の国に帰ってからも、周りの人に伝えてみたいと思います」と、とても喜んでいらっしゃいました。

また、お茶碗をお出しする際も、お客様の正面に一番綺麗な絵柄が向くようにお出ししますが、お客様はお茶を頂く時にお茶碗を回し、綺麗な絵柄に口をつけないようにします。

これは、お互いを思いやる心を作法で表しているのです。

海外の方に喜ばれる教養
茶室の入口であるにじり口をくぐると、国籍、年齢、性別、地位など関係なく、誰もが平等になります。

先日茶道体験にいらしたお客様は、アメリカ、オーストラリア、ドイツ、日本と国も性別も年齢も異なる方々でしたが、皆が和やかに思いやり、笑顔で一服のお茶を頂く姿は平和そのもので、茶室の外の日常でもそのような世界になってほしい、と心から思いました。

茶の湯の極意


ある時、弟子が「茶の湯の極意とはどのようなものでしょうか」と尋ねた時に利休が答えたのが、これからお話しする「利休七則」です。

それを聞いた弟子が「それくらいのことなら私でも知っています」と答えたところ、利休は「もし本当にそれができているのなら、私があなたの弟子になりましょう」と返しました。


茶道というと、作法やお茶の飲み方に目が行きがちですが、最も大切なのは、お茶を点ててもてなす亭主とお客様とのコミュニケーションです(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

これには、理屈や言葉では分かっていても実際やってみると思い通りにはいかない、当たり前のことを実践する難しさやおもてなしの奥深さが込められています。

自分をさらに高める教養
『7つの習慣』というアメリカのベストセラーがありますが、なんと千利休は500年前に「茶の湯の7つの習慣=心得」を残しています。

利久七則


一、茶は服のよきように点て

「飲む人にとって丁度良いお茶を点てなさい」と、気配りの大切さを言っています。基本はもちろん大切ですが、お湯の温度やお茶の分量など、一人ひとりに寄り添って心を込めることが、心地よい人間関係の秘訣ではないでしょうか。

二、炭は湯の沸くように置き

「炭はお湯がきちんと沸くように置きなさい」と、事前準備の大切さを言っています。準備をしっかりすることで、自身も安心と自信を持つことができます。

三、花は野にあるように生け

「花は野に咲いているように生けなさい」と、自然体でいることの大切さを伝えています。私たちも、周りの目を気にしたり見栄や虚勢を張ることなく、花のように自然体でいることが一番美しい姿なのではないでしょうか。

四、夏は涼しく冬暖かに

「相手を思い、一年を通じて心地よい空間を」と、思いやりの心の大切さを伝えています。利休の時代はお客様に対し、五感で涼しさ・暖かさを感じさせる工夫をしていました。エアコンのおかげで快適な一方、忙しい毎日の中で季節感を忘れがちな今こそ、心に留めておきたい言葉です。

五、刻限は早めに

「時間に余裕を持ちなさい」と、気持ちにゆとりを持つことの大切さを伝えています。時間に余裕がないと、気持ちが焦ってしまい周囲を思いやることができなくなりますよね。自分の中の時計を少し進めておくことで心に余裕が生まれ、全てにおいて良いスタートを切ることができるはずです。

六、降らずとも傘の用意

「雨が降らなくても傘の用意を」と、不測の事態に備える大切さを伝えています。どんな時でも備えを万全にすることで焦ることなく臨機応変に対応でき、自分自身も安心できます。

七、相客に心せよ

「同席したお客さまに気配りを」と、互いに尊重し合う大切さを伝えています。30代の生徒さんが「『利休七則』は500年前の言葉なのに全く古さを感じないし、今のビジネスの基本にも通じるものがあって、大切な仕事の前にいつも思い出しています」とおっしゃっていました。

海外の方に喜ばれる教養
利休が伝えたかったのは作法や形ではなく、全て「心」についての教えでした。形だけ整っていても、心がなければそれは本物ではない、ということです。

※本稿は、『「お茶」を学ぶ人だけが知っている「凛とした人」になる和の教養手帖』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。

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