欧州の男性は“日本基準”ならみんなマザコン?「ママの誕生日に妻と結婚」

2025年5月9日(金)6時0分 大手小町(読売新聞)

大人になっても母親から自立できず、物事の判断など全てを委ねて甘えている状態を指す「マザー・コンプレックス」、略してマザコン。マザコンの男性というのは、日本においてとにかく不評の一言に尽きます。

発言小町を見ると、交際中の恋人や夫が「マザコンなのではないか……?」と悩む女性は多いようで、「姑の仕立てたシャツを着続ける夫に不満。もしかしたらマザコン?」など、さまざまなトピックが立てられています。

マザコンの男性とは、どんなタイプを言うのでしょうか。日本では、「自立心がなく、常に母親の意向に従う」「パートナーより母親との約束を優先する」といった典型的なケースだけでなく、母親と「頻繁に連絡を取り合う」「距離が近すぎる」場合も、「母親思い」ではなく「マザコン」だと受け取られる気がします。では、海外ではどうか。今回はマザコンについて考えます。

写真はイメージです

先日、筆者の知り合いのドイツ人男性と話していたら、互いの家族の話になりました。会話の中で、男性は(うれ)しそうにこう言いました。「僕は母親の誕生日に妻と結婚したんだ」

失礼ながら、日本だとドン引きした妻が発言小町にトピを立てて相談しそうなフレーズではないでしょうか。でも、この夫婦は長年、とても仲が良いのです。

ドイツの一般的な感覚では、「家族の誕生日」をとても大事にします。プレゼントを贈りあうのはもちろん、前述の男性のように「母親の誕生日は特別な日だから、自分の結婚記念日を同じ日にしたい」と考えたとしてもおかしくはありません。

「母親の誕生日」となれば、男性が恋人や妻も巻き込んで「何をプレゼントしよう」とか「こういうサプライズをしよう」などと「大騒ぎ」する光景をよく目にします。当然のように、恋人や妻もそういったことに「乗る」ことが求められます。日本の感覚なら「完全にマザコン」の世界であるわけですが、ドイツではこれを非難する人はいません。

日本で「マザコン」の話題になる時に避けて通れないのが「料理の味付け」の話でしょう。夫が「おふくろの味」を求め、妻の手料理にダメ出しをする……なんて話も、いまだにチラホラ聞こえてきます。

実は「食」に関しては、ドイツの女性はかなり気が楽です。というのも、日本でいう「おふくろの味」は近年のドイツにほぼ存在せず、「家庭で慣れ親しんできた味」といえばパンなどに塗るチョコレート味のペースト「ヌテラ」だったり「冷凍ピザ」だったり、ということが珍しくないからです。このため、ドイツ人男性を夫に持つ女性が「義母の味を再現することに苦労する」といった話は、全くといっていいほど聞こえてきません。

「母親の手料理」の文脈で「マザコン」の傾向ありとされるのは、ヨーロッパではイタリアの男性だと言われています。以前、筆者が読んだドイツの雑誌には、ドイツ人女性の愚痴として「イタリア人の夫はことあるごとにママのパスタを食べに実家に行ってしまう。帰ってきた後は、必ず『ママのパスタが世界一』だと礼賛する」と書かれていました。

よく考えてみると、イタリアも日本も、世界では「料理のおいしい国」として有名です。おいしい料理がたくさんあり、日々の献立にこだわるからこそ、嫌味やイジワルにも「料理」が登場するのでしょう。良くも悪くも、筆者の母国「ドイツ」は、そこからは外れているようです。

意外に思われるかもしれませんが、日本人よりもヨーロッパの人のほうが、親と頻繁に交流します。「毎日のように親と連絡を取る」と言うベルギー人女性は、「週に1度だけしか親と話さないなんて、信じられない!」と驚いていました。

でも日本では、例えば成人した息子や娘が都会で働き、親が地方に住んでいる場合、子供が帰省して親に会うのはお正月ぐらいだったりします。毎日親に連絡するという日本人は少数派で、「用事があればたまに」程度の人がほとんどのようです。

筆者が知る限り、親側も「(子供から)連絡がないのは、元気にやっている証拠」と捉える傾向が強く、ヨーロッパほど「連絡」にこだわらない印象です。これは、「言葉にしなくても通じ合う『以心伝心』という概念がある日本人」と「家族間であっても愛情などの気持ちを頻繁に言葉で表すのを重視するヨーロッパ人」の違いなのかもしれません。

成人した女性が頻繁に「父親」の話をすることも、ドイツでは珍しくありません。筆者が20代の頃に仲良くしていたドイツ人女性Jさんは、父親が大好きで、女友達も気になる異性も、家に招待しては父親に紹介していました。

父親は非常に感じが良い人で、筆者もJさんの家に泊まりに行き、みんなで食事をしたり会話をしたりするのを楽しんでいました。そんなある日、Jさんがこうこぼしたことがありました。「いま気になっているアメリカ人男性がいるのだけれど、彼を家に招待して、地元の祭りに一緒に出かけたの。ウチのパパは盛り上がっていたのに、アメリカ人の彼はシラーッとしていたのよ。ちょっとノリが悪いかも!」

これには、「おいおい、パパがずっと一緒だと彼も盛り上がれないでしょ」と心の中でツッコミを入れたのを覚えています。

もちろん、ドイツの女性全員がJさんのような感覚を持ち合わせているわけではありません。ただ一つ言えるのは、ドイツでは性別を問わず「成人しても親と堂々と仲良くしている人」が日本よりも多いということです。

日本の女性がパートナーの両親を警戒するのは、やはりかつての日本にあった「家制度」が原因の一つだと思われます。家制度は、戦後の1947年に成立した新民法で廃止されたものの、一部の人の間では「ヨメは夫やその両親よりも立場が下」という感覚が、無意識のうちに残っているのです。恋愛中の女性の多くは、「価値観の古いパートナーやその親とうっかりかかわってしまい、一生つき合わされる」のを恐れています。

確かに、いったん「対等ではない関係」を受け入れてしまうと、なし崩し的に「夫やその両親のために、ヨメがアレコレ動いて当たり前」になりやすいです。そう考えると、筆者は日本の女性が「マザコン男性を警戒する」のも分かる気がするのです。

ドイツでは、母親が「上げ膳据え膳」で息子の面倒をみることはまずありませんし、むしろ「レディーファーストの精神」をたたきこみます。例えば、母親が小学生の息子と出かけた先で、重い荷物を持ち上げようとしている女の子がいたら、「ほら、荷物を運ぶの手伝ってあげなさい」と促します。

冒頭で、「母親の誕生日」に大騒ぎする男性について書きましたが、女性だってもちろん、自分の誕生日の時に「大騒ぎ」してもらえます。自分がパートナーやその親の誕生日にカードやプレゼントを贈ってお祝いしたのであれば、当然ながら同じようにお祝いをしてもらえるのです。そういう意味では、どちらかの負担が大きいということはなく「お互いさま」といえるでしょう。

逆に、相手やその親の誕生日をお祝いしたのに、自分が同じように扱ってもらえないのであれば、対等な関係とはいえないので、愛情を疑ったほうが良いでしょう。

筆者がドイツに住んでいた頃、ドイツ人の男性とつき合っていたこともあり、「ドイツ流にどっぷり」でした。パートナーはもちろん、その家族の誕生日、果てはパートナーやその母親の「名前の日」まで把握していました。

バイエルン地方などカトリックを信仰している人が多いエリアでは、ファーストネームに聖人の名前をつけるのが伝統的です。名前をもらった「聖人の日」が「名前の日」(ドイツ語Namenstag「洗礼名の聖人の日」ともいう)で、この日は誕生日以上に盛大にお祝いすることも多かったのです。専用のカレンダーもあり、例えば女性の名前が「Ulrike」であれば「名前の日」は5月8日です。

こういったお祝いはドイツの文化でもあるので、かつてのパートナーが「親の名前の日だ」「親の丸い誕生日だ」と話しても、「マザコン」とは思いませんでした。ただ、つき合わされるイベントが多くなると、「おなかいっぱい」と感じてしまった部分はあります。

日本に長く住んでいる筆者が、自分の体験を振り返った上で最近感じているのは、「日本の女性から見たら、もしかするとヨーロッパの男は全員がマザコンなのかもしれない」ということです。(コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)

大手小町(読売新聞)

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