認知症の親にイライラしてしまうのは親不孝?懸命に介護するほど、ストレスは溜まっていくもの。「いい加減にして!」と言う前に考えるべきこと
2024年5月10日(金)12時30分 婦人公論.jp
大阪大学名誉教授の佐藤先生が介護中の家族からよく質問されることとは?(写真提供:Photo AC)
平均寿命が延びる中で認知症患者も増え、厚生労働省の発表によると、2025年には65歳以上の5人に1人に達するとの推計もあります。認知症の症状は人それぞれ異なるため、介護者側とのコミュニケーションが上手くいかず、お互いにストレスを抱えてしまう場合も多くみられます。大阪大学名誉教授の佐藤眞一先生いわく「認知症の人の発言や行動は、その言動をする理由を知れば、介護はラクになる」とのこと。今回は、佐藤先生が介護中の家族からよく質問される内容と回答をご紹介します。
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認知症の親にイライラしてしまう
Q. これまで当たり前にできていたことができなくなる親を見ていると、イライラしてしまう自分がいます。親子なのに、認知症だとわかっているのに、イライラしてしまうのは親不孝でしょうか。
A. 認知症になった親を見ていると、「昔はもっとしっかりしていたのに」、「こんな言葉は言わなかったのに」など、若くてしっかりしていて、子どものことを真剣に考えてくれた頃を思い出してしまうものです。
楽しく、和気あいあいと暮らしていた頃のよい思い出と、認知症になってすっかり変わってしまった今の親の言動を比べてイライラしてしまうのは、実の子どもだからこそのことなのでしょう。
イライラしてしまうのは、親なのだからと懸命に介護しようとすればするほど、理想とはかけ離れたことしかできない自分に向かっている感情でもあります。
どうしてもイライラを抑えることができないときは、いったんその場から離れて、興奮している自分の感情を落ち着かせて、「認知症なのだから、わからないことや、できないことがある」ということを改めて思い起こすことが大事です。
どこがすれ違っているのか見つめ直す
そして、冷静になって、自分は親のどのような行動に対してイライラしてしまうのか、なぜイライラしてしまうのか、を考えてみてください。通常は、自分の想定している通りに行動してくれない、振舞ってくれない、ということが原因である場合が多いようです。
認知症の親御さんとあなたの考えのどこがすれ違っているのか、すれ違っているのはなぜなのか、を考えてください。
例えば、お風呂に入ってもらおうとして、そのことを伝えても、嫌がって入ってくれないという場合、なぜお風呂に入ってくれないのか、お風呂を嫌がるのか、を考えてみてください。そもそもお風呂に入るということの意味がわからないのかもしれませんし、お風呂に入ってもどうすればよいのかがわからずに戸惑ったという経験が記憶に残っているからかもしれません。
「お風呂に入って」と声をかけられる前にゆったりとした気持ちでいたのに、別のことをしろと言われて、せっかくの落ち着いていた気持ちを邪魔されたと感じたからなのかもしれません。
イライラさせられる行動の前後を、冷静になって観察する習慣をつけると、親の不可解な行動の意味が、なんとなくわかってくるものです。認知症の人の言動にも、必ずその人なりのなんらかの理由があるのです。そのことを考えるようにすると、徐々にイライラする回数も減ってくると思います。
イライラすると強い言葉が出てしまう
Q. 「いい加減にして! 」「ふざけないで! 」と強い言葉で否定してしまった
何度も同じ行動を繰り返す親にイライラして、つい声を荒らげてしまいます……。強く言うことがよくないとわかっていても止められない時があります。すぐに謝るのですが、謝罪を理解してくれているのでしょうか。
A. 認知症の人は自分の言動が他人にどのように思われているかを気遣うことができなくなっていますし、そもそも同じ言動を取りやすいという傾向があります。
介護者にとっては、本人のためと思っていても、いつも同じことを注意することの繰り返しにストレスが溜まり、ついつい強い言葉をぶつけてしまいがちです。懸命に介護しようとすればするほど、そうしたことへのイライラが高まってしまうものなのです。
(写真提供:Photo AC)
認知症の人特有の論理
本人にとっては、実はとても気になっていることであったり、大事なことだったりする場合が多いのですが、「いい加減にして!」は、家族の側が、それほどのことだと認識できないときに発してしまう言葉です。
この言葉は、相手を拒否し、これ以上その言動をすることは許さないという態度を相手に認めさせようとすることにもなるので、注意が必要です。
認知症の人独自の論理を理解するのは難しいのですが、健常者の論理で考えてしまうと、なぜそうした言動をするのかがわかりません。「ふざけないで!」は、そのために出てしまう言葉なのです。認知症の人特有の論理を理解しようと考えてみることが必要です。
※本稿は、『認知症心理学の専門家が教える 認知症の人にラクに伝わる言いかえフレーズ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです
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