「学び続ける力」がキャリアをつくる。 ベテランエンジニアが語る“AI時代”のリスキリング
2025年5月14日(水)10時0分 BIGLOBE Style
「定年になる歳まであと2年。でも、まだまだ学び続けたいし、新しい技術に触れていたいと思っているんです」
そう語るのは、エンジニアとして長くキャリアを積み重ねてきた松田一郎。現在はBIGLOBEのプロダクト技術本部 サービス運用部 運用プラットフォームグループに所属し、システムの安定稼働を支える要として活躍する一方で、AWSやAIといった最先端の技術にも積極的に学びを深めています。
技術の進化や働き方の多様化が加速するなか、私たちはどのように“変化”と付き合っていけばいいのでしょうか。エンジニア人生の後半戦を走りながら、なおも好奇心持って学びと向き合い続ける彼の言葉から、そのヒントを探ります。
- 開発からインフラ構築・運用へ。変化し続けるキャリアの歩み
- 趣味から始まった学び。資格取得は“目的”ではない
- AI時代は、人間ならではの“発想”や“気づき”が大事
- 時代の変化に適応するリスキリング
- 定年後も“知的好奇心”とともに仕事か趣味か——学び続ける人生に、境界はない
開発からインフラ構築・運用へ。変化し続けるキャリアの歩み
松田 一郎(まつだ いちろう)
プロダクト技術本部 サービス運用部 運用プラットフォームグループ
—— まずは、現在の仕事内容についてお聞かせください。
約10年ほどBIGLOBEの自社サービスのインフラグループに所属し、AWSを用いたクラウドインフラを担当していました。現在はサービス運用部へ異動したばかりで、新しい業務を担当しています。
具体的な仕事内容としては、各所から障害が発生するとアラームが上がるので、一次対応が可能なものは自分たちで対処し、難しい場合は社内周知や関係者の招集、報告を行います。24時間365日サービスが継続稼働できるよう、監視・障害管理を担う部門なので、迅速化や管理体制の強化を進めています。
—— これまでのキャリアでは、どのような技術分野に関わってきたのでしょうか。
BIGLOBE入社前を含めると本当に多岐にわたります。病院の会計や経理システム、気象(雨雲)データ管理システム、官公庁関連のネットワークノード管理、オンラインゲームのプラットフォーム開発(課金・会員管理など)、弁護士事務所向けの返済条件管理システムなど、これでも一部ですがいろいろと携わってきました。
言語も、COBOL、FORTRAN、C、C++、C#、Java、JavaScript、Python、Goなど、主要な言語は一通り触れ、開発からインフラ、何かあったときのクレーム対応まで一気通貫で担当してきました。小規模な会社に在籍することが多かったので、幅広く何でも対応するのが当たり前の感覚だったのです。
そんなキャリアの中で、BIGLOBEへ入社した経緯としては、当時携わっていたゲームプラットフォームをBIGLOBEが事業ごと買収したことがきっかけです。そのタイミングで私も移籍したので、転職活動をしたわけではありません。
—— 幅広いキャリアを経験された中で、多くの資格も取得してきたと伺っています。その背景を教えてください。
資格取得を本格的に始めたのは5〜6年前、BIGLOBEがクラウドシフトを進めた時期です。AWS上でシステムを再構築する方針となり、体系的に学ぶ手段として資格取得が最も効率的だと判断しました。
特に当時は社内にAWSの知見を持つ人がいなかったため、自分たちで立ち上げなければならなかったんです。必要に応じて社外セミナーに参加したり、AWSで何ができるかを把握しながら、体系的に学んでいきました。結果的に難易度の高い資格も取得でき、以降も必要に応じて幅広く学習しています。
—— 日々の業務をこなしながら、学習の時間をどう確保されているのでしょうか。
時間の使い方は、BIGLOBEの環境に恵まれている部分も大きいです。たとえば、学習が必要なときは業務全体の2〜3割は新しい技術を試す時間に使えるように調整していました。
AWSなどの技術に関しても、空き時間に興味のあるソリューションを触ってみる、業務と連動させる形で試してみる、といったことをしています。これが近い将来の仕事につながる可能性があると考え、学習の時間を確保できる環境があります。
趣味から始まった学び。資格取得は“目的”ではない
—— 松田さんの、新しい技術を学び続けるモチベーションはどこにありますか。
資格取得は目的というよりは手段。新しい技術を知りたい、試してみたいという好奇心を満たすために学ぶというスタイルです。
子どもの頃にPC‑8001(1979年にNECより発売)と出会って以来、コンピューターは趣味でもあります。仕事としてのプロ意識が70%、残り30%は純粋な好奇心。新しい技術に触れ、「何かに活かせないか」と試してみる感覚で学び続けています。
—— エンジニアは常に技術力をアップデートする必要性がある職業でもありますね。
そうですね。私が社会に出たのはもう40年近く前ですが、当時と今では、使われている言語や環境はまるで違います。汎用機からクラウドへ、さらに抽象化された機能単位のコンピューティングへと移っている今、アップデートなしではエンジニアとして生き残れません。
私の場合は趣味の延長として外でも学びますが、それが難しい人にとっては、業務の中に自己アップデートを組み込む工夫が必要だと思います。
—— 学び続ける中で「大変だったこと」についても教えてください。
たとえば、直近ではGo言語を学んでいた際、自分のやりたいことに対する情報がなかなか見つからなかったのは大変でしたね。
その際は、まずは他人のコードを参考にしました。GitHubには世界中のコードが公開されているので、それを見て学ぶことが多いです。昔ならソースコードなんて簡単に手に入らなかったのですが、今はそれが可能な時代なので、大いに活用しています。
—— 他に技術的な情報収集はどのようにされていますか?
BIGLOBE独自のAPIに関する情報は社内に頼るしかありません。ただし、社内の特定の知識がある社員に相談が集中しすぎると全体的には非効率になることもあるので、できる限り自力で調べるようにしています。
一方で、汎用的な技術に関してはいろいろな知識源を活用します。調べるにも“技術”が必要で、最近はAIを使って調べることもありますが、AIが間違ったことを言うこともあるので、その見極め力も必要ですね。
—— 調べるにも“技術”が必要……なるほど。「調べる力」については、読者もぜひ学びたいところだと思います。どのような工夫をされていますか?
まず、AIの使い方は目的によって変わります。検索に使う場合もあれば、情報整理に使うこともあります。整理には「Google NotebookLM(ノートブックエルエム)」をよく使います。必要な情報をすべて突っ込んで、プロンプトを変えながら思考を整理する。自分が投入した情報をベースにしているので、嘘も混ざりにくく有効です。
ただし、AIは進化が早いので、今後もこのようなツールはたくさん出てくると思いますし、すべてを頼るのもまだ違うと思います。たとえば、先ほど触れたGo言語でAWSへの接続機構を実装した際には、先行事例が見つからず、C言語だったらどうするか、といった私自身の過去の経験を頼りに自己解決しました。
—— AIに頼るだけでなく、経験の蓄積も大切だということですね。
はい。AIだけに頼るのではなく、AIを活用しながら経験を積み重ねていくスタンスが重要です。先人の知見は活用しつつ、最後は自分の手で埋めていくという姿勢が大事だと思います。
また、AI以外でも「調べる力」を磨く方法があります。
—— 具体的には?
それは、“情報を読む力”をつけることです。AWSに関して言えば、私は「AWS Black Belt Online Seminar」が非常に有益だと思っています。Amazonが提供するこの動画シリーズでは、サービス担当のエンジニアが細かく機能や使い方を解説しており、プロフェッショナル資格を取れるレベルの内容です。
ただ、有益な情報だと知らなければ辿りつけません。信頼できる情報源を複数読み比べて、「この人もBlack Belt で勉強した」と気づくことで、次第に核心に近づけると思います。
—— なるほど。いろいろな情報を読んで、その情報が有益かどうかを判断する力を養う必要があるのですね。
そうです。さらに、情報のインプットだけではなく他人に説明するというアウトプットの行為は、自分の理解を深める最良の方法です。私はNotebookLMを使って“独りごとのように整理”することもありますが、社外への発信やブログも良い手段です。
これまでもAWSを使ったログイン基盤の構築や、自動ログ収集・セキュリティチェックの仕組みを開発した際、KDDIの勉強会でインナー向けに発表したことがあります。大々的な社外発信ではありませんが、社内でのナレッジ共有としては取り組んできました。
—— 「調べて学んだことを人にアウトプットすること」が大事なんですね。
はい。それはプロジェクトメンバーや業務委託先にシステムを説明することなども含みます。私たちは「コードを書けばプログラマー」と思われがちですが、最終的な成果物を導くためには、ユーザーニーズの把握、設計、アーキテクチャ選定、環境構築などが不可欠で、それを関係者に説明することも大切だからです。
特にAIに代替される領域が増える中では、ただ言われた要件通りに仕事をこなすのではなく、システムの必要性や特長を明確に伝え、予算を獲得した上で開発の方向性を定める——といった「人間にしかできない」部分での価値提供が求められるようになるはずです。
AI時代は、人間ならではの“発想”や“気づき”が大事
—— 松田さんは学習を続ける中で、何か印象に残っている事例はありますか?
直近では、「障害範囲の特定・影響範囲の可視化」の仕組みに関して、グラフDBを活用できないかと考えたことです。このグラフDBは、数年前に取得した「AWSデータベーススペシャリティ」という資格の学習時に知ったもので、今まで業務で使ったことはなかったのですが、「関係性を多段で高速にたどれる」という特性が、障害調査の仕組みに向いているのではと実験しています。まだ実運用には至っていませんが、学んできたことが“選択肢として自然に浮かぶ”という意味では、資格の勉強が確実に活かされていると感じましたね。
—— 皆さんすぐに使える知識を求めがちな中で、そうした“引き出し”を持っていることが強みになりますね。
そうですね。AIだけでは最適解にたどり着くのが難しい場面でも、人間の直感や経験が候補を出すことができます。そこから先の精査をAIに任せることもできますが、最初の“発想”や“気づき”は、やはり人間側に求められる部分だと思います。
他にも、AWSの認証周りの仕組みを構築した際に、昔触れていたActive Directoryの知識が役立ちました。社内PCのログインで使うレベルの話ですが、その考え方や構成を参考にしながら、より安全で効率的な認証設計に結びつけることができました。
—— AIは“今すぐ役立つ”ことが求められがちですが、将来活きる学びを重ねておくことの価値も大きいんですね。
そうですね、AIではたどり着けない直感的な判断、判断軸を与える部分では、これからも人間が果たす役割は残ると思っています。
とはいえ、最近のAIの進化にはワクワクする面も大きく、まさに“コンピューターの民主化”だと思っています。パソコンの登場、スマートフォンの普及に続く、第3のインパクトです。かつてAIは技術が高度で「使うには専門知識が必要」でした。それが、今では誰もがプロンプトで指示を出せるようになり、エンジニアではない方も活用されているので、これは人類にとって非常に大きな変化で、定着していく流れだと思っています。
私自身、現在58歳(2025年4月取材時点)ですが、「AIの進化をこれからも見届けたい」「どこまで進化するのか楽しみ」という気持ちが強くあります。まるで「ドラえもんが本当に誕生する日を待っている」ような感覚です(笑)。
—— 学びを積み重ねてきたからこそ、今の変化を楽しめる——まさにキャリアの深みですね。
仕事に必要だからだけでなく、純粋に興味があって技術に触れてきたからこそ、今もワクワクしながら追いかけられるのかもしれません。
時代の変化に適応するリスキリング
—— 学びの必要性について伺ってきましたが、最近はBIGLOBEの学ぶカルチャーや制度も変化しているようですね。
はい。たとえば以前の資格取得制度は対象資格に合格しないと受験料が支給されなかったのですが、現在は「1回までは不合格でも会社が受験料を負担」する制度(※1)に変わり、取り組みやすくなっています。さらに、資格の難易度に応じて報奨金も出るようになり、制度面での後押しは非常に大きいですね。
※1)資格取得チャレンジ
対象となる資格試験について、受験費用を補助したり、合格時に報奨金(インセンティブ)を与える制度。対象資格については、初回受験時の受験料(振込手数料含む)は合格/不合格の結果に関わらず補助する。同一資格の2回目以降の受験については、合格した場合のみ受験料(振込手数料含む)を補助する。
資格取得費用補助の対象資格の取得・更新・維持に必要な講習、研修、印紙代、切手代、証明写真などの費用について受講費以外についても補助対象。
また、学び方の支援として、会社がUdemy Businessに加入しているため、対象の講座であれば無料で見放題です。私は中級資格取得に向け、業務中にUdemyの講座を“聞き流しながら”学んでいました。集中が必要ない単純作業中に聞き流して、気になるところはメモして後で見返すようなスタイルです。現在はスマホからでも勉強できるようになったので、通勤中などの勉強にも活用しやすくなりました。
セミナー参加なども業務時間内で対応しやすいので、自己成長に取り組みやすい職場だと感じています。特にエンジニア部門では、自発的な学びを支える文化があると思います。
—— リスキリングという観点で、現場の意識はどうでしょう?
正直なところ、リスキリングは簡単ではありません。組織としては効率性を重視し、分業体制が強く、ある分野のスペシャリストになる文化が根強いからです。そのため、ローテーションの機会が少なく、他分野への展開が難しい面があります。
ただ、本人の希望があれば挑戦できる環境はありますし、若手や中途採用にも力を入れ始めており、年齢に関わらず裁量を持って働ける環境が整ってきています。自然と「自律的に考え、動く」文化が根づいたとも言えるでしょう。
また、先ほどから触れているAIの登場で、今はこの技術が特別視されていますが、10年後には誰もが当たり前のようにAIを使いこなすようになるはずです。リスキリングとは、特別なことをするというより、時代の変化に自然に適応していくことに近いのかもしれません。
定年後も“知的好奇心”とともに
仕事か趣味か——学び続ける人生に、境界はない
—— これからのキャリアについて、今後の展望や目標があれば教えてください。
そうですね。年齢としてはあと2年ほどで定年となりますが、60歳、70歳になっても基本的なスタンスは変わらないと思っています。新しい技術に触れながら、ワークライフバランスを保ちつつ、学び続けていけたらと考えています。
その上で、雇用形態はわかりませんが、仕事ができる状態でありたいですね。独立して自営業(フリーランス)になると、営業や経理などもすべて自分でやらないといけませんし、自分の事業を大きくしたいわけでもないので、BIGLOBEには関わり続けていければ嬉しいですね。知的好奇心が満たされる範囲で働き続けて、少し余裕ができたら旅行などプライベートも楽しみたいと思っています。個人的にはクルーズ旅行など、少し長い期間が必要な趣味も経験したいですね。
—— 素敵ですね!最後に、リスキリングやキャリアアップを考えている読者にとってメッセージがあればお願いします。
自分が目指したい働き方をするためにも、資格を持っておくのは有効だと思います。資格は社外から見たときの“肩書き”のようなもの。とっておいて損はないと思います。
AWS関連の資格などは、BIGLOBEの中でも学びやすい環境が整っていますし、補助金制度もあるので、やる気があれば誰でも挑戦できる環境です。さらに、もしBIGLOBEの外に出たとしても、自分のスキルを証明する手段として資格は有効です。特に若い人にとっては、将来の選択肢を広げる武器になると思うので、資格取得という手段を通じて人生を切り拓いていってほしいですね。
—— 今回のインタビューを通じて、エンジニアとしての成長だけでなく、リスキリング、キャリア、そして“変化を楽しむ姿勢”までしっかり伝わってきました。ありがとうございます!
BIGLOBEでは現在新たな仲間を募集しています。興味のあるかたはこちらをご覧ください。