最高時速15km、日本一遅い門司港レトロ観光線のトロッコ列車「潮騒号」関門海峡の潮風を浴びながらガタゴト旅

2025年5月16日(金)6時0分 JBpress

(山﨑 友也:鉄道写真家)


貨物線の休止線路を利用

 日本一速い列車というと、E5系やH5系、E6系を使用し、時速320kmで駆け抜ける新幹線「はやぶさ」や「こまち」だというのは、鉄道好きではなくても知っている人は多いと思う。では日本一遅い列車は? と聞くと、答えに窮する人がほとんどだろう。正解は、「潮風号」。北九州市の門司港レトロ地区を走るトロッコ列車である。

 最高時速は15kmほどで、ときには自転車にも追い抜かれてしまうほどゆっくり走っている。レトロ地区というだけあって周辺には歴史的に価値のある建物や観光施設などが多くあるので、これらを車内から見逃すことなく楽しみ、また関門海峡の潮風を存分に感じることができるように、あえてゆっくりと走っているのかも知れない。

 潮風号が走っている路線は北九州銀行レトロラインと呼ばれているが、これはネーミングライツによって名づけられた愛称だ。野球場や公共施設では近年ネーミングライツが増えてきているが、路線名を貸し出しているのは非常に珍しい。正式には門司港レトロ観光線といい、九州の筑豊地区を中心に路線を持つ第3セクターの平成筑豊鉄道が運行している。

 さてこの北九州銀行レトロラインだが、その生い立ちが変わっている。1929年に、門司港駅から現在の九州自動車道門司港インターチェンジ北側に位置した門築大久保駅までの貨物線が開業した。その後、田ノ浦港に近い田野浦駅まで延伸され、1960年に門司市(現在は北九州市)が路線を引き継ぎ、田野浦公共臨港鉄道となった。

 国鉄伊田線金田駅(現在は平成筑豊鉄道伊田線金田駅)からセメントや石灰石を積んだ貨物列車が田野浦駅まで運行されていたが、輸送量の減少に伴い2005年に路線は休止されてしまう。

 廃止ではなく休止だったため、線路や信号機などの多くの施設が残っていたのが幸いした。2006年には動力車が牽引するトロッコ列車が、2007年には手こぎのトロッコ車が運転されるなどの賑わいをみせるなか、休止中の線路を利用した本格的な列車の運行も計画されていた。

 それは門司港レトロ地区と関門人道トンネルのある和布刈地区に観光列車を走らせることで両地区の移動が便利で楽しくなるうえ、さらには人道トンネルを利用して山口県の下関まで足を延ばしてもらうことで関門両エリアの魅力を満喫してもらおうというものだった。


客車の前後に機関車を連結した珍しい編成

 廃止された路線を地元住民ではなく観光客を運ぶために復活させた鉄道は、旧山陰本線の跡を利用した京都府の嵯峨野観光鉄道が日本で最初だが、門司港レトロ観光線は国内2番目の観光鉄道として2009年4月に開業を迎えるのである。普通鉄道として観光に目的を特化して鉄道事業を国交省に申請したのは、この鉄道が全国初ということだ。

 愛称は公募により「潮風号」に命名。機関車は熊本県の南阿蘇鉄道で、トロッコは長崎県の島原鉄道で使用されていた車両をともに2両ずつ譲り受けて運行している。客車を挟むように前後に機関車を連結したプッシュプルという編成で運行するスタイルも珍しい。

 さてオススメの観光ルートだが、まずは門司港駅からスタートしよう。門司港駅は1914年に創建され、2019年に建設当時の姿に復原された。駅としては日本で最初の重要文化財にも指定されている。レトロなたたずまいを味わったら、九州にゆかりのある車両が数多く展示されている九州鉄道記念館を見学だ。

 鉄分を十分蓄えたのち、始発駅である九州鉄道記念館駅からいよいよ「潮風号」に乗車しよう。ポイントは進行左側の席をゲットすることだ。そうすればレトロ地区のさまざまな建物や関門海峡、関門大橋もバッチリ見える。

 ところでトロッコ車両は元々貨車のため2軸であり、ガタゴトと揺れてしまう。ただトロッコの由来である貨車に乗れる機会は決して多くないため、潮風を浴びながらこの乗り心地も是非楽しんでもらいたい。

(編集協力:春燈社 小西眞由美)

筆者:山﨑 友也

JBpress

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