受け身・他律な部下は変えられる『プロアクティブ人材』論 第1回 デキるやつほど転職しない!? 近年注目の『プロアクティブ人材』とは
2025年5月16日(金)7時0分 マイナビニュース
「デキるやつ」と聞いて皆さんはどのような人材を思い浮かべますか。企業の経営者の方々と話をしていてよく出てくるのは、「成長意欲がある」、「自ら積極的にコミュニケーションを取ってくれる」、「自己管理力が高い」、「責任感を持ち職務を遂行している」、など、いわゆる"能動"や"自律"を想起させるキーワードです。
本連載をお読みいただいているビジネスリーダーの皆さんの中にも、「部下が指示待ちで言われたこと以外しようとしない」、「自分の経験に固執し新しい挑戦に否定的」「そもそも意思表明がなく何を考えているかわからない」「ホウレンソウがない/もしくは遅く何か起こりそうで日々不安だ」といったように"部下が受身・他律であることに起因する"お悩みをお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。
このようなお悩みの解決に繋がる概念が、本連載を通してご紹介する「プロアクティブ人材」です。プロアクティブ人材とは、欧米のアカデミアを中心に研究が重ねられてきた比較的新しい概念です。
具体的には、「先見性、未来志向、変革志向の3つを持ち、それらに基づく自律的な行動によって、自らのキャリアと組織成長を同時に切り拓いていく人材」を指します。
一見こうした人材像は個性に大きく左右されるため「概念を知ったところで役に立たない」と思われがちですが、実はプロアクティブ人材は上司のマネジメントなどを通じて後天的に育成できるという点も、今プロアクティブ人材に注目が集まっている一つの理由です。
本連載では、より強い組織を作ろうと日々模索を続けるビジネスリーダーの皆様に向け、「プロアクティブ人材とはどういった人材なのか?」「なぜ育成することが重要なのか?」「どのように育成するのか?」など、自組織の活性化・プロアクティブ化に役立つ情報をお届けします。
○人材の"プロアクティブ度"を測る、12の指標
まず、プロアクティブ人材についての理解をよく深めていただくために、日本総研がアカデミアの先行研究とビジネスの現場との対話を通じ開発した人材のプロアクティブ度合いを測定するための設問項目を見ていただきましょう。
この12の設問項目を総合すると、プロアクティブ人材とは「職務を通じ自身の枠組みに囚われず新しいことに周囲を巻き込みながら挑戦する人材」であり「自らのキャリアにおける意味づけを同時に考えることで、やらされ感から解放されイキイキと挑戦に取り組んでいる人材」であるということがおわかりいただけると思います。
この設問項目について、日本総研では2024年に20,400人の企業勤務者に対しアンケート調査を行いました。アンケートでは全国規模でプロアクティブスコアを測定するだけなく、プロアクティブ行動を活性化するための要因はどのようなものか、またプロアクティブ行動を取ることで組織や個人にはどのようなメリットがあるのか、などのデータも取得しています。これからの分析結果についても本連載の中でご紹介していきます。
○プロアクティブ人材ほど転職していない
本稿では、さわりとして面白いデータをご紹介したいと思います。それは「プロアクティブ人材ほど転職していない」というデータです。
プロアクティブ人材と言うと、たいていの人はアントレプレナーのような人材を想起し、プロアクティブな人材ほど転職してしまうリスクが高いという認識をもたれるのではないでしょうか。
実際、我々が企業の経営陣の方とプロアクティブ人材に関するディスカッションをする際にも、必ずと言っていいほど言及される懸念の一つになっています。
しかし我々が実施したアンケート調査からは全く違う実態が明らかになりました。「現在勤務している企業から転職することを考えていますか」という質問に対する回答結果を見ると、プロアクティブな人材ほど転職意向が低いことがわかります。
また、過去の実際の転職回数を見ると、むしろプロアクティブな人材でない方が、転職回数が多い傾向にあります。
プロアクティブ人材ほど、転職意向が低く、実際の転職回数も少ないという結果を見て、どのように思われたでしょうか。
我々自身最初にこの結果を見たときは、通常持ち得るイメージとの違いに驚きましたが、プロアクティブに活動できる環境を、現在の組織において見いだしている方々の離職意向が低いのは確かに納得感もあります。
本稿では、プロアクティブ人材を育成するための投資が、人材のリテンションにも寄与すること、つまり投資は無駄にはならないことをご理解いただけたかと思います。
次回以降、大規模調査の結果を用いながら、より強い組織を作ろうと日々模索を続けるビジネスリーダーの皆様に向けて、「日本におけるプロアクティブ人材の実態」「育成・働きかけに関するポイントや方法論」などをご紹介していきます。
下野 雄介 しものゆうすけ 株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアルデザイングループ 部長。「プロアクティブ行動の促進」研究・ソリューション開発責任者を兼任。オンライン公開講座「2023年人的資本経営の総括と、2024年に向けた展望」(日本CHO協会 2023年度)をはじめ人的資本経営・プロアクティブ行動に関する講演実績多数。専門は組織開発、組織行動論。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略」 (KINZAIバリュー叢書)。 この著者の記事一覧はこちら
宮下 太陽/博士(心理学) みやしたたいよう 株式会社日本総合研究所 未来社会価値研究所兼リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアルデザイングループ シニアマネジャー。立命館大学客員研究員。組織・人事領域のコンサルタントとして学術の知見も駆使し、顧客の本質的な課題を捉えた科学的な組織変革を支援。専門は文化心理学、社会心理学、キャリアディベロップメント。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略(KINZAIバリュー叢書) 」他共編、監訳、共著多数。 この著者の記事一覧はこちら