青山学院大学にて「産業と暮らしを支える内航海運」特別講義を開催
2025年5月21日(水)15時0分 マイナビニュース
日本物流団体連合会は、青山学院大学にて「令和7年度大学寄附講座」を開講している。5月12日には日本製鉄グループの物流を担う「日鉄物流」内航海運本部長を迎え、「内航海運」をテーマとした講義を実施。次代を担う大学生に”物流”が社会の中で果たす役割を伝えることで物流業界に興味を持ってもらい、ひいては物流業界を就職先の選択肢のひとつに加えてもらうことを期待した取り組みで、当日は経営学部の2〜3年生を中心とした多数の学生が聴講した。
○国内の物流を支える「内航海運」、そのメリットは?
長年にわたり継続的に実施されてきた日本物流団体連合会による大学寄附講座。令和7年度は、前期は青山学院大学 経営学部、後期は横浜国立大学 経営学部にて開催する。日鉄物流のほか、佐川急便、ヤマト運輸、日本貨物鉄道、ANA Cargo、ニチレイロジグループ本社といった企業が特別講師を派遣して、テーマに沿った講義を行う予定だ。
日鉄物流 内航海運本部長の後藤大祐氏が取り上げたテーマは「産業と暮らしを支える内航海運」。その冒頭、まずは内航海運について簡単に説明した。国内の貨物輸送全体の約4割を担うのが内航海運であり(トンキロベース)、船は少ない燃料で大量の荷物を運べるため輸送効率が良いこと、CO2の排出量はトラックの約1/5と環境にも良いことなどを紹介する。
船の種類にも言及。輸送する物資(原料・日用雑貨、穀物類、生鮮食品、原料資材など)に合わせた、様々な設備を有する船があるとし、「私ども(日鉄物流)の運搬船は、北陸新幹線の車両を運ぶこともあるんです」と明かす。「内航海運は、我が国の国民生活や経済的活動を支える基幹的な輸送インフラです」と後藤氏。
○内航海運で働くということ
このあと、国内で活動する約5,000隻の内航船は外国の不審船の監視に協力していること、また地方自治体とは災害時の救援・支援輸送で協力していることにも触れる。はたまた内航海運業の歴史を紐解き、そのルーツは(諸説あるが)江戸時代に江戸と大阪を結んだ菱垣廻船・樽廻船(酒専用)にも見ることができる、といったことも紹介。様々な観点から内航海運業界について語り、学生たちの興味関心を喚起する。
あらためて現代の内航船の能力について、たとえば1600t積の船1隻の輸送能力は20t積のトレーラー80台分に相当すること、船の燃費はトレーラーに比べて約1/25で済むので効率的であることなどを紹介。そして船員の役割分担、勤務事例についても解説する。
「船種にもよりますが、60日乗船したあと25日のまとまった休暇をもらう、というような働き方もよくあるケースです。お休みを利用すれば長期の海外旅行も可能でしょう。その人の価値観は様々ですが、そういったメリットから船員という職業を選ぶ方もいらっしゃると思います」とし、就職後の具体的なイメージを膨らませてもらう。
終盤にはネガティブな情報についても正直に明かす。たとえば、海運業の営業利益率は陸運業と比較すると低い傾向にあるとし、今後は荷主・運送事業者(オペレーター)・貸渡事業者(オーナー)の間で取引環境の改善・生産性の向上などを通じて経営力の向上を図る必要がある、と解説。また(これは内航海運業界に限らないが)船員の高齢化、若年層の担い手不足という喫緊の課題もあるとした。
最後に「内航海運は、日本の経済的活動を支える基幹的な輸送インフラであることを理解いただけたと思います。昨今、トラックドライバー不足(2024年問題)の対策として、物資輸送を鉄道や船に切り替える『モーダルシフト』の重要性についても盛んに言われています。私たちとしても、働き方改革、技術開発などを進めながら1つずつ課題を解決していければ、と考えています」とまとめた。
講座を終えて、後藤氏は「どうやったら若い人たちにも業界のことが伝わるか、試行錯誤しました。今回は講座の冒頭に動画を入れたほか、専門用語をなるべく使わない工夫も行いました」と振り返る。講座の終了後には質問に来た学生もおり、手応えがあった様子。「物流問題が言われる昨今です。でも、トラックは学生の皆さんの日常生活に身近なところにありますが、内航海運ってなかなかイメージしてもらえません。そのあたりの理解が進んだなら、講座の成果と言えると思います。今後、学生さんたちは様々な業界に就職するでしょう。でも商社にしろメーカーにしろ、どこかで内航海運は関わっているんですよね。そのときに『ああ、学生時代にあんな話を聞いたな』と思い出してもらえたら良いと思うんです」と話した。
○学生に期待することは?
青山学院大学 経営学部の楠由記子教授にも話を聞いた。寄附講座が果たす役割については「就職を希望する業界で、いま実際に働いている人たちに、実務的な話を聞く良い機会として利用している学生が多い印象があります」と楠教授。
昨年、同様の講座を受講した学生の反応については「物流というと、宅配、トラック輸送というイメージがありますが、内航海運の関係者による講座を受講後は『物流のイメージが変わった』『社会インフラとしての重要性に気が付いた』という意見も寄せられています」。
今回の講座を経て、学生に期待することについて聞くと「まず、消費者としての行動変容を期待しています。再配達にならないように荷物を確実に受け取ったり、まとめて注文して配送回数を減らすなど、身近なことから、消費者も意識を変えていかなくてはならないことに気付いてほしいと思います。また、社会的インフラとしての重要性を理解してもらいたいですね。将来、就職を希望する業界に関わらず、物流の知識を学ぶことは大事だと思います。物流はあらゆる業界でモノの供給を担っており、その仕組みが機能しなければ、私たちの生活は成り立ちません。だからこそ、物流は社会を根底から支える縁の下の力持ち的存在なんだ、ということを理解してもらえたらと思います」と話した。
近藤謙太郎 こんどうけんたろう 1977年生まれ、早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、フリーランスとして独立。通信業界やデジタル業界を中心に活動しており、最近はスポーツ分野やヘルスケア分野にも出没するように。日本各地、遠方の取材も大好き。趣味はカメラ、旅行、楽器の演奏など。動画の撮影と編集も楽しくなってきた。 この著者の記事一覧はこちら