奈緒、舞台「WAR BRIDE」戦争花嫁役で新境地に挑む

2025年5月28日(水)11時0分 大手小町(読売新聞)

今年は、第二次世界大戦の終結から80年。この節目の年に、戦争を乗り越えて結ばれた男女の愛を描く舞台「WAR BRIDE —アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン—」が8〜9月に、東京・兵庫・福岡で上演されます。

原案は、2022年12月にTBSで放映されたドキュメンタリー「War Bride 91歳の戦争花嫁」。キャストには、「第33回橋田賞」新人賞を受賞し、若手実力派女優の一人として注目を集める奈緒さんをはじめ、ウエンツ瑛士さん、高野洸さん、占部房子さん、山口馬木也さんら豪華な顔ぶれがそろいました。

【作品内容】 第二次世界大戦後、日本に駐留していた米兵フランク・ハーンと恋に落ちた桂子は、20歳で結婚し渡米した。「War Bride(戦争花嫁)」と呼ばれ、米兵と歩いているだけで娼婦(しょうふ)とののしられるなど、言われなき差別を受けた桂子は、なぜ敵国だったアメリカの軍人と結婚して海を渡ったのか。さらに、アメリカでひどい人種差別に遭った時、桂子はどう乗り越えたのか? 一人のジャーナリストが、激動の時代を生きた桂子の人生をたどる。

インタビューに答える奈緒さん

主人公の桂子・ハーンを演じる奈緒さんに、本作への思いなどを聞きました。

——舞台出演に当たり、今年1月に米オハイオ州ライマ市に住む桂子・ハーンさん(94)に会いに行かれたそうですね。

はい。いろんなお話をしたのですが、桂子さんは本当に愛の深い方だと思いました。ご自身の家族に対してはもちろんですし、母国である日本、そして、海を渡ってたどり着いたアメリカに対しても、とても大きな愛を持っていました。ライマの街の話を聞かせてくださった際、お顔が幸せそうで感謝に満ちていたのが印象深かったです。日本から遠いこの地に、ご自身でとても温かい場所を作り上げられた方だと思いましたし、「どんな所でも、自分で居場所は作れる」という、人生における大きな希望と、一つの自信のようなものを授かった旅でした。

——出演の話を聞いた時、どう感じましたか。「War Bride(戦争花嫁)」と呼ばれた女性たちのことは知っていましたか。

「戦争花嫁」という言葉は、今回初めて知りました。最初にお話が来た時に、ドキュメンタリー映画(「War Bride 91歳の戦争花嫁」)を見ました。もちろん戦後80年ということもありますが、自分自身が年を重ねるにつれて、もっと深く知らなければいけない歴史だと思っていたので、戦争がテーマの作品に出演することは、自分の人生においてもとても大きなタイミングなのかなと感じました。

私は福岡県の生まれですが、祖父が出征し、帰還した体験があったため、幼い頃から戦争をとても身近に感じていて、そしてすごく恐れてもいました。小さい時に長崎の原爆資料館を訪れたこともあります。原爆投下の候補地の一つが福岡県の小倉だったという話も聞いていたので、人ごとではないという思いがありました。

年齢を重ねるにつれて、今の自分の生活や、「なぜ自分が今、生きられているのか」をひも解くためにも、戦争は深く向き合わなければいけないテーマです。今回の舞台は、「家族」も大きなテーマの一つで、愛と家族、そして戦争について向き合えるので、とても大きなやりがいを感じています。

——桂子さんについて印象深かったことを教えてください。

幼い頃の思い出話で、ある時、お花が好きな桂子さんが庭に花を植えていたら、近所の年配女性から「なんで食べ物じゃないのに植えているの?」と聞かれたそうなんです。小さな日常のエピソードですが、私はとても衝撃を受けました。私も花が好きで、よくフラワーショップで花を購入するのですが、その当時は食べることに精いっぱいで、食べ物じゃないものを植えたり花に安らぎを求めたりすることが厳しかったのだと痛感しました。

夫のフランク・ハーンさんと息子のエリックさんのお墓参りにも一緒に行きましたが、供えるお花を私たち2人で選んでいる時間が平和の象徴のようで、とても強く記憶に残っています。現在の私たちの暮らしには選択肢が多く、「選ぶことができる」という幸せを改めて、すくい取れたらいいなと思いました。

——奈緒さんと桂子さんに共通する点は?

正直、桂子さんがあまりに素晴らしい方で、私自身の何かと照らし合わせるようなことが全くできなかったんです。でも、桂子さんから学んだことはたくさんあって、その一番は、何に関しても「感謝すること」です。

桂子さんは、「本当に心からうれしいです」「私は感謝しています」と、今回の旅の中だけで何度もさまざまなことに感謝していました。過去には多くのつらいことがあったはずです。でも、桂子さんの周りには、桂子さんのことを大切に思っている人たちがいます。それは、どんな逆境の時でも、桂子さんが「感謝する」という視点を持って生きてきた結果なのかなと感じました。

私も今後さらに成長して、桂子さんのようにたくさんの感謝の心を持ちながら、自分自身も自分の周りにいてくれる人たちも幸せにできる人間になりたいと思いました。

——実在の人物を演じることはそう多くないと思いますが、演じるに当たって、イメージはどのように作り上げますか。

短い滞在日数でしたが、桂子さんをよく知ることができました。演出の日澤雄介さんと一緒に、彼女の優しさや強さを作品にどう落とし込むのかについて、稽古場でしっかり向き合いたいです。この作品の中で生きる桂子・ハーンさんを、日米双方の良いところを自分の中に持った一人の女性として、観客に伝えなければいけないと思っています。

——奈緒さんは2月に30歳になりました。自身の20代を振り返ってどう思いますか。

20代で一番時間を使ったのが、「自分自身を知ること」と、「自分自身を受け入れること」でした。傍らにはいつもお芝居があったので、自分の性格や環境とは異なる役を演じる中で、「自分だったらどうするか」などと、自分の中にあるものと照らし合わせながら役と向き合う機会がとても多かったんです。仕事も含めて、20代の全てが本当の自分自身を知るための時間だったなと感じています。

仕事で大きく成長できたことに加え、多くのすてきな出会いのおかげで、今の自分があると思っています。「20歳の自分に胸を張って会える30歳になりたい」というのが、上京した時からの目標でした。振り返ると、当時、多くの選択をした結果が今の私なので、当時の自分に感謝したいなって思っています。

——それでは、30代の目標は?

10代、20代では、本当に多くの人に育ててもらいました。これからは、その皆さんに恩返しをするだけでなく、恩送りとして、自分が先輩たちにしてもらったように、誰かが育つ時に頼れる存在になりたいですね。30代からは、20代で獲得した「自分に対しての知見」をフルに使って楽しめたらいいなと。

——表現者として、どういう存在でありたいですか。

私は作品作りが好きなので、作品を通じて誰かのためになれるといいなといつも思っているんです。欲を言うなら、「明日をもう少し頑張って生きてみよう」という思いを誰かに届けられる作品と出会って、その作品の力になれたらいいなと願っています。

——奈緒さんは絵を描くことが好きだそうですが、どんな絵が好きですか。

点描画がとても好きで、自分でも挑戦しています。実は、私の公式ホームページのイラストも最初、点描でバーッと描いて、そこから崩していったんですよ。好きな画家はポール・シニャック(1863-1935年)です。淡い色で描かれている絵が多いのですが、コントラストが強くないのに陰影がついていて、そんなところにひかれます。美術館で初めてシニャックの絵を見た時に感動して、それから点描が好きになりました。ただ、点描はまねをしてみると、すごく難しくて……。でも、本当に癒やされます。

——昔は漫画家になりたかったそうですね。今、読んでいる漫画のタイトルを教えてください。

学生の時からずっと読み続けているのは、「ONE PIECE」です。キャラクターはもちろんみんな好きだけれど、推しキャラは自分の中で変わっていっています。昔は、ロロノア・ゾロがすごく好きで、トニートニー・チョッパーも好きでした。けれど近頃は、ウソップに共感するんです。「麦わらの一味」の中ではそれほど特別な力を持っているわけではないのに、そこから長い期間をかけて、ものすごくたくましくなっていくウソップを見ていると、「人って変われるんだな」と思い始めたんです。上京してから、ウソップの一言に涙することが多くなったので、自分の状況と重ね合わせて、ウソップから勇気や元気をもらったところがあります。

——舞台のテーマの一つが「家族」ですが、奈緒さんは家族と密にコミュニケーションを取っていますか。

よく母と話をしますし、私の出演作品についても、一視聴者として母がどう感じたかといった話をします。今回の舞台をきっかけに、母に祖父のことを聞く機会もできました。母の方も、「この年になって気づいたけど、おじいちゃんってこうだった」というように、自分の父親に向き合ってみて気付くことがあったようです。この作品をきっかけに、母と私がそれぞれ家族に向き合う時間が増えたなと。すごくありがたいですね。祖父の話を母とすることで、祖父とまた会っているような気持ちになる瞬間もあって、すごくいい時間を過ごしています。

(文・読売新聞メディア局 杉山智代乃/写真・秋元和夫)

舞台「WAR BRIDE —アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン—」【日程】2025年8月5日(火)〜8月27日(水)※開演時間は公式HPをご参照ください。【会場】よみうり大手町ホール(東京メトロ・都営地下鉄「大手町」駅C3出口直結)【脚本】古川健(劇団チョコレートケーキ)【演出】日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)【出演】奈緒、ウエンツ瑛士    高野洸、川島鈴遥、渡邉蒼、福山絢水、牧田哲也、岡本篤、占部房子    山口馬木也【チケット】全席指定:11000円▼先行先着販売実施中(読売新聞オンラインチケットストア限定)〜5月28日(水)23時59分・読売新聞オンラインチケットストア※お申込みの注意事項などは販売ページおよび公式ホームページからご確認ください。▼一般発売 5月30日午前10時〜・読売新聞オンラインチケットストア・TBSチケット・チケットぴあ・ローソンチケット・イープラス

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