【熱狂パリ五輪】「パリでは金メダルを」バドミントン混合ダブルス・渡辺勇大/東野有沙、悲願をかなえる舞台
2024年7月25日(木)8時0分 JBpress
文=松原孝臣
「笑って終われたら」
「史上最強」ともうたわれ、全種目でメダルを、複数の金メダルも狙えると期待を集めた東京オリンピック。だが大会が始まると先に行われる種目で成績が上がらないことが連鎖し、結果、混合ダブルスで渡辺勇大/東野有沙の銅メダルにとどまった日本バドミントン。渡辺/東野の混合ダブルス日本初のメダルは大きな成果であり歓喜をもたらしたが、それでも事前の期待の大きさもあって、日本バドミントンは不振に終わったという印象はぬぐえなかった。
あれから3年。パリに挑もうとしている日本バドミントン代表は、東京に劣らない精鋭がそろった。
山口は十代前半から将来を嘱望されてきた選手だ。中学3年生だった2012年、史上最年少で日本代表に選出。高校生のときには世界ジュニア選手権連覇。その後も国際大会で表彰台に上がるのは珍しいことではなかった。
だがリオデジャネイロ、東京と、過去2度のオリンピックでは準々決勝敗退で大会を終えた。特に悔いが残ったのは金メダルの有力候補の1人にあげられていた東京だ。大会を終えて、自分には何が足りないのかを考え抜いた。行きついた答えは、注目と期待によるプレッシャーで力を出し切れなかったことだった。だからこう考えた。
「期待に応えようとしつつも、まず自分が楽しむこと」
吹っ切れた山口はすると2021、2022年世界選手権を連覇。復調を示した。
女子シングルスは山口を含め4名が拮抗し誰が優勝しても不思議はない。また5月に負傷し本格的な練習は7月からであるのは懸念材料だ。それでも自分の力を信じて語る。
「これまでの大会は泣いているので、笑って終われたら」
渡辺勇大/東野有沙「1球1球の質を大切に」
東京でバドミントンをある意味救った、渡辺と東野。中学生のときに最初に組んでからゆうに10年を超える。
「世界でいちばん長いと思います」
と東野が言うように、世界上位でプレーするペアの中ではいちばん長い年数を誇る。しかも最初に組んだ試合から、「説明はつかないけれど」、お互いに無駄な動きがなくスムースなプレーができて、息が合ったという。東野は「奇跡ですね」と表現する。その相性のよさこそ、2人の最大の武器であり、東京オリンピックで銅メダルを獲得した原動力だ。
メダルを手にすることができた喜びの一方で、大会を終えて感じたのは頂点に立てなかった悔しさだった。3位決定戦を終えた翌日、東野はこう語っている。
「パリでは金メダルを獲りたいです」
ここまでの日々は、2人の共通の目標を現実とするための時間だった。大会で敗れれば何が足りないのかをみつめ、技術の強化を図った。成長を志し努力する中で、世界選手権では2021、2022年に銀メダル、2023年に銅メダルというように、世界トップを争うペアとしての地位を確立した。残るは頂上に立つだけだ。
「負けるのは1本の質で劣るときなので1球1球の質を大切にしたいです」(渡辺)
3年間の思いをぶつけて悲願をかなえるための舞台が、パリだ。
女子ダブルス、男子シングルスにも注目
日本で真っ先にメダルを獲得したのは女子ダブルス。2012年ロンドン大会で藤井瑞希/垣岩令佳が銀メダル、2016年リオデジャネイロで高橋礼華/松友美佐紀が金メダルを手にしている。
層の暑さから毎回、激しい代表争いが繰り広げられるが、パリには7月16日現在の世界ランキングで4位につける志田千陽/松山奈未、6位につける松本麻佑/永原和可那が出場する。
志田/松山は東京オリンピックののち成長を遂げ、国際大会で上位の成績を残してきた。松本/永原は2018年世界選手権金メダルなどの活躍で東京でも優勝を期待されたが準々決勝敗退。再起して代表にたどりついた。
スピード感ある攻撃と粘り強いプレーが持ち味の志田/松山、身長170cm超の2人によるパワフルなショットが武器の松本/永原、いずれも上位を狙う力を持つ。
また男子シングルスの奈良岡功大は世界ランキング5位、昨年の世界選手権では銀メダルに輝いた。
バドミントンは協会組織内の不祥事により強化費が大幅に削減され、オリンピックイヤーになって想定していた合宿が組めないなど少なくないダメージがあった。
その中でも自らの目標に向けてひたむきに歩んできた選手たちのプレーに注目したい。
筆者:松原 孝臣