山陰の本当にいいものを届ける橋渡しの場を、みんなでつくる。 【地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ。[第4回 鳥取県・島根県編]】

2023年9月7日(木)15時45分 ソトコト

島根県・鳥取県をまたいだ中海(なかうみ)・宍道湖(しんじこ)・大山(だいせん)エリアは、山陰地方の中核地域です。「このエリアのいいものを、つくり手から直接お客さんに届けたい」。そう願って2015年からスタートしたのが「山陰いいものマルシェ」です。第一回が島根県松江市で開催されて以来毎年一度、さまざまなまちで開催されています。
コロナ禍の前である2019年の来場者数は、約2万4000人。地域の人々を魅了する大きなイベントになっています。


「山陰のいいものを発信する場」をつくろう


水産物や加工品、米、肉、寿司、乳製品、麺類、野菜、スイーツ、調味料、クラフトなど——。「山陰いいものマルシェ」に並ぶのは、山陰の各地で生まれた、とっておきの商品。これほど集まる機会はなかなかありません。来場者が多いのも頷けます。
「山陰いいものマルシェ」を運営しているのは、官民組織による『山陰いいものマルシェプロジェクト実行委員会』。『中海・宍道湖・大山圏域市長会』、『中海・宍道湖・大山ブロック経済協議会』、『西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)』、『山陰中央新報社』の4社で立ち上げました。現在は、海外での事業展開を視野に入れ『ジェトロ島根』、『ジェトロ鳥取』も実行委員会に加わっています。
実行委員会としては6社でも、関わる組織の数はもっとあります。中海・宍道湖・大山圏域とは、中海・宍道湖沿岸にある島根県出雲市、松江市、安来(やすぎ)市、鳥取県境港市、米子市の5市と、⿃取県⻄部の大山圏域にある7町村を指し、「山陰いいものマルシェ」には各自治体や各商工会・商工会議所も関わっているのです。『中海・宍道湖・大山圏域市長会』と『中海・宍道湖・大山ブロック経済協議会』は、県境に関係なく連携していこうとする組織です。
この5市には特徴があり、出雲市は出雲大社を中心とした観光業、松江市は宍道湖や松江城を中心とした観光業、安来市は工業、境港市は漁業、米子市は商業が盛んです。よって各地の「いいもの」もそれぞれあり、とても豊かなエリア。
「山陰いいものマルシェ」は、そうした山陰の本物を発掘して情報を発信するのはもちろん、生産者や事業者とバイヤー側のマッチングを通じて、産品の消費拡大、生産振興をも目指しています。











事務局が置かれている『松江商工会議所』で「山陰いいものマルシェ」を担当している、まちづくり推進部・次長の松尾敦子さんにお話をお聞きしました。
「松江商工会議所では、主に販路開拓や商品開発などの支援をさせていただいています。『山陰いいものマルシェ』は当時のJR西日本や地域のキーパーソンたちのアイデアで準備が始まりました。我々としても、地域の事業者さんに商品のPRの場をご提供し、経営支援をさせていただきたいと考えていました」
徳島県で開催されている「とくしまマルシェ」など全国各地を視察し、勉強を重ねて、次のように5つの出店条件を決めました。



一、生産者・加工者が山陰を愛していること
一、生産者・加工者の想いが詰まっていること
一、地場産品であること
一、店舗装飾をおしゃれにすること
一、産品・商品で人々を幸せにできること

大事にしたのは、「山陰のいいものを発信する場である」こと。まず2日間のキックオフイベントの出店者を募り、そのイベント後に本格的にスタートしました。





「単なるお祭りではない」とバイヤーを呼び、商談会も行う


全体を統括する事務局の一方で、出店者説明会の実施、申込受付やその後のやりとりなど、マルシェの運営業務は山陰中央新報社が行っています。同社のビジネスプロデュース局地域ソリューション部の山岡はるのさんはこう話します。
「弊社は新聞を発行し、地域のさまざまな方に読んでいただいていますので、地域に根ざした活動で各事業者さんに貢献できたらと思い、『山陰いいものマルシェ』の運営に加わっています。新聞という媒体を使って販路拡大のお手伝いをしたり、各事業者さんのつながりを生み出すことができればと思っています」
山岡さんは、「山陰いいものマルシェ」が愛されているイベントだと実感しているそう。「参加者さんのアンケートで『月に1回開催してほしい』という声があったんです。運営としては年に1回でもけっこう大変なのですが(笑)、とてもうれしい声ですよね。また、事業者さんの出店への情熱も感じていて、良いイベントに関わらせていただいていると感じます」と話します。





実行委員会は、単にマルシェを開催するだけではありません。近畿エリアのバイヤーを毎回6〜20人ほど呼び、スタッフが会場をすべて案内し、さらにマルシェの翌日にはマッチング商談会まで開催しています。地域の事業者への負担を考慮して、小ロットでの買い付けを行うバイヤーを中心に声をかけています。
その結果、例えば山陰フェアの開催を控えていたバイヤーがマルシェに出店されていた商品を採用したケースや、商談会で大手百貨店のお歳暮商品に採用されたケースなど、商談が複数成立しているそうです。商談会の参加者のうち半数以上は、その後もバイヤーと継続して直接商談ややりとりをしています。
「マルシェでバイヤーさんがいらしたとき、接客しながらどのようにPRするか、商品紹介シートをどうつくるか、名刺を渡した後どうすればいいかなどをお伝えする研修会も行っています。そういう研修をすることで、PRの意識付けができればと。単なるお祭りではないんですよね」そう語る松尾さん。「単なるお祭りではない」という一言に、実行委員会のみなさんの“本気度”が凝縮されています。





地域産品が発展して地域が元気であれば、観光にもつながる


実行委員会の一社であるJR西日本山陰支社の山陰地域振興本部の地域プロモーション課で課長代理を務める、植弘華奈江さんにもお話を聞きました。
「弊社では2014年から、物産品や食べものなどの山陰のいいものを再発掘して発信していこうと『山陰いいもの探県隊』という取り組みを始めました。山陰の食、物産品、歴史、文化などに精通している民間人の方を探県隊員として49人を決めさせていただき、活動しています。活動の一つとして、地域の人や地域産品をご紹介する『グッとくる山陰』というウェブメディアを運営しています」
その活動のなかで、「山陰いいものマルシェ」の実行委員会とも連携して発信していくことになったそうです。『グッとくる山陰』で紹介するものは、「山陰いいものマルシェ」の商品から選ぶこともあるといいます。「再発見・再発掘し、弊社の持っているものを使って圏域外や県外に情報を発信することが役割の一つだと考えています」と植弘さん。どうして鉄道会社であるJR西日本がそこまでするのかを尋ねると、次のように答えてくれました。
「地域が元気でないと、鉄道を利用するお客様は減ってしまいます。そういう意味では駅だけでイベントをする必要はありませんし、地域産品が発展して地域が元気であれば、観光にもつながってくると思います。私たちは、そこに貢献できればと考えています」











出店者側も、出店者との交流や来場者との会話などを楽しむ


一方で、「山陰いいものマルシェ」の出店側は何を感じているのでしょう。2015年の第1回から出店・出品経験のある『米田(よねだ)酒造』に話を聞きました。松江市にある、1896年創業の蔵元です。
「2014年に『山陰いいもの探県記』で取材いただいて、JR西日本グループさんとの関係ができ、第1回の開催地が地元の松江市だったことから、出店を決めました。また、JR西日本さんの地域共生の取り組みに共感しましたし、弊社としても地域の食材と共に楽しんでいただける酒造りをしているので、ぴったりのイベントだと思ったんです」
同社の代表取締役社長・米田則雄さんはそう話します。『山陰いいものマルシェ』で米田酒造は、カクテル専用日本酒「MOTOZAKE純米」を使った日本酒カクテルや、それをつくることができるミニセット、日本酒「松江づくし」の小瓶の商品などを販売し、同じ出店者だった『奥出雲薔薇園』の食用薔薇の生花とローズシロップを使った日本酒カクテルも提供しました。
出店者の素材を使ったり、出店者と紹介し合ったりして来場者と会話をし、出店を担当したスタッフは「自社製品のみならず、山陰のいいものを楽しんでいただこう」と思っていたといいます。
「それまで酒類以外の事業者も出店するイベントへの参加機会が少なかった私たちにとって、山陰の生産者さん、事業者さんとの交流をもついい機会となりました。山陰のいいものを広めるきっかけになる、すばらしい場ですね」











官民が共に取り組み、地域経済の活性化を目指す


次回は、2023年9月に米子市で開催予定。米子市経済部商工課で商工振興担当・主任を務める足立翔太さんはこう話します。
「地域の事業者さんが外に向けて発信していく場を提供するのは行政の役割だと思い、市としてしっかり支援していきたいと考えています。行政だけでこういうイベントはなかなかできません。実施したとしても事業者さんが現在のようには集まらないと思います。官民が共に実施する良さが『山陰いいものマルシェ』にはあります。
2017年にも『山陰いいものマルシェ』を米子で開催したのですが、開催地が商店街の一角だったため、その後商店街の活動がとても活発になり、毎月のようにイベントを実施されているんです。良い効果があったのかなと思いますし、次回のマルシェでも地域経済をより活性化したいです」





最後に、植弘さんと松尾さんに今の思いをお聞きしました。
「山陰の各地からさまざまな方が出店しているマルシェですので、山陰の魅力が詰まっています。実行委員会として毎年発信させていただき、山陰を改めて知ることができる貴重な取り組みだと思い、関わらせていただいています」と植弘さん。
松尾さんはこう話します。「自分のところだけが売れればいいといった考えではなく、趣旨を理解し賛同して集まったみんなで山陰を盛り上げていこうとしています。事業者さんがこだわってつくり上げ、自信をもって提供されているいいものがたくさんありますので、当日は来場者やバイヤーの方々にぜひお楽しみいただけたらと思っています」






Information
山陰の選りすぐりの逸品をつくり手から直接お客様に届けるため、開催されている「山陰いいものマルシェ」。情報発信やマッチングなどを通じて、産品の消費拡大、生産振興を目指す地方創生に向けたプロジェクト。 圏域5市の地方版総合戦略に盛り込まれ、先駆的な取り組みとして国の地方創生交付金の事業に採択されました。
これまで山陰いいものマルシェに参加されている、「日南トマト加工」のトマトジュースや、「シーライフ」の「のどぐろ干物セット」などは、J R西日本公式産直オンラインショップ「DISCOVER WEST mall」にてお取り寄せ可能です。

「山陰いいものマルシェ」はこちら
「DISCOVER WEST mall」はこちら



JR西日本山陰支社 山陰地域振興本部地域プロモーション課・大東幸治課長からのメッセージ
「山陰いいもの探県隊」は、JR西日本の「地域共生」の取組みの先駆けとして、2014年から活動を始めました。これからは、「探県」活動の継続にとどまらず、これまで掘り起こしてきた多くの「いいもの」を、山陰の皆さまと連携してさらにその価値を高めることによって、山陰の観光やまちの価値創造と持続可能で豊かな地域づくりに貢献してまいります。

「山陰いいもの探県隊」の詳細はこちら
「グッとくる山陰」のバックナンバーはこちら



魅力的で持続可能な地域づくりを。JR西日本が取り組んでいる、地域との共生とは?
JR西日本グループでは、2010年頃から「地域との共生」を経営ビジョンの一角に掲げ、西日本エリア各地で、地域ブランドの磨き上げ、観光や地域ビジネスでの活性化、その他地域が元気になるプロジェクトに、自治体や地域のみなさんと一緒に日々取り組んでいます。そんな地域とJR西日本の二人三脚での「地域共生」の歩みをクローズアップしていきます。

人々が集まり、安心して使える“拠点(大聖寺駅)”を目指して。 【地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ。[第3回 石川県編]】はこちらから。


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photographs by Kiyoshi Nakamura
text by Yoshino Kokubo

ソトコト

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