史上初「挂甲の武人」5体が揃い踏み、「踊る人々」など令和のはにわブームを牽引する「ゆるカワはにわ」大集合

2024年10月22日(火)6時0分 JBpress

(ライター、構成作家:川岸 徹)

 古墳時代の約350年間に作られた素焼きの造形物「埴輪(はにわ)」。埴輪として初めて国宝に指定された「挂甲(けいこう)の武人」をはじめ、埴輪の名品が一堂に会する特別展「はにわ」が東京国立博物館で開幕した。


50年ぶりの“埴輪オールスターズ”

 素朴で、ユルくて、可愛らしい。3世紀中頃から6世紀終わりまでの約350年間にわたって作られた埴輪は、今や日本史を代表する人気キャラになっている。文化財のキャラ化やアイドル化には批判的な声もあるが、歴史や美術を学ぶ入口になればいいし、“埴輪マーケット”が潤い発掘や研究、保存、修復にお金が回ればありがたい。埴輪のキャラ化はたいへん喜ばしいことだと思う。

 そんな昨今の埴輪ブームのなか、東京国立博物館にて「挂甲(けいこう)の武人」国宝指定50周年を記念した特別展「はにわ」が開幕した。国内外約50か所の所蔵・保管先から作品を集め、東博曰く「空前のスケール」で行われる展覧会。これほど大規模な埴輪展が開催されるのは、同じく東博で1973(昭和48)年に開かれた特別展観「はにわ」展以来。その翌年の1974(昭和49)年に「挂甲の武人」は埴輪として初めて国宝に指定され、同時に国宝指定された「高松塚古墳壁画」とともに日本に古代史ブームを巻き起こした。


時代によってモチーフが変わる

 では、埴輪の歴史を辿りながら、展覧会の見どころを紹介していきたい。埴輪とは「権力者の墳墓に並べられるために作られた素焼きのやきもの」。古墳時代でも前方後円墳が作られていた時期のもので、大きな古墳が姿を消す6世紀終わり頃には作られなくなってしまう。

 埴輪の形は時代によって変わり、3世紀中頃、最初に登場したのが土管のような形をした「円筒埴輪」。古墳を囲むように設置され、外敵を防ぎ聖域を守るバリケードの役割を担ったと考えられている。展覧会に出品されている奈良県・メスリ山古墳から出土した《円筒埴輪》は4世紀の作。日本最大の円筒埴輪で、高さは2.42メートルもある。巨大なスケールに圧倒されるが、器壁の厚さが1.6〜1.8センチしかないことにさらに驚く。4世紀にこれほどの技術力があったとは。

 4世紀には「家形埴輪」も作られ始めた。家の形をしているが、単なるミニチュアではない。王の魂が住まう依代の役割を担っていたと考えられ、墳墓の頂上に置かれることが多かった。大阪府・美園古墳出土の重要文化財《家形埴輪》は2階建ての造り。内部に寝台(ベッド)のような表現があり、邪悪なものが屋内に侵入しないよう外壁には盾の模様が刻まれている。

 5世紀から6世紀は、埴輪の“多様化の時代”。犬、馬、鳥、そして人間と、様々な形をした形象埴輪が作られるようになった。これらの埴輪は単に古墳に並べられるだけでなく、墓で眠る王の物語を伝える役目も果たしたという。動物と人を組み合わせて狩猟の場面を表したり、軍馬と武装した人を合わせて武勇を表現したり。残された人々は埴輪を見て、在りし日の王の姿を思い浮かべたのだろう。


2大スター「踊る人々」「挂甲の武人」

 人の形をした形象埴輪の中で、最も有名なのが《埴輪 踊る人々》だ。近年の埴輪ブームを象徴するアイコン。ネットを検索すれば、フィギュアやぬいぐるみ、キーホルダーなど、多彩な“踊る人々グッズ”が次々に現れる。この《埴輪 踊る人々》、古くからその名が示す通り、王のマツリゴトに際して踊る人々を表した造形だと考えられてきた。ただ近年は、片手を挙げて手綱を引く馬引き人だとする説も。腰にはロープのような物がぶら下がっているが、これは手綱の予備だという。とはいえ、「踊る人々説」も根強く、結論には至っていない。

 そして本展のハイライトである国宝《埴輪 挂甲の武人》。挂甲とは古代日本で用いられた鎧で、この武人が着用しているのは2×5センチ程度の金属板を1000枚ほど組紐で結んだ「小札甲」と呼ばれるタイプ。この挂甲で上半身を覆い、頭には衝角付冑、頬には頬当、顎には錣、肩には肩甲、腕には籠手。そして左手に弓、右手に刀を携えている。まさに完全武装、戦闘意欲満々。勇壮で気高い立ち姿に、なにがあってもわが国を守るという決意が表れているようだ。

 しかも、1体だけではない。国宝《埴輪 挂甲の武人》には同一工房で製作されたと考えられる4体の兄弟のようなよく似た埴輪があり、現在は国内外の博物館・美術館に別々に所蔵されている。群馬の相川考古館、千葉の国立歴史民俗博物館、奈良の天理大学附属天理参考館、そしてアメリカ・シアトルのシアトル美術館。本展では国宝《埴輪 挂甲の武人》とこの4兄弟が東博に集まり、計5体が史上初めて同時に公開される。

 挂甲の武人5体が並ぶ様子はまさに壮観。姿かたちがよく似ているうえ、サイズもほぼ同一。ただよくよく見比べると違いもある。例えば、東博の武人は靫(ゆぎ)といわれる矢入れ具を背負っているが、シアトルの武人はそれよりも新しい胡籙(ころく)という腰に付けるタイプの矢入れ具を携帯している。それぞれの埴輪はガラスケースに収められ、ぐるりと一周、美しいプロポーションと造形美を堪能することが可能。時間の許す限り、じっくりと鑑賞したい。


埴輪ブーム、拡大の予感

「踊る人々」「挂甲の武人」のほかにも、気になる埴輪がいっぱい。その表現力の豊かさに、「古墳時代の埴輪作家は才能とセンスがすごい」と驚かされるばかりだ。幼子に母乳を与える《埴輪 乳飲み児を抱く女子》の慈愛に満ちた表情、農作業に勤しむ《埴輪 鍬を担ぐ男子》の満面の笑顔。国宝《埴輪 あぐらの男子》は凛々しい顔つきと気品あるポージングに、この人物が王であると推察できる。作品に付けられたキャプションを読むとその通りだった。

 見れば見るほど、おもしろい。本展を機に、令和の埴輪ブームはさらに拡大することになるだろう。

挂甲の武人 国宝指定50周年記念特別展「はにわ」
会期:開催中〜2024年12月8日(日)
会場:東京国立博物館 平成館
開館時間:9:30〜17:00(毎週金・土、11月3日は〜20:00)※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし11月4日は開館、11月5日は本展のみ開館)
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

https://haniwa820.exhibit.jp/

筆者:川岸 徹

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