3000m障害・三浦龍司が語る“勝負の瞬間”、東京五輪よりもメダルに近づけるチャンスがあったパリ五輪の激闘と挑戦

2024年11月21日(木)6時0分 JBpress

(スポーツライター:酒井 政人)


東京五輪からの成長とメダルへの距離

 今夏に行われたパリ五輪。男子3000m障害に出場した三浦龍司(SUBARU)がまたしても快挙を成し遂げる。

 決勝は前半を集団後方でレースを進めると、13番手で残り1周を迎えた。ここから集団が一気にペースアップする。そして世界記録保持者のラメチャ・ギルマ(エチオピア)が障害物に脚を引っかけて激しく転倒。三浦も水濠の着地でバランスを崩したが、何とか踏みとどまる。壮絶なスパート合戦で8位入賞(8分11秒72)を確保して、ゴールに駆け込んだ。

「決勝はサンショーの面白いところ、醍醐味、難しいところが全面的に表れたレースだと思います。楽しかったな、充実していたな、という思いがすごく強かったです」

 3000m障害は中長距離レースのなかで異色の種目だ。走りながら高さ約91cmの障害物をトータル35回(障害物28回、水濠7回)クリアしていくが、障害物はハードルと異なり踏み倒すことはできない。危険と隣合わせのなかで、スピード勝負を演じる必要があるのだ。

「怖さもあるので、常に障害物との距離感を意識しているんですけど、集団のなかで走っていると視線から(障害物が)消えてしまう場面もあります。決勝では振り落としのあるレースをするからこそ難しさが一層高まる。ラスト1000mの駆け引きはサンショーの味が出ていた場面だったなと思います」

 三浦は東京五輪で7位に食い込んでおり、オリンピックは二大会連続の入賞となる。同じ入賞でも三浦のなかでの“価値”は異なるようだ。

「東京五輪は勢い任せで走っていた部分もあると思います。決勝で戦うというより、腕試しみたいな感じでした。予選でポンと記録(8分09秒92)が出て、決勝はワクワクというか楽しかった印象が強かったんです。でもパリではメダルを目指して、勝負しにいきました」

 順位とはしては1つ下げたかたちになるが、東京五輪よりもメダルに近づけるチャンスがあったと分析している。

「2000m以降は集団後方ではなく、集団の真ん中にいたかった。そうすればアクションが起きた瞬間に反応できますし、自分のタイミングで仕掛けにいく環境も作れたんじゃないかなと思います。逆に言うと、僕がしたかったレースを2位に入った米国人選手がやったんです。後悔はあまり感じなかったんですけど、ラスト1000mからの駆け引き、状況判断でどれだけレースが変わったんだろう、と考えることはありますね」

 銀メダルを獲得したK.ルークス(米国)は大会前の自己ベストが8分15秒08だった選手(三浦は8分09秒91)。五輪決勝の舞台で思い切った走りを見せて、タイムも8分06秒41まで一気に短縮した。

 だからこそ三浦は、「実力だけじゃなく、レースを読む力や思い切りの良さで変わってくると思いますし、障害のアクシデントもサンショーではよくあること。トータルが実力なので、いろんな意味でメダルの可能性はあるのかな」と感じている。


単独練習で“ラスト”を磨いてきた

 3月に順大を卒業して、社会人になった三浦。実業団に進む選手は新たな所属先で練習するのが一般的だが、別の方法を選択した。環境面が変わることでのリスクを考えて、五輪イヤーとなった今季は母校を練習拠点にパリでの戦いを見つめてきたのだ。

「トラック練習は順大グラウンドを継続して利用させていただいていますし、ジョグは自宅周辺に公園もあるので、そういったところを使いながらやっています。ポイント練習は順大・長門俊介駅伝監督が引き続き考えてくださったので、それ以外の練習は自分で調整をしながらやってきました」

 驚かされたのが、三浦は日々の練習を基本、単独でやってきたことだ。ジョグだけでなく、ハイレベルのポイント練習もひとりで追い込んできた。

「誰かがいれば勝負勘が高まるような練習もできますし、同じ強度の練習でもちょっと楽な気持ちでこなせます。そういった人がいてくれればうれしいなと思いつつ、今季はひとりでもある程度やり切れたかなと思います」

 なかでも重点的に強化してきたのが“ラストスパート”だ。ポイント練習後に障害物を設置したトラックで400mや600mをほぼ全力で走るというメニューを取り入れてきた。

「ハードリングを意識したスパート練習です。乳酸が溜まってきて、脚だけでなく、上半身もパンパンで動きが制限されるようななかでやってきました。かなりきついです(笑)」

 様々なパターンをシミュレーションしながら、三浦は過酷なスパート練習を自分に課してきた。だからこそ、パリ五輪でのラスト勝負に“もどかしさ”を感じているだけでなく、世界大会のメダルに近づいている感覚があるのだ。


シューズの進化に合わせていきたい

 東京五輪とパリ五輪では三浦は別のスパイクを着用している。最初の五輪は前足部にエアが搭載されている『ビクトリー』というモデルだ。しかし、数年前から長距離用スパイクの『ドラゴンフライ』に履き替えている。

「ビクトリーはストライドが大きくなって、腰高になるイメージがあるんでけど、脚へのダメージが大きいと感じていたんです。連戦(世界大会は予選・決勝がある)を考慮してドラゴンフラインに切り替えてみると、自分の足にもフィットしてきたので、いまはドラゴンフライを履いています」

 三浦は自分の状態を考えながらスパイクを選んでいるようだ。それは普段のトレーニングや駅伝でも変わらない。一方でシューズの進化に対応していくことも大切にしている。

「ロングランはダメージを少なくするために厚めのモデルを履きますが、逆に不整地のクロカンは薄底で足の感覚が行き届くような『ペガサス 41』や『ペガサス プラス』を着用しています。駅伝はこれまで『ヴェイパーフライ 2』を履いてきたんですけど、新しいモデル(『ヴェイパーフライ 3』や『アルファフライ 3』)も出ています。シューズの進歩に合わせていけるように、うまく調整して、使いこなしていきたいと思っています」

 3000m障害は来年春まで出場する予定はなく、今冬は5000mで記録を狙うプランを持っている。エントリーしていた八王子ロングディスタンス(11月23日)の5000mは「実施中止」となったが、三浦は「3000m障害につなげるためにも日本記録(13分08秒40)近くを出したい」と考えている。

 それから来年の元日にはニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)がある。4年連続で出場した箱根駅伝は3000m障害に直接的につながるような距離ではなかったが、ニューイヤー駅伝は1区(12.3km)のようなスピード区間もある。三浦の持ち味を生かせる駅伝といえるだろう。

 SUBARUは前回14位ながら、2022年は2位、2023年は7位に入っているチーム。群馬県太田市が拠点で、オリンピアンの“地元デビュー”は大注目となるだろう。

 そして来年9月に開催される東京世界陸上で三浦は「メダル」という大きな目標を目指していく。

「タイムでいえば8分05秒はいけるかなと思いますし、メダルを目指すためには必要な最低ラインだと思っています。パリ五輪のように粘り強くついていき、プラスして集団から抜け出して、メダル獲得に現実味があるレースをしたい。ひとりの選手として会場の雰囲気をガラッと変えられるようなインパクトを与えられる選手になりたいと思います」

 6万人の大観衆で埋まった国立競技場。日本のRyuji Miuraが晩夏の夜に熱狂をもたらしてくれるだろう。

筆者:酒井 政人

JBpress

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