人間の「生物学的時間」を遅くする “人類クマムシ化”延命法とは(DARPA)

2023年11月23日(木)14時0分 tocana

 怪我をしてから治療を受けるまでの時間は、負傷者の生死やその後の回復に大きく影響する。この時間を延長させる研究プロジェクトがアメリカで開始されるという。今月6日付で英「Daily Mail」が報じている。



■生物学的時間を遅くする


 重傷を負った後、最初の一時間は“ゴールデンアワー”と呼ばれる。負傷者の救命率はこのゴールデンアワーの間に適切な医療機関へと送れるかどうかにかかっている。だが、特に戦場において、負傷者にできるだけ早く適切な医療処置を施すのは難しい。医療スタッフや設備、薬の準備には限りがある。


 そこでアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)は、負傷者の“生物学的時間”を遅くすることを目的に、新たなプロジェクトを開始した。負傷者の時間を止めて、ゴールデンアワーを延長させようというのである。


 バイオスタシスプログラムと呼ばれるこの新プロジェクトは、生物の体内で起きている生化学的なプロセスに焦点を当てている。分子レベルでは、生命は一連の生化学反応である。負傷者の体内で起きている生化学的反応を停止、あるいは遅らせ、システムの崩壊(要するに死)までにかかる時間を延長しようというのである。


 


■神秘の生物クマムシ


 細胞の機能を停止させるというアイデアはそれほど突飛なものではない。生物の中にはすでにその仕組みを持っている種も存在する。そのような生物として有名なのはクマムシだろう。クマムシは活動を停止して乾眠という状態になると、極度の高温に低温はもちろん、長期の渇水、大量の放射能、さらには真空状態にも耐えられるという。


 この状態はクリプトビオシスとも呼ばれ、体内の生化学的なプロセスは停止しているが、決して死んでいるわけではない。乾眠したクマムシに水を与えると、何事もなかったかのように復活するのである。


 当然だが、人間はクマムシのようなシステムを持たない。人間を冷凍保存しようという試みも存在するが、今の技術では人体の細胞や組織を損傷なく凍らせることも、無事に解凍させることもできないのだ。


 DARPAは分子レベルから研究を始め、まずは細胞レベルでの代謝プロセスを停止・遅延させる方法を模索していくという。そしていずれは組織や体全体へとスケールアップしていきたいと考えているようだ。非常に壮大なコンセプトであり、予算を取るための大ボラにも思えなくもないが、もし成功したならばその恩恵は計り知れない。戦場のみならず、多くの人がこの技術によって命を救われることはもちろん、食品や生物学的薬品などの貯蔵期間の延長にも応用は可能だ。


 また、この研究の成功はコールドスリープや寿命の延長といった技術にも寄与するだろう。遠い未来まで眠りについたり、遥か遠い宇宙の彼方へと生きたまま旅したりすることも可能となるだろう。まさに胸躍る未来の技術である。科学を飛躍的に発展させるのは、いつだって大ボラなのだ。


(編集部)


参考:「Daily Mail」「Live Science」ほか


 

tocana

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