「SL大樹」鉄道事業社の一致団結で実現、6年目で乗車人数50万人突破した人気の蒸気機関車で冬の日光を堪能

2024年12月25日(水)8時0分 JBpress

文・写真=山﨑友也 取材協力=春燈社(小西眞由美)


転車台の遺構発見がSL復活のきっかけに

 煙をモクモクと吐いて力強く走る蒸気機関車、通称SLは、現在では観光用として復活し全国各地で活躍している。関東地方がもっとも多くのSLが走っており、JR東日本のほか第三セクターの真岡鐵道や、私鉄の秩父鉄道と東武鉄道でその勇姿をみることができる。なかでも東武鉄道では「SL大樹」がほぼ毎日運行しているため利用もしやすく、運行6年目で乗車人数が50万人を突破するなど、人気も上昇中である。

 そもそも東武鉄道にSLが復活したのは2017年8月のこと。東武鉄道は私鉄ではめずらしく自社の鉄道博物館を有するなど、鉄道文化遺産の保存と活用の意識は高かった。そんななか東武鬼怒川線の下今市駅構内で、SLの方向を転換する転車台の遺構が発見されたことが一つのきっかけとなり、2015年にSL復活のプロジェクトが立ち上がった。

 目的としては先の保存活用のほか、日光・鬼怒川エリアの地域活性化、そして東北復興支援という三つが掲げられた。しかし東武鉄道がSLの運転を終了したのは1966年で、車両はもちろんのこと運行や保守などのノウハウなど残っているはずはなかったのである。

 しかしこの趣旨に賛同した鉄道各社が東武鉄道に支援し協力を惜しまなかった。まずは機関車そのものがなければSL列車を運行することができないので、JR北海道が所有していたC11形蒸機の207号を東武鉄道に貸し出した。余談だがこの207号は前照灯が機関車前面の左右に2つ付いており、その見た目が蟹の目にも見えることから、ファンのあいだでは「カニ目」として親しまれている。

 また走行に必要な保安システムを搭載するために鳥取県の米子市と愛知県の稲沢市にあった車掌車をJR西日本とJR貨物が、列車を後ろから後押しするディーゼル機関車を栃木県宇都宮市と秋田県秋田市にあったDE10をJR東日本が、そして乗客を乗せるための客車は香川県の高松市にあった12系と14系をJR四国がそれぞれ東武鉄道に譲渡したのである。これらの協力でとりあえず車両は揃った。

 そしてSLの向きを変えるための転車台も、JR西日本の山口県長門市駅と広島県三次駅で使われていたものを下今市駅と鬼怒川温泉駅に設置し、とりあえず設備は整った。


垣根を超えて鉄道各社が協力

 だがSLを継続的に運行するためには、まだまだ越えなくてはいけないハードルがたくさんある。その最たるものが、実際にSLを動かす乗務員や点検、修理等をおこなう研修員の育成である。これに協力したのがすでにSLを運行しているJR北海道や秩父鉄道、大井川鐵道、真岡鐵道である。これら各社が持つ知識や経験を活かし、東武鉄道の職員に技術や技能などを教育し、SLの乗務員と研修員を養成したのである。さらにDL関連に至っては、真岡鐵道と会津鉄道も協力している。

 このように会社の垣根を越えて各社が東武鉄道に協力や支援をいとわなかったからこそ、「SL大樹」の運行を実現することができたのである。一つの列車の運行に関し、これほどまで多くの鉄道事業社が一致団結した事例があっただろうか。まるでドラマや映画のようななんという鉄道愛なのだろうかと、感動すら覚えてしまう。

 その後東武鉄道では真岡鐵道からC11 325号機を譲り受け、日本鉄道保存協会で保存されていたC11を123号として復活させて現在の3両体制とし、日光線を「SLふたら」としても運行するなど、ますますSLの活躍の場が広がっている。

 このような東武鉄道の努力に対し、沿線自治体や地元住民の期待も熱い。いざ「SL大樹」や「SLふたら」に乗ってみると、家の軒先から、会社の窓から、作業中の田畑から、あらゆる場所からあらゆる人たちが列車に向かって手を振ってくれているではないか。そんな光景を目の当たりにすると、SLがどれほど地域に根差し人々に愛されているのかを感じずにはいられない。

 さて、この「SL大樹」を冬に撮影するのに絶好のポイントが、日光市倉ヶ崎にある通称「倉ヶ崎SL花畑」だ。地域の住民組織によって春から秋にかけてはさまざまな花で彩られるほか、冬の時期には約21万球のイルミネーションが設置され、光の花畑が演出されるのである。「SL大樹」のHPをみて、日没後に走る8号が運転される日に是非でかけてみよう。きっと夢のような世界を走る幻想的なSLの写真が撮れるはずだ。

筆者:山﨑 友也

JBpress

「蒸気」をもっと詳しく

「蒸気」のニュース

「蒸気」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ