臆病なネズミほど問題解決能力に優れていることが判明、その理由は粘り強さにあった
2025年5月2日(金)8時0分 カラパイア
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「大胆な性格の方が次々と新しいことに挑戦するので問題を解決しやすい」そんなイメージを持っている人は多いだろう。
だが実際には臆病で内向的な性格の方が、問題解決能力が高いことが、ドイツのマックス・プランク進化生物学研究所のハツカネズミの実験により明らかとなった。
臆病なネズミは粘り強く同じことに何度も挑戦するので、結果的に問題解決に成功する確率が高いという。
この研究は、性格の違いだけでなく、動物が置かれた「環境」によっても行動が大きく変わることを明らかにしている
臆病なマウスと大胆なマウスの行動を比較
マックス・プランク進化生物学研究所のアレクサンドロス・ヴェジラキス氏らの研究チームは、「性格の違いが問題解決にどう関係するのか」を調べるため、100匹の野生のハツカネズミを対象に、性格(臆病・大胆)に応じて分類したうえで、それぞれが問題解決課題にどう取り組むかを観察した。
実験では、エサを取るためにネズミがさまざまな仕掛けを解決する必要がある2つの環境を用意した。環境による影響も探るためだ。
ひとつは、外部からの刺激が少ない静かで落ち着いた「実験室」内の制御された環境。もうひとつは、他の個体と同じ空間で暮らす、野外に近い構造の「半自然環境」である。
実験の様子 https://doi.org/10.1111/oik.10787[https://doi.org/10.1111/oik.10787]
臆病なネズミのほうが粘り強く問題解決する
結果は意外なものだった。多くの人が「大胆なネズミの方が成功しそう」と考えるかもしれないが、実際に最も多く成功したのは、内気で臆病なネズミたちだったのだ。
この研究で注目されたのは、「一度で成功するかどうか」ではなく、「あきらめずに何度も挑戦する姿勢」だった。
臆病なネズミたちは、一度失敗しても繰り返し問題に挑戦し、そのたびに工夫をこらした。結果として、粘り強さが新しい解決策につながったという。
研究チームは「イノベーション(革新)は、大胆さではなく、何度も挑戦し続ける姿勢から生まれる」と結論づけている。
つまり、「成功するのは一部の特別な性格の持ち主」ではなく、「諦めずに続けることができるかどうか」が鍵になるというわけだ。
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環境の違いにより行動に変化も
さらにこの研究では、ネズミたちが置かれる「環境」によって行動が大きく変わることも確認された。
静かな実験室環境では、約60%のマウスが少なくとも1つの課題を解決したが、半自然環境では、成功率は約21%にとどまった。
これは、現実の自然環境がどれほど複雑で予測しにくいものであるかを示している。
研究の共著者、アンヤ・ギュンター博士は「動物の行動は、静かな実験室ではなく、現実の環境でこそ本当の姿が見えてくる」と語る。
自然界ではストレスや危険、他の動物との関わりなど、多くの要因が同時に存在しているからだ。
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諦めない気持ち、やり続ける行動力が未来を変える
研究チームは、問題を解決するために必要なのは「能力」だけでなく、「諦めずにやり続ける行動力」だと説明している。
臆病なネズミたちは、試行錯誤を繰り返しながら粘り強くやり続けたために、成功にたどりついたのだ。
また、同じネズミでも場所が変われば行動も変わった。
つまり、性格は一つの要素にすぎず、周りの環境や状況が大きく影響していることがわかる。
これは、動物だけでなく人間にも当てはまる重要なポイントだと研究チームは語る。
この研究は『Oikos[https://nsojournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/oik.10787]』誌(2025年)に掲載された。
References: Effects of behavioural types on the problem-solving performance of wild house mice under controlled and semi-natural conditions[https://nsojournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/oik.10787] / Shy mice surprise scientists by solving problems faster than fearless ones[https://interestingengineering.com/science/shy-mice-are-better-problem-solvers]