「フランス人は10着しか服を持たない」は本当か。美意識だけではない、“住宅事情”による意外な本音

2025年3月8日(土)21時25分 All About

シンプルなライフスタイルが注目されるフランス人。しかし、彼らは本当に服を買わず、必要最低限のもので暮らしているのでしょうか。フランス在住の筆者がその実態を紹介します!

2014年に発行され、ベストセラーとなった書籍『フランス人は10着しか服を持たない』(大和書房)。印象的なタイトルに、「これは本当なの?」と驚かれた人も多いと思います。
この書籍では、とあるフレンチマダムの「お金をかけない丁寧な暮らし」が紹介されており、筆者も渡仏前は「本当にフランス人はこんなにシンプルな生活を送っているのだろうか?」と気にしていました。
フランスに移り住んで7年がたった現在は、フランス人の価値観やファッションに対する現実的な考え方を目の当たりにする毎日。その中には書籍と一致する部分もあれば、日本と共通する価値観、そして全く異なる点が存在しています。

フランス人は流行を気にしない

まず大前提として、フランス人も日本人と同じように服を購入します。季節の変わり目や、結婚式など特別な機会に必要だからと買う人もいれば、「何となく欲しい」「すてきな服を見つけた」といった理由で買う人も。「持っている服が10枚だけ」というフランス人は、実際には珍しいでしょう。
日本人と少し違うのは、「ファッションの流行」を気にする人が少ないこと。パリコレ、モードの街、といったイメージが先行するパリですが、一部ファッション業界の人を除いては、皆が自分の着たい服を「人目も気にせず」自由に着ている印象です。
これにはやはり、フランス人の国民性が関係しているのでしょう。フランスはもともと、「私は私」「ほかの人にどう見られようと関係ない」といった個人主義が根付く国。フランス人とファッションの話をしていても、服に「年相応」や「体型カバー」を求めていないと感じます。
よって、ある程度のTPOはあっても、流行を追いかけることがありません。自分らしさと動きやすさを常に求めているせいか、ファッションについては「意外と無頓着だな」と感じることもしばしば……! 実際に、日本を訪れたフランス人からは「日本の女性がすごくおしゃれだった」という声を何度か聞きました。

服をストックできない住宅事情

「服を10着しか持たない」というフランス人はレアでも、「少なくせざるを得ない」住宅事情がフランスにはあります。
フランスに来て驚いたことの1つは、クローゼット備え付けの家やアパルトマンがものすごく少ないこと。ウォークインクローゼット、シューズクローゼットが備わっている家はかなり珍しい(あるいは高級住宅)と言えるでしょう。
地震が少ないフランスでは、築50年以上の物件が当たり前のようにあります。50年もたてば人々のライフスタイルが変わるのも当然ですね。昔はきっと、今ほど服を持たなかったのでしょう。このような事情から、クローゼットは各自「後付け」として購入するしかないのです。クローゼットの設置方法はさまざま。大型クローゼットの設置が難しい場合は、寝室の空いたスペースをクローゼット代わりに活用することが多く、特に住宅の狭いパリではよく見られる光景になっています。その際の仕切りはカーテンのみ。筆者の周りのフランス人も、そこに洋服やバッグをパンパンに詰め込んでいました!
このように、服をたくさん買ってしまえばまた1つ、また1つとクローゼットを購入しなければなりません。本来ミニマリストではないけれど、服を売ったり譲ったりして“結果的にミニマリストになっている”フランス人は多いのではないでしょうか。

セール、古着、フリマサイトが大好き

では、フランスの人々はどこで服を新調しているのでしょうか。
パリの街を歩くと、「ユニクロ」や「ZARA」には常に多くの人が訪れている印象を受けます。手頃な価格の洋服はフランスでも人気が高く、セールの時期ともなれば、デパートやブティックはさらに多くの人でにぎわいます。特に6月から7月にかけての夏のセールでは、バカンス用の服を求める女性たちがこぞって買い物に訪れています。
一方で、オンラインショッピングの需要は高まるばかり。中でも近年のフランスで主流になっているのが、「ヴィンテッド(Vinted)」と呼ばれるフリーマーケットサイトです。日本の「メルカリ」に近いヴィンテッドは、「不要な服を手放したい人」と「お得に購入したい人」のニーズが一致しているため、非常に多くのフランス人が利用しています。
その裏で、苦境に立たされている実店舗が多いことも事実。ただしパリの古着店だけは例外で、若い世代の「エコ意識」「リユース志向」の高まりとともに、数多くの古着店が新規オープンを果たしています。

エシカルな暮らしを好む人は多い

服は欲しいけれど、クローゼットが小さくストック場所に困ってしまう……これが、一般的なフランス人の洋服事情です。
とはいえ、彼らの多くは「無慈悲に服を捨てること」を嫌っています。フランスはヨーロッパの中でも、リサイクルシステムや古着回収サービスが特に充実している国。エシカル(倫理的)な暮らしは、同様のサービスを活用するうちに自然と身に付くのでしょう。
フランス人が「シンプルで丁寧なライフスタイル」を送っているように見えるのは、こうした事情が関係しているのかもしれませんね。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。
(文:大内 聖子)

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