富士山噴火に備えた「シェルター」から「ドローン」「津波レーダー」まで、防災最新技術の今! #あれから私は

2021年3月9日(火)5時0分 ウェザーニュース

2021/03/09 05:02 ウェザーニュース

東日本大震災から10年。その間も熊本地震の発生やたび重なる豪雨など、日本列島は多くの自然災害に見舞われてきました。一方、行政機関や民間企業の間で新たな防災技術の進歩や意識の高まりが目立つようになっています。
災害時の防災機器として注目されている「シェルター」「ドローン」「レーダー」について、最新技術と活用法はどのような状況になっているのかまとめました。

ふだんは部屋として使える「防災シェルター」

「シェルター&アドベンチャー・マシン」のそれぞれ頭文字から名付けられた「SAM」。価格は150万円(税込み・運賃別)

建築・不動産会社の小野田産業(静岡県静岡市)は、御嶽山(長野・岐阜県)の噴火をきっかけに防災シェルター「SAM」の開発に取りかかりました。拠点が静岡ということもあって、南海トラフ(東海)地震や富士山の噴火を強く意識したといいます。
「『SAM』は地震による一次被害、津波や余震、火山灰などを二次被害という発想で開発されました。まず素材を軽くすること。災害現場に運ぶためのエネルギー効率を考えると、ヘリコプターでも吊り下げられる程度のサイズ、重量がベストです。そこで素材には難燃性の発泡スチロールを採用しました。
ペンタゴン(アメリカ国防総省)の建物の外壁にも使われているポリウレアという耐爆性に優れたコーティング材を表面に吹き付けることで、驚異的な強度を有し更に紫外線にも影響されず20年以上は劣化しない耐候性を誇ります。
火山灰が積もらず落ちるためにはドーム形状、サイズについては、居住性とトラックなどへの積載性の両立から、外寸2.24mがベストと判断しました。本体が軽くなったことで、『SAM』は津波への対応も可能なのではないかと、発想を膨らませていったのです」(小野田産業)

「SAM」の天井には採光用のカバーがありますが、転倒したときの脱出穴を兼ねているそうです。また、室内の各所に開いている数センチ幅の穴は通気孔で、万一浸水した場合には、外に排水できるドレンの役目を果たします。製品として世に出されたのは、2017年のことでした。
「『SAM』の床の厚みは30cmです。津波の来襲時、6人が乗り込んだ場合15〜20cmしか沈まないため、中に逃げ込めば、波にのみ込まれることがないと確信しております。
さらに避難という極限状態の中で、人が居住する上で必要となるエネルギーを無駄なく使うことを考慮しました。静岡市の場合、南海トラフ地震が起きたら2分で津波が到達すると予測されています。それに対応するには、身近に安全な場所を確保するしかありません。そのため、『SAM』は自宅の敷地内で“日常使い”ができればと考えたのです。
子ども部屋、オーディオルーム、書斎でもいい。そしていざという時、一時的な避難場所として活用してもらえればと思います」(小野田産業)

室内では大人が6人でもゆとりをもって座れる

発泡スチロールは、住宅の断熱材としても使われている素材で、さらに加工が容易であるため特別仕様の対応もしています。これまでにお客様の要望で車椅子でもデスクワークができるようにしたこともあるそうです。
コーティング剤のポリウレアは耐衝撃性だけでなく、耐候性にも優れているので、室内を快適な環境に保つことができる上、ポータブル電源を室内に配置すればエアコンなどの設置も可能になるといいます。防災と日常が両立した多目的な空間として、活用できそうです。

熊本地震でも活躍した「ドローン」は企業のBCP対策にも

防災科学技術研究所によるドローンの飛行実験(写真/時事)

災害時の有効なツールとしても利用が検討・実践もされるようになってきたドローン。災害時の活用方法や実例などについて、リスクマネジメントのプロであるニュートン・コンサルティング(東京都千代田区)のコンサルタント・清水洪軌さんに解説してもらいました。
「ドローンの特性は、操縦の簡単さと安定した飛行性能です。4枚以上の羽根を持つことで、水平状態を保ちやすく、空中で同じ場所に留まり続けられるホバリングが、容易にできます。また、GPS機能を備えることができるので、指定場所への移動や停止、発進場所への帰還なども自動的かつ安全に行うことが可能です」(清水さん)
車両や人の移動が難しい場所での撮影が可能になる上、無人機の特性を活かし危険と思われる空間に入っていくこともできるドローン。この特性が、被害状況の確認や危険個所での行方不明者の探索などで、大きな役割を発揮しているのです。
「2016年の『熊本地震』では現地の被害状況や断層の確認のため、ドローンの空撮機能が使われました」(清水さん)
今ほど普及していなかった当時でも、NTT西日本による通信線の被災状況の把握、国土地理院による崩落した阿蘇大橋周辺の土砂崩れの状況や大きな被害を受けた益城町の断層の撮影にドローンが活用されていました。
「国土地理院は、2014年からドローンの適切な運用体制の検討を始めました。鬼怒川決壊などの被害を出した『関東・東北豪雨』(2015年)でもドローンを活用して災害調査を行っています。
その後、2016年3月に『ランドバード』と呼ばれる専門チームを発足。熊本地震以降も『鳥取県中部地震』(2016年)や『九州北部豪雨』(2017年)などで、被災地域のドローン撮影を行い、調査結果は関係機関に速やかに提供されるとともに、Webなどでも一般公開され、災害状況の把握などの有効性が話題になりました」(清水さん)

国土地理院は災害時などに対応するドローン専門チームを2016年に発足している

また、企業が自然災害、大火災などの緊急事態に遭遇した場合のBCP(事業継続計画)にもドローンが役立っているといいます。
「たとえば、日本GLPは、楽天AirMapと連携し、2019年10月から施設点検、災害時の状況確認などでBCP対応を目的としたドローンの導入・運用を開始しています。赤外線カメラを搭載したドローンを導入し、サーモグラフィー撮影による設備の劣化や異常個所の早期発見、点検時間の削減や作業員の負担軽減、施設管理業務などの効率化を図っています。
また、AIG損害保険は、大規模水害が発生した際に、浸水被害が集中している地域をドローンで空撮し、契約物件の浸水状況を把握する仕組みを導入しています。2019年の『令和元年台風19号』でも、この方法を活用することで、迅速に業務を遂行した事例があります」(清水さん)
救助活動や現場状況の調査だけでなく、企業のBCPでも大きな役割を担うドローン。今後も技術革新が進めば、孤立した被災者への医薬品や食料の輸送など、さらなる活用範囲の拡大が期待されます。

沖合の海面を監視する「津波レーダー」を展開

沖合の津波を常時監視する津波レーダー

ウェザーニューズ(千葉県幕張市)は、2011年の東日本大震災以降、太平洋沿岸の各地に津波レーダーを設置してきました。
「東日本大震災発生の際、福島県相馬沖約5kmを航行していた海上保安庁の巡視船『まつしま』の船舶衝突防止用レーダーが、ライン上に伸びる津波の姿を捉えていました。この事例をきっかけに船舶衝突防止用レーダーを応用して、レーダーで津波を捕捉する研究を始めました。
沿岸に設置した津波レーダーで沖合の波を2秒ごとに監視し、押し寄せてくる津波を検知する仕組みです。強風でできる大波と区別する必要があり、改良を重ねた結果、沖合30kmの津波を捉えることが可能になりました。
津波のスピードは海底の地形や水深で変化しますが、沿岸に到着する最大15分前に捕捉することができます」(ウェザーニューズ)

押し寄せてくる津波から反射する電波を捉える

現在は全国10か所以上に設置され、地震発生時に起動して監視体制を強化しています。
「津波が発生した場合、当社が提供するスマートフォン用アプリ『地震津波の会』に津波の情報が提供されます。レーダーが捉えた津波の画像や沿岸までの距離がリアルタイムで分かるので、迅速な避難行動につなげることができます。
さらに、TSUNAMIレーダーが捉えた津波観測情報を港湾での作業、海上工事などを行う事業者を対象に『TSUNAMI Radarcast』の運用も開始。津波が発生すれば、いち早く伝達し、職員の避難行動、誘導の促進など、津波被害の軽減に役立つシステムとなっています」(ウェザーニューズ)
津波の襲来を迅速に予測する高度な災害情報による人命被害の減少を期待し、今後は国内のみならず、津波のリスクがある世界各国の沿岸への展開も計画しています。
大規模自然災害の発生時、国や自治体による救難活動や被災者対応が必ずしも万全とはいえません。日ごろから防災に関わる最新技術や情報の感度を上げ、危機管理意識を高めておきたいものです。

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