「電車事故のご遺体は、バラバラになった身体に小石が混ざっていた」“顔だけ”の遺体を火葬したことも…元火葬場職員が明かす、損傷が激しい遺体を火葬する難しさ

2025年3月11日(火)7時10分 文春オンライン

 1万人のご遺体を見送った経験のある元火葬場職員・下駄華緒さん。各種メディアで火葬場の実態を発信し続けている彼が、火葬場の裏側や仕事の実情を描いたコミックエッセイ『 最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常 』(竹書房)の第4巻を上梓した。


 火葬場にはどんなご遺体が運ばれ、どのように火葬しているのか。火葬場職員は、ご遺体やご遺族とどのように向き合っているのか。下駄さんに話を聞いた。(全2回の1回目/ 2回目 に続く)



下駄華緒さん ©細田忠/文藝春秋


◆◆◆


バラバラになったご遺体に、小石が混ざっていた理由


——本作では、電車事故で亡くなったご遺体など、事故・事件のご遺体の火葬エピソードが多い印象を受けました。


下駄華緒さん(以下、下駄) 電車事故のご遺体は、「轢死体」というやつですね。僕が実際に担当したご遺体は、身体はバラバラになっていて、ところどころ小石が混ざっていました。


——小石?


下駄 はい。断定はできないのですが、線路上にあったご遺体を拾い集めるときに、近くにあったものなのかな、と。


「小石が混ざったまま火葬場まで運ぶなんて……」と、不謹慎に思う方もいるかもしれません。でも、鉄道の職員さんはバラバラになったご遺体をできるだけ取りこぼさないよう、小石も一緒に拾ったんだろうなって僕は思うんです。


 火葬場職員が事故に関わった鉄道職員さんと直接話す機会はないので、実際のところはわかりませんが。


身体がバラバラになっていると、うまく火が当たらない


——電車事故以外にも、事故によるご遺体を火葬したことはありますか?


下駄 もちろんあります。日本全国で事故があるから、火葬場でそこそこの年月働いていたら、いつかはぶち当たることですね。


——事故や事件によるご遺体は、通常のご遺体との違いはあるのでしょうか。


下駄 死因にもよりますが、轢死体のように身体がバラバラになっていたりすると、火葬が難しいことが多いです。


——どうしてバラバラになっていたら、火葬が難しいのでしょうか。


下駄 例えば、頭や顔は骨に覆われていますよね。骨に覆われていると、内臓まで火葬するのには時間がかかります。通常の火葬では、目や鼻などの穴から火を当てることで、火葬時間をできるだけ短縮するんです。


 ただ身体がバラバラになっていると、うまく火が当たらないことが多くて。そういう時は火葬専用の“棒”を使って向きを変えたりして、普段よりも注意しながら焼かないといけません。


「魚や微生物に身体を食べられてしまった」水死して白骨化したご遺体を火葬することも…


——他の事故の場合も難しい点はありますか?


下駄 水死や焼死も難しいです。例えば水死の場合、長時間水中にあった状態で肉がふやけてしまうと、骨にも水が染み込んでしまいます。そうなってしまうと、火を当てても骨がなかなか焼けないんですよ。特に魚や微生物に身体を食べられてしまって、ほとんど白骨化した状態のご遺体は、火葬終了までにかなりの時間がかかります。


——すでに骨になったご遺体も、火葬するのですね。


下駄 はい。「骨だけになったら、そもそも火葬する必要があるの?」とよく質問されますが、火災で焼けて骨になった場合でも火葬するんですよね。お箸でサクっと割れる状態にする、いわゆる「焼骨」にすることが目的なんです。


 普段であれば、お肉がついている人間の形のまま火葬します。人の身体はうまくできていて、その状態で火葬すると骨だけになった時点がちょうど良い焼き加減になるんです。ただ白骨化したご遺体は元々が骨なので、どの時点で火葬が完了したのか判断が難しくなるんですよ。


「動物に身体を食べられ、残っていたのが頭部だけだった」顔だけのご遺体を火葬する難しさ


——下駄さんの中で特に火葬が難しかったご遺体はありますか?


下駄 顔だけのご遺体は難しかったですね。


——顔だけ……?


下駄 森でお亡くなりになった方で、ご遺体が発見されるまでに身体のほとんどを動物に食べられてしまったようで。見つかったときに残っていたのが、頭部だけだったんです。顔だけの状態で、どうやってきれいな焼骨にすればいいのか、初めての経験で悩みました。


——顔だけもそうですが、バラバラであればあるほど焼骨の難易度が上がるということですね。


下駄 いつもと違うから、やはり難しくなりますね。最終的には、ずっと火をつけていればどんな状態のご遺体でもいつかは焼骨になります。でも、火葬場職員としては少しでも早い時間で火葬したいんですよね。


——なぜ早く火葬したいのでしょう?


下駄 例えば、ゆっくり焼くのと早く焼くので15分の差ができたとします。骨は火を当て続けると少しずつ脆くなっていくんです。早く焼き上がった方が、お骨上げの際に綺麗な状態で骨が残るんですよ。


 また、火葬時間を短くすることで冷却時間を確保できます。例えば火葬からお骨上げまで2時間の場合、1時間の火葬なら1時間の冷却時間がとれますが、1時間半かかってしまうと、30分しか取れません。


 そうすると、充分に冷めない状態でお骨上げをすることになるから、ご遺族に怪我や火傷をさせてしまうリスクが出てくるんです。それを防ぐためにも、火葬時間はなるべく短くしたいんですよね。


「バラバラのご遺体を火葬した場合、骨を並べ直すかどうか」火葬場職員が独断で判断してはいけないワケ


——火葬場の職員には、想像以上の臨機応変さが求められるのですね。


下駄 そうですね。ただ、どんな場合でも、基本的には職員1人で判断しないという原則があるんです。例えばバラバラのご遺体を火葬した場合、当然バラバラの状態の焼骨ができあがります。


 この骨を、もとあった場所に並べ直すのか、バラバラのままにするかは悩みどころです。骨を並べ直して「きれいにしてくれた」と喜ぶ方もいれば、「勝手に触られた」と不快に思う方もいますから。


 先ほど話した、“小石”についても同じです。ご遺体と一緒に小石が入っていたら「なぜきれいに取り除いてくれなかったのか」と不快に思う方もいれば、その状態を見て「これが現実なのか」と受け止める方もいます。


 こうした判断は火葬場職員ではなく、最終的には葬儀屋さんに委ねます。葬儀屋さんはご遺族と直接話す機会が多いから、ひととなりやご意向もある程度把握している。とにかく、火葬場職員が独断で判断しないよう心がけていますね。


——火葬場の先輩や上司よりも、ご遺族との関係性がある葬儀屋さんに相談するわけですね。


下駄 最近は、ご遺族を第一に考える火葬場が増えてきています。以前は、火葬してもらわないと困るから、葬儀屋さんはもちろんご遺族よりも火葬場の方が立場が上、と考えているところがあったんですよ。ご遺族の意向なんておかまいなしに、好き勝手振る舞う火葬場職員も少なくなかったんです。


 でも、火葬場の事情がオープンになるにつれて、職員の考えも少しずつ変化してきた。今でも、古い考えのまま経営している火葬場はありますが、それよりもご遺体やご遺族のことを最優先に考えるところが増えてきていると思いますね。


殺人事件によるご遺体も、火葬場に運ばれてくる


——書籍の中では、火葬の時点では不慮の事故で亡くなったと思っていたけれど、後日殺人事件の被害者で、犯人は火葬場で夫の死を深く悲しんでいるように見えた妻だった……という話も描かれていました。


下駄 書籍に書いた話は、僕と同じように火葬場で働いていた友人から聞いたものです。いわゆる殺人事件によるご遺体も、火葬場に運ばれてきます。ただ、書籍と同様に、殺人事件かどうかは後から知ることが多いですね。


——ご遺体が運ばれてきた段階では、死因が事件性のあるものだったかどうかわからないわけですね。


下駄 そうです。ご遺体は亡くなってすぐに運ばれてくるから、その時点では何が原因かはっきりとはわからないことも少なくありません。火葬が終わってしばらくしてから、ニュースを見ていたら「あ、この方は先日火葬した方だ」と気づくことが何回かありました。火葬するときに、顔と名前は確認しますから。


撮影=細田忠/文藝春秋

〈 「東日本大震災は死者が多すぎた」「火葬が追いつかないから海岸沿いに遺体を埋めて…」元火葬場職員が語る、“災害大国”日本で火葬場が果たす役割 〉へ続く


(仲 奈々)

文春オンライン

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