わが社で中居問題が発生! 被害者に「会社は守ってくれない」と言われないために、会社は何をすべき?
2025年4月7日(月)22時5分 All About
中居正広氏による性暴力問題で露呈したフジテレビの対応のまずさ。被害者を守るべき企業が二次被害を引き起こした背景には何があったのか。同じ過ちを繰り返さないために企業が学ぶべき危機管理の教訓を解説する。(画像出典:pixta)
フジテレビの元女性アナウンサーが、中居正広氏から「業務の延長線上の性暴力」を受けた問題で、フジテレビ側の「対応のまずさ」が被害者をさらに苦しめ、退職にまで追いつめていたということが、第三者委員会の調査によって明らかになったからだ。
「CXが本事案を「プライベートな問題」と認識していることが女性Aに伝わり、「会社は守ってくれない」「会社から切り離された」として孤独感、孤立感を感じさせた(調査報告者 54ページ)」
つまり、彼女を最初に傷つけたのは中居氏ではあるが、その後にPTSDになるほど精神的に追いつめるという「二次加害」を犯したのは、他でもないフジテレビということなのだ。
では、もし今回のような問題が起きた時、被害者から「会社は守ってくれない」と言われないために、会社は何をすべきか。今回の調査報告書からは、これだけは絶対にハズしてはいけないポイントが見えてくる。
経営陣だけで性暴力問題を抱え込まない
それは「絶対に経営陣だけで抱え込まない」ということである。港浩一氏(当時社長)は性暴力の被害に遭った女性が「絶対に誰にも知られたくない」と述べたことを受けて「情報共有範囲」を、自分と大多亮氏(当時専務)、編成制作局長(当時)という「編成部門のトップ3」とアナウンス室長、アナウンス室部長、そして産業医と健康相談室の心療内科医という7人だけに限定した(報告書39ページ)。
そう聞くと「被害者に配慮すれば仕方がないのでは」と思うだろうが、実はこういう「密室対応」が逆に被害者を傷つけることになってしまう。
この手の問題について、役員やそれぞれの部署のトップという「幹部」たちで協議をすると、どうしても「会社を守る」というバイアスが強くなって、被害者は「腫れ物」扱いになりがちだ。
つまり、このような事案には、社員のメンタルヘルスや人間関係を考慮する人事部、総務部、あるいはコンプライアンス推進室などの専門部門が必ず入らなくてはいけない。
素人メンバーだけで密室協議をすると……
しかも、フジテレビの場合、さらに事態を悪化させたのが、これら「密室メンバー」の大半が「世代的にもセクハラや性暴力に寛容なおじさん」ということだ。港氏らは「コンプライアンス」という言葉がまだなかった時代に、わが世の春を謳歌(おうか)したテレビマンで、この分野の感度が悪い。実際、調査報告書には、大多氏の会食に参加した女性から「下ネタ的な性的内容」を含んだ会話が不快だったという意見が収められている。
多くの人気番組に関わってきても、経営者としての教育や経験を重ねてきたわけではないので当然、危機管理対応も「素人」になってしまう。
今回の調査報告書でも「被害者に寄り添った視点・ケアの欠如」が起きたのは、港氏、大多氏、編成制作局長という「編成部門のトップ3」だけが対応を協議し、この3人が頭の中で「こうしておけば被害女性を刺激しないだろう」と一方的に思い込んだことが原因だと批判している。
さらに、港氏らが問題なのは、「素人」のくせに、産業医や健康相談室の心療内科医師という「専門家」らの意見に耳を傾けていないことだ。
調査報告書によれば、被害女性が休職すると、元アナウンス室長は産業医に対してこんなことを言ったという。
「本事案を上にあげたので、あとは僕たち上でやります」
つまり、これから「加害者」である中居氏の番組をどうするのか、会社として被害女性の訴えとどう向き合っていくのかという対応は「上」である港氏、大多氏、編成制作局長らトップ3が中心となって決めていくので、産業医らの世話にならないというわけだ。
実際、港氏らは中居氏の番組を継続したことについて、「被害女性を刺激したくなかったから」という説明を繰り返しているが、これは産業医や心療内科医に相談をしたわけではない。メンタルヘルスの専門知識ゼロの経営幹部が、被害者本人や専門家に聞くわけでもなく、「多分そういうことでしょう」という思い込みで判断していたのだ。
テレビ業界は、コンプライアンスのユルい非常識社会
そこに加えて、港氏らの対応が「最悪」なのは、「外部の意見」も全く取り入れていないことだ。今回の調査報告書のみならず、テレビ朝日の名物ディレクター「ナスD」が経費の使い込みで処分されたことからも分かるように、テレビ業界というのは一般社会に比べてかなりコンプライアンスがユルい。
ネクタイを締めてスーツを着て9時から17時まで働くような世界ではなく、「高視聴率を叩き出した」とか「人気タレントとコネがある」という結果さえ出せば、あまりうるさいことを言われる世界ではないことが大きい。
また、この世界は基本的に男社会だ。しかも、人気タレントや大手芸能事務所という「力」にかしづくカルチャーが浸透しているため「権威に弱いおじさん」が多く、またそのような者は立場の弱い人、特に若い女性を軽視する傾向がある。
事実、「ギョーカイの事情通」を名乗る男性たちは今もなおSNSで、「今回の案件は男女の色恋沙汰でしかない」「結婚を期待していた女性側に対して、中居君がその気がないと告げてトラブルになっただけ」と訴えて、世間をドン引きさせている。
筆者はこれまで報道対策アドバイザーとして金融、製造、交通、IT、外食、食品、小売りなどさまざまな業界の危機管理に携わってきたが、ダントツでコンプライアンスがユルく、女性の人権意識が低いと感じるのはマスコミである。
そういう世間ズレしたムラ社会の中で40年以上も過ごして経営幹部にまでなった人たちには、残念ながら性暴力被害者の対応はできない。いかに自分たちが非常識なのかを知るためにも、外部のプロに相談すべきだった。
問題が起きた時こそ「外部の意見」を
これは他業界にも言える。危機に直面すると経営幹部は問題を抱え込みがちだが、それをやればやるほど社会とのズレが際立って炎上をしてしまう。「これは誰にも話せない」という問題が起きた時こそ勇気をもって「外部の意見」を取り入れていただきたい。
この記事の筆者:窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。(文:窪田 順生)