南海トラフ巨大地震 専門家が「発生時期」を予測!最新の被害想定としておくべき備えとは?
2025年4月10日(木)6時0分 女性自身
「3月31日、政府の作業部会が13年ぶりに南海トラフ巨大地震の新たな被害想定を公表しました。最悪のケースでは、死者数29万8千人、避難民者数は1千230万人、経済被害は国家予算の約2倍にあたる292兆円にのぼるという深刻な内容でした」(全国紙記者)
南海トラフ巨大地震とは、静岡県の駿河湾から九州の日向灘沖にかけてのプレートの境界を震源域とする東海地震、東南海地震、南海地震が連動して発生する未曽有の大災害だ。被害は広範囲にわたり、神奈川県から鹿児島県にかけての24府県600市町村が震度6弱以上、静岡県から宮崎県にかけての10県149市町村では震度7の揺れが起き、関東から九州にかけての13都県に10m以上の津波、高知県と静岡県では30mの津波が襲ってくる場所もあると予測されている。
地震予知学が専門の、静岡県立大学および東海大学客員教授・長尾年恭さんはこう語る。
「地震発生から10分以内に避難することができれば、津波による人的被害は劇的に下がりますが、南海トラフ巨大地震では東京でも10分ほど揺れが続きます。まだ揺れている最中に静岡県や四国には津波が到達する場所があるのです」
このため、深刻な被害予想が公表されたのだ。10年前に南海トラフ巨大地震の被害想定をする作業部会で主査を務めた、関西大学社会安全学部特別任命教授の河田惠昭さんは、今回の政府の発表に関し、次のように指摘する。
「最新の情報を前提にして作られたものだと評価しています。しかし巨大地震には、その前提を覆す危険性があるのです」
まず、津波被害に関して、河田さんが解説する。
「たとえば大阪市の場合、100万人分の津波避難ビルが確保されています。今回の想定では、しっかりと避難場所に避難できることを前提にしています。しかし、震度6強、6弱の揺れが数分にわたって起きた場合、多くの人は茫然自失となってすぐには動けません。
また、大阪市のある地域では、津波の第1波では浸水被害がないため、ハザードマップでは“安全”となっています。ところが、津波は実際には5〜6時間にわたり6波ほど襲ってくる予想もある。そうした地域の人が津波被害に遭うこともありえます。これは東日本大震災でも起きたことです。
さらに、国の想定は、防潮施設などが機能している前提ですが、何度も津波が押し寄せればその機能を維持できなくなる恐れもある。想定以上の犠牲が出る可能性も否定できないのです」(河田さん)
また、最新の被害想定では、東京都や神奈川県での断水人口が人口比1%にとどまっており、埼玉県では死者数がゼロとされている。甚大な被害は西日本で起こるものに目が行きがちだが——。
「埼玉県八潮市での道路陥没事故で浮き彫りになったように、上下水道の老朽化が問題です。千葉県の北西部で15〜25年おきにほぼ同じ場所で、震度5強の規模の地震が起きています。’05年の地震では2カ所の水道管が破裂しましたが、’21年の地震ではそれが30カ所に増えているように、老朽化が着実に進んでいるのです」(長尾さん)
『大人のための地学の教室』(ダイヤモンド社)など多数の著書がある、京都大学名誉教授の鎌田浩毅さんも同様の見解だ。
「老朽化しているのは上下水道ばかりではありません。トンネルや首都高、堤防など、あらゆる都市インフラに崩落や決壊の危険性が潜んでいるのです。
たとえば都内であっても、水道管が破裂して地下街や地下鉄に大量の水が流れ込めば、水死者も出るでしょう。避難しようと、大量の人がいっせいに移動したら、密集ができて、’22年に韓国の梨泰院で大きな事故があったような“群集雪崩”による圧死者が出ることになります」(鎌田さん)
首都圏の就業および通学者人口はおよそ2千万人。仮に南海トラフ巨大地震が通勤・通学のピーク時に発生した場合、首都圏だけでもそれだけの人が地下鉄浸水や首都高崩落の危機にさらされる可能性があるのだ。
都市型の被害としては、タワーマンションにも注意が必要だ。
「東京都や大阪府、名古屋市で林立するタワーマンションや高層ビルは、耐震機能が万全と思われがちですが、多くの危険があります。なかでも関東ローム層に立つ都内のタワマンは長く揺れ、50階建てで7〜8mほど横揺れする可能性も。すると、家具の固定も無意味で壁ごと壊れます。
エレベーターが止まり、救助まで時間がかかれば、最悪の場合、エレベーター内で死亡することも起こりえるのです」(長尾さん)
多くの犠牲者が予想される南海トラフ巨大地震。発生確率について、政府は今後30年で80%と予測しているが、鎌田さんはさらに踏み込む。
「内陸地震の活動期と静穏期の周期を統計的に分析する方法で導き出されたのは、’38年ごろに発生するという結果です。いっぽう、過去の南海地震後の地盤の動きの規則性から分析すると、’35年に起こる。
約5年の誤差を見込むと’30〜’40年が危ない。つまり、発生時期は’30年代だと考えています」
いまからできる備えは何か——。
「自宅や勤め先などでの避難方法をきちんと把握しておき、非常用の防災リュックを常備しましょう。また、長期間自宅で過ごすことが求められるため、飲料水(大人1人あたり1日で3リットルが目安)やレトルト食品などを1カ月分は確保しておきましょう」(長尾さん)
早ければ5年後に襲ってくる未曽有の巨大地震。最悪のケースを想定して、できる限りの準備を進めることが不可欠だ——。