なぜフランスでは店員の接客が「塩対応」なのか。日本の「お客さま優先文化」とは異なる対等な関係性

2025年4月22日(火)20時15分 All About

海外のレストランやスーパーでは、日本に比べて店員の接客が淡白なことがよくあります。フランス在住の筆者も多くの「塩対応」を経験しましたが、今回はどうしてそうなるのか、理由や背景を現地からお届けします!

フランスの店舗では、店員と客との間に「上下関係」がほとんどありません。街中のスーパーマーケットでは、目の前に客がいてもスタッフ同士で楽しそうに会話をしていたり、混雑していてもレジが1つしか開いていなかったり。飲食店でもスタッフの対応はフレンドリーというより「あっさり」で、人によっては冷たく感じることもあるかもしれません。
さらに印象的なのは、そんな「塩対応」が受け入れられているフランスの社会です。おもてなしが標準装備の日本から見ると、「そんな対応で本当に大丈夫なの!?」と驚きつつも、スタッフに過度なサービスを求めない文化に、少しうらやましさを感じることもあるでしょう。
店舗によって接客スタイルは異なりますが、今回は現地から「どうして彼らは塩対応になるのか」をリポートします!

店員も客も同じ人間

フランスのスーパーやブティック、カフェでよく感じるのは、店員の対応がとてもフラットであるということ。へりくだるわけでもなく、時にはジョークを飛ばしながら、客と「対等な立場」でいることが大きな特徴です。日本では「お客さま優先」という考え方が基本ですが、フランスは客も店員も同じ人間であり、店舗のルールを優先するといった意識が根付いているように感じます。
フランスで暮らす筆者が最も驚いたエピソードといえば、「スーパーの店員が客に愚痴をこぼしていた」件でしょうか。筆者が以前にレジの列に並んでいた時のことです。前の客への対応を終えた店員が突然、「さっきの客、ボンジュールもメルシーも言わなかったわ」と、別の客に向かって不満をもらし始めたのです。
店員にはあいさつをするのが基本中の基本とされているフランス。それをとある客がしなかったということで、店員が別の客に愚痴をこぼしている姿に筆者は衝撃を受けました。そして、それを聞いた客が「失礼だよね」と共感していた姿にも、さらに驚いたのです。日本であれば、店員が客に愚痴をこぼすという光景はまず見られないでしょう。
スーパーでの経験はそれだけにとどまらず、商品をレジ前でポイと投げられたりと、ぶっきらぼうに対応された経験もありました。気になってフランス人の知人に尋ねると、「疲れてたんじゃない?」と、店員に一定の理解を示す声が。その瞬間、「店員も同じ人間だから仕方ないよね」という価値観が、フランス人に自然と根付いているのだと実感したのです。

客より「店のルール」を優先

物心ついた頃からそうした大人たちに囲まれて育ったフランス人は、他人に期待しない・求めないという思考習慣を身に付けていると感じます。「人に優しくしなくていい」という意味ではありませんが、これもまた、個人主義が成せる社会ならではの在り方なのかもしれません。
カフェやレストランでも同じ傾向が見られます。例えば、飲食店のスタッフは「呼ぶ」というより「待つ」。特にパリ中心部では慢性的な人出不足もあって、1人が何席ものテーブルを担当しているため、注文を取りに来るまでかなりの時間がかかることがあります。
それでは手の空いているほかのスタッフが手伝えばいいのでは? とも思いますが、実は他人の仕事を取ってはいけないという暗黙のルールが存在しています。つまり、ここでも店舗のルールが優先されるのです。柔軟な日本の接客スタイルとは大きく異なるところですね。閉店時間が19時であれば、駆け込み客もシャットアウトし平然と店をクローズしてしまいます。
それでも目くじらを立てないフランス人が多いのは、単純な「慣れ」のほか、同様のシステムをよく理解しているからでしょう。そのため、パリのカフェやレストランでは時間に余裕をもって食事をするのがベスト。急いでいる場合は、ノートルダム寺院やルーブル美術館といった人気観光スポット周辺の、混雑した店舗を避けるのもおすすめです。

店員に対して「あいさつ」で礼儀を示す

「お客さまをお待たせして申し訳ない」という気持ちがほとんどないフランス。つい日本と比べて、「もう少し融通が利けばいいのに」と感じた経験も、これまでに何度かありました。しかし、そんな塩対応が当たり前のフランス人からすれば、日本の丁寧な接客に感動するのは当然のことかもしれません。
筆者自身も、フランスのさっぱりとした接客に慣れてしまったせいか、たまに優しく対応されると逆に驚いてしまいます。ただ1つ、どんな場面でも共通していると感じるのは、「こちらから笑顔でボンジュールとあいさつする」こと。これが、冷たい対応をぐっと減らすコツかもしれません。
先に述べたように、欧米諸国は「あいさつ」にかなり厳しいです。フランスも同じで、「いらっしゃいませ」の代わりに必ず「ボンジュール」とあいさつをします。ですので「私はここに来ましたよ」という意味を込めて、こちらから先に言葉を発することで、店員に対して礼儀正しく、良い印象を与えることができます。
日本とは少し様子が異なりますが、あいさつをしない人は無礼とみなされるのがフランスの文化。筆者の周りでも、このあいさつをきっかけに店員と打ち解けて会話を交わす場面が、何度か見られました。
もちろん、全てのフランス人店員が冷たいわけではありません。新しくオープンしたパリの店舗では、フレンドリーな対応で人気を集めている場所もあります。どこの国でも、心のこもったサービスを受けたときに「また来たいな」と思う気持ちは、やはり共通なのだと実感しています。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。
(文:大内 聖子)

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