東証元社員のインサイダー事件、初公判で起訴事実認める…「父親に喜んでもらいたい」と情報提供
2025年4月24日(木)23時37分 読売新聞
東京証券取引所
業務で知った企業の未公表情報を父親に伝えたとして、金融商品取引法違反(情報伝達)に問われた東京証券取引所元社員(27)と、情報を基に取引したとする同法違反(インサイダー取引)に問われた父親(58)の初公判が24日、東京地裁(大川隆男裁判官)であり、2人はいずれも起訴事実を認めた。
検察側は「証券市場全体の信用を損なう悪質、重大な犯行」として2人に懲役1年6月、罰金100万円などを求刑。弁護側が執行猶予付きの判決を求めて結審した。判決は5月9日。
起訴状によると、東証の「上場部開示業務室」で企業の適時開示に関する相談に対応していた元社員は昨年1〜3月、業務で知った上場企業の株式公開買い付け(TOB)に関する未公表情報3件を父親に伝え、父親は計1万5200株(計約1707万円)を買い付けたとされる。
検察側は冒頭陳述で、2023年9月に同室に配属された元社員が、株取引で利益を上げられずにいた父親から、未公表の情報を提供するよう頼まれるようになったと指摘。元社員は当初、依頼を断っていたが、「父親に喜んでもらいたい」と考えるようになり、次第に電話や対面で情報を提供するようになったと述べた。情報を悪用した父親は不正取引で約409万円の利益を上げていたとした。
被告人質問で元社員は、犯行の動機を「ほとんど会話がなかった父親との関係改善につなげたかった」と説明。違法性は認識していたとしつつ、「一度情報を伝えると、歯止めがかからなくなった。感覚がまひしていった」と語った。
父親は、不正な取引はしないと約束した上で情報を聞き出していたことを明かし、「認識が甘かった。息子には申し訳ない」とうなだれた。
検察側は論告で「一般投資家には知り得ない重大な情報を入手できる立場を悪用した犯行だ」とした。弁護側は最終弁論で「
東証を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)は昨年12月、元社員を懲戒解雇し、今年1月には役員3人について報酬減額などの処分を公表した。企業の未公表情報を共有する社員の範囲を最小限に制限するなどの再発防止策も明らかにしている。