eスポーツの腕、人手不足の建設業界が期待…建機の遠隔操作と親和性「未経験でも働ける可能性」
2025年4月25日(金)15時0分 読売新聞
コンピューターゲームなどの腕前を競う「eスポーツ」の技術を、人手不足に悩む建設業界に生かそうとする動きが出ている。建設機械を遠隔操作する動きがゲームの操作感覚に近いためで、7月には大阪・関西万博で競技会が行われる。国土交通省も遠隔施工の活用に向けてルールを策定しており、業界の垣根を越えた取り組みの実用化が期待される。(千葉支局 渋谷功太郎)
高校生ら、7月に万博で競技会
千葉県柏市で、ショベルカーが土の山を移動させていた。運転席は無人で、操作は、近くの小屋にいる、eスポーツを学ぶ「KONAMI eスポーツ学院」(東京都)に通う高校生らが行った。課外活動として、操作方法を10分程度で教わってすぐに操作していた。
2年の生徒(17)は「ゲームに近い感覚で操作できた。建機を操るのは想像以上に楽しかった。自宅でも操作できるようになれば就職先の選択肢にもなる」と話した。同学院の梅村成樹校長は「教育施設として進路の幅を広げることは重要。人手不足に悩む建設業界に貢献できるならウィンウィンだ」と説明する。
建設業界の人手不足は深刻になっている。総務省の労働力調査によると、就業者はピーク時の1997年は685万人だったが、2024年は約7割の477万人に減った。
解決策の一つとなるとみられるのが、遠隔施工の普及だ。自宅やオフィスから建機を操る技術が普及すれば、女性や障害者なども働きやすく、多様な人材を確保できる可能性が広がる。
遠隔施工の社会実装に向けて取り組む「運輸デジタルビジネス協議会」(東京都)は、プロゲーマーらを招いて建機を遠隔操作する競技会を開催。プロゲーマーが建機の専門家をタイムで上回ることもあったという。
7月には、同学院の生徒らを大阪・関西万博に招き、大阪から千葉県内の建機を操作する競技会を開き、日本の先端技術として世界に披露する。同協議会の鈴木正秀事務局長理事は「eスポーツと建機の遠隔操作は親和性が高く、業界未経験でも働ける可能性がある。普及すれば、今までの業界イメージを覆せる」と話す。
国土交通省は遠隔施工の普及を後押ししようと、昨年3月に安全ルールを策定し、必要に応じて立ち入り制限エリアを設定することや、監視の責任者を置くことなどを定めた。
ネックとなるのがコストだ。遠隔施工システムを開発する「ARAV」(東京都)によると、装置は受注生産のため数千万円かかるという。同社の白久レイエス樹代表は遠隔施工について、「国や自治体の工事で発注の要件に入ることが重要。需要が増えれば価格も抑えられるので、導入が広がるだろう」と話している。